鷺の停車場

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ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3・7・8番/ハーゲン弦楽四重奏団

今回は20世紀の弦楽四重奏曲のCDです。 

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ショスタコーヴィチ
1.弦楽四重奏曲 第3番 ヘ長調 op.73 [1946]
2.弦楽四重奏曲 第7番 嬰へ短調 op.108 [1960]
3.弦楽四重奏曲 第8番 ハ短調 op.110 [1960]
ハーゲン弦楽四重奏団
ルーカス・ハーゲン、ライナー・シュミット(ヴァイオリン)ヴェロニカ・ハーゲンヴィオラ)、クレメンス・ハーゲン(チェロ)
(録音:2005年11月、ザルツブルクザルツブルク大学大講堂)

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番・第7番・第8番

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番・第7番・第8番

 

ハーゲン弦楽四重奏団はもとは兄弟4人で結成されたそうですが、その後ヴァイオリンだった1人が抜け、CDなどで世界的に有名になった頃には今のシュミットに替わっていたようです。それにしても、兄弟みんなこんなにレベルの高い弦楽奏者に育てるなんて相当凄いことです。親の努力も相当あったんでしょうね、おそらく。

さて、本盤は、同団のショスタコーヴィチとしては2枚目の録音で、彼の弦楽四重奏曲の中では比較的有名な作品を取り上げたものといえます(なお、1枚目は本盤の10年前の1995年に録音した4・11・14番ですが、そちらは未聴です)。

ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲は、数は交響曲と同じ15曲であるものの、若くから書かれた交響曲とは異なり、第二次大戦後、特に1960年代以降の晩年に多く書かれています。作品番号(作曲年)でいうと、第1番も作曲されたのは交響曲第5番の後で、第3番は交響曲第9番の直後、第7・8番は交響曲第12番の直前に当たります。

第3番は、次の5楽章からなります。

1.Allegretto(ヘ長調
朗らかに始まり、全体的にも陽気な装いの曲ですが、少し進むとちょっと茶化したようなユーモアが混じってきて、一筋縄ではいかない感じの曲。直前の交響曲第9番の1楽章との共通点も感じさせます。

2.Moderato con moto(ホ短調
3拍子で突き進むヴィオラの分散和音の上で奏されるヴァイオリンの力強い旋律に始まり、途中は、甲高いスピッカートとグリッサンドが印象的。

3.Allegro non troppo(嬰ト短調
激しく叩きつけるようなトゥッティの和音に始まり、2拍子と3拍子が入り混じる激しいスケルツォ交響曲第8番の3楽章と曲調は違いますが、軍隊を思い起こさせる点は共通します。

4.Adagio(嬰ハ短調
冒頭にユニゾンで強奏される主題を繰り返しながら緊張を高め、そして静まっていくパッサカリア

5.Moderato(ヘ長調
ロンド・ソナタといえばいいのでしょうか、再び長調に戻ってきますが、1楽章のような軽快さはなく、より柔和になった感じです。途中、突如として緊張が高まり、4楽章のテーマをヴィオラとチェロがffで奏しますが、再び静まり、静かに終わります。

3~5楽章をはじめ、交響曲第8番との共通点が多く、両端の楽章は長調でありながら、悲劇的な深い音楽。

第7番は、次の3楽章からなりますが、全体がアタッカで演奏されます。

1.Allegretto(嬰へ短調
転げ落ちるようなヴァイオリンに始まるスタッカート主体の曲。

2.Lento(ニ短調
2番ヴァイオリンの分散和音の上で1番ヴァイオリンが高音域で静かに歌う短い楽章。夜想曲という印象を受けます。

3.Allegro(嬰へ短調
速く、激しいフーガに始まり、クライマックスで1楽章冒頭の転げ落ちるメロディが突然出てくると、フーガ主題の変奏のようなワルツに変わり、最後は嬰ヘ長調の和音で静かに終わります。

