鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

先日、キネマ旬報シアターに行きました。

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この日のラインアップはこんな感じ。

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観たのは「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(2017年5月27日(土)公開)。

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2017年のキネマ旬報ベストテンで日本映画のベストワンを獲得したということで、キネマ旬報シアターで3/2まで2週間の上映が行われていました。

石井裕也監督が最果タヒの同タイトルの詩集を基に、東京で生きづらさを抱えながら生活する慎二と美香が偶然出逢い、次第に関係を深めていくラブストーリーとして映画化した作品。劇中では、原作の詩集の一節(と思われるフレーズ)が主人公の声によって語られます。

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入ったのは148席のスクリーン2。平日夜の最終上映回でしたが、観客は10人ほど。周りを気にせずゆったり観れるのはありがたいですが、ちょっと寂しい入り。

夜の東京の景色は、刹那的で救いの見えないどんよりとした雰囲気に映ります。その中で、歩きながら、バスを待ちながら、スマホをいじる群衆が風刺的に描かれます。東京の今をリアルに写したようでありながら、このスマホの群衆だけは戯画的にデフォルメされています(私自身は違和感がありましたが…)。

2人の生活には、多くの人が普通に暮らしているよりも、死が色濃く漂っています。美香が昼間看護婦として勤める病院ではしばしば患者が亡くなり、慎二が日雇いで働く建設現場では仲間の智之が突然倒れて命を落とし、本を貸してもらうなど交流のあった老人は熱中症で亡くなり、腰を痛めて仕事が十分にこなせず日雇いの仕事を辞めていく岩下にも、その後の死の予感が漂います。

そうした世界の中で、慎二は左目の視力をほとんど失っていること、美香は子どものときに母が自分を残して自殺したことなどが、おそらく棘のように刺さっていて、生きづらさ、また自分が周囲とどこか違うことを感じながら、何とか社会につながっています。

その2人が、最初は居酒屋で、次に美香が夜に働いていたガールズバーで、そして東京の街中で偶然に出逢います。互いに自分と近い部分があることを直感した2人は、少しずつその距離を縮めていき、一緒に生きていくことを決意するところで、映画は終わります。

観て良かった。

うまく表現できませんが、今の時代の暗部も写しながら、どこか違和感を抱いて生きていても、ほのかに明るい希望、未来をつかむことはできる、というようなメッセージを感じました。

細かい部分では、うーむと思う部分はあります。前述のスマホ群衆もそうですし、何か気付いた場面で一々「えっ」と声を上げるのも、わざとらしい感じがして、映像だけで示すことができるはずなのにもったいないなぁと思いました。また、慎二が左目が見えないことを表すためにスクリーンの左半分を隠した画像が何度か出てきたり、世界の半分しか見ることができないという趣旨のセリフがあったりもしましたが、片目を塞いでみればすぐわかるように、視野が半分になるのではなく、見える世界は同じで遠近感が掴みにくくなるだけのはずです。

とはいえ、全体を通して観れば、そうした点は些細なことで、2人の内心の棘と、それが少しずつ寛解していく道のりを素直に受け止めることができる作品でした。

昨年5月に公開されたこの映画、ミニシアターなどでは上映が続いているものの、既ににBlu-rayやDVDも発売されていて、映画館で観るのはなかなか難しいかもしれませんが、DVDなどでも、観ておく価値のある作品だと思います。

余談になりますが、この映画、配給が東京テアトルで、前年のキネマ旬報ベストワンの「この世界の片隅に」と共通です(制作委員会に朝日新聞社が入っているのも共通しています)。どこの配給かが選考に影響したとは思いませんが、大衆向きというより、批評家・玄人向きの作品が選ばれやすいこの賞の特徴が表れている気がします。

「この世界の片隅に」映画館上映スケジュールまとめ(3/10~3/16)