第8番は、ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲では最も有名な曲ではないかと思います。後にルドルフ・バルシャイによって弦楽合奏に編曲され、「室内交響曲」(op.110a)として演奏されています。
ファシズムと戦争の犠牲者の思い出に捧ぐ」とされ、たった3日間で一気に書き上げられたといわれます。交響曲第10番の3・4楽章に出てくる、ショスタコーヴィチのイニシャルと言わるれD-S(Es)-C-H(ドイツ語読みの場合)のモチーフが全体を通じたテーマとして、各楽章に出てきます。この曲も、全体がアタッカで演奏されますが、次の5楽章からなります。

1.Largo(ハ短調
チェロが弱奏するDSCHモチーフに始まり、フーガの形で発展した後、ヴァイオリンが半音階的に動くメロディが始まりますが、節目節目にDSCHモチーフが出てきます。最後に静まったと思ったところで、ユニゾンロングトーンが猛烈にクレッシェンドして、2楽章になだれ込みます。

2.Allegro molto(嬰ト短調
激しく打ち込まれる和声と絶え間なく動き続ける4分音符の細かい動きが強烈な、緊張度の高いスケルツォ。描き方は違えど第3番の3楽章に共通するものがあります。
「4分音符の細かい動き」と書きましたが、実際に聴くと16分音符のように聞こえます。それもそのはず、楽章冒頭のスコアを見てください。

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2/2拍子ですが、全音符=120という尋常ではない速いテンポが指定されています。結果、耳で聴くと1小節が1拍の4拍子のように聞こえることになります。上で引用したのは冒頭の18小節ですが、これをたった9秒ほどで通り過ぎることになります。
この激しい動きの中で次第に音程を高めていき、緊張が極限に高まると、1番ヴァイオリンとヴィオラが激情的なメロディを歌う下で、2番ヴァイオリンとチェロが4分音符の3連符(=1小節に6音)で飛躍の大きい分散和音を弾くクライマックスに達します。ここでもDSCHモチーフが効果的に出現します。後半は圧縮された形で前半のテーマが繰り返され、2度目のクライマックスの途中で突然音楽が断ち切られ、3楽章に移ります。

3.Allegretto(ト短調
一瞬の間隙の後、ヴァイオリンが変形されたDSCHモチーフを高音で強奏し、それを受けたヴィオラが音域を下げながら緊張を和らげて、主部に入ります。スタッカートが主体のDSCHモチーフを奏する主部に入ります。軽やかでありながら、寂寥感の漂う楽章です。

4.Largo(嬰ハ短調
「タ・タ・タ」と打ち込まれる和音の強奏で始まり、途中では力強いメロディがトゥッティで奏されます。これまで表出を禁じられていた熱い思いを顕わにしたような曲。

5.Largo(ハ短調
1楽章と同様に、チェロがDSCHモチーフを奏し、順次他の楽器も重なってくるフーガ風の動きで始まりますが、やがて1楽章と違う形で発展していき、心揺さぶられるようなクライマックスを迎え、最後は静かに曲を閉じます。

ハーゲン弦楽四重奏団の演奏は、表現主義的といっていいのでしょうか、個々の音が短めでパキパキと鋭いということではなく、むしろ音自体は気持ち長めなのかもしれませんが、ショスタコーヴィチの音楽の持つ鋭利さを際立たせるかのような表現が印象に残ります。

手元にある他の演奏と比べてみました。

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ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全集、ピアノ五重奏曲op.57、弦楽八重奏のための2つの小品op.11
ボロディン弦楽四重奏団スヴャトスラフ・リヒテル(Pf:op.57)、プロコフィエフ弦楽四重奏団(op.11)(録音:1978年~1983年、1968年(op.11))

ボロディン弦楽四重奏団の演奏は、ハーゲンの演奏と比べ、個々の音の立ち上がりなどより鋭いですが、表現自体は、より素直な感じがします。といっても、大人しい演奏ということでは全くなく、楽譜を素直に音にすることで、もともと曲が持っている鋭利さ、悲劇性といったものが自ずと身に迫ってくるような演奏で、個人的には、聴き慣れていることもあって、こちらの方が好み。

こちらの全集版は既に廃盤のようですが、上記の3曲を含めた選集であれば、まだ入手が可能なようです。