(3/13修正)3/16のイオンシネマ2館の上映予定等を反映しました。
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来週も上映予定の映画館の週末からの上映スケジュール一覧です。

konosekai.jp

この週は、旗艦館というべきテアトル新宿で1週間の再上映が行われるほか、立川シネマシティでも片渕監督特集の一環として1週間の再上映が行われます。いずれの館でも、3/10(土)の上映後に片渕監督の舞台挨拶が予定されています。

◯3/10(土)~3/16(金)
茨城県・土浦】土浦セントラルシネマズ
10:00(シネマ1:300席)
東京島・新宿】テアトル新宿
[土]10:00 [日~金]10:30(シアター1:218席)※土の上映後片渕監督挨拶、3/16上映終了予定
【東京都・田端】CINEMA Chupki TABATA
[土~火]10:30 [木/金]15:45(20席)※バリアフリー上映(日本語字幕付)、水曜休映、3/31上映終了予定
【東京都・立川】立川シネマシティ
[土]15:20 [日~金]18:25(シネマ・ワンfスタジオ:226席 ※極上音響上映)※土の上映後片渕監督挨拶、日・火・木は日本語字幕付上映、3/16上映終了予定
【長野県・松本】イオンシネマ松本
[土~木]21:10 [金]21:25(スクリーン8:279席 ※VIVE AUDIO)※3/23上映終了予定?
【愛知県・港】イオンシネマ名古屋茶屋
[土/月/水/木]18:40(スクリーン6:100席) [日/火]20:40(日はスクリーン8:100席、火はスクリーン9:152席)[金]18:55(スクリーン6:100席)※3/16上映終了予定?
京都府出町柳出町座
10:00(スクリーン2階:48席)
兵庫県・尼崎】MOVIXあまがさき
[土]11:30(シアター11:312席)※3/10限定爆音映画祭

各日ごとの集計は次のとおりで、1週間分の合計は、8館・延べ49回・8,681席(推定)になります。

・3/10土 8館・延べ8回・1,503席(推定)
・3/11日・3/12月・3/15木・3/16金 7館・延べ7回・1,191席(推定)
・3/13火 7館・延べ7回・1,243席(推定)
・3/14水 6館・延べ6回・1,171席(推定)

(注)基本的に、公式HPの劇場情報で紹介されている映画館について、更新時点でネット上で確認できた情報を基に記載していますが、誤認・誤記がある可能性もありますので、正しくはリンク先の公式サイトなどでご確認ください。
また、スクリーンが複数ある映画館での上映スクリーン番号や、各スクリーンの座席数が公式サイトに明示されていない場合には、便宜上、原則として各種情報サイトから確認できた座席数の中で一番少ない数を「?」を付けた上で記載しています。,

こうの史代「この世界の片隅に」(上巻)

昨年に図書館で予約していた「この世界の片隅に」の上巻、以前借りた下巻から4~5か月経って、予約してから1年とまではいきませんが、ようやく順番が回ってきて読むことができました。

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この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 

プロローグ的な幼少期の3編と、戦争の直接的な影響が出てくる前の19年7月までの生活を描いて、まだユーモアの色合いが強い巻、 前にも読んだことはありますが、久しぶりに読むと、やはり楽しい。

以前にも書きましたが、当然のことながら、映画で描き方が変わっているところが随所に見て取れます。

マンガの方が可笑しさが込み上げてくるのがこのシーン。 

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楠公飯を食べるシーン。マンガならではの描き方。この直後の、タッチを変えた絵で、馬に乗った楠公がやってきて「まぢうまし」 と楠公飯をお櫃ごと食べ「しからばご免」と去っていく描写も楽しい。

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カナトコ雲のシーン。映画では、後の原爆のキノコ雲を暗示する巨大な雲が描かれますが、上のとおり、原作では雲自体の描写はありません。この辺は、マンガと映画の伏線の張り方の違いがよく出ているように思います。 

やっぱり手許に置いて時折読み返してみたい作品、そのうちちゃんと購入しようと思います(古本にするかもしれませんが…)。