鷺の停車場

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ヤナーチェク:グラゴル・ミサ

ヤナーチェクのCDをまた1枚。 

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ヤナーチェク
1.グラゴル・ミサ[1927]
2.消えた男の日記[1919]
[1]ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団・合唱団、イヴリン・リアー(S)、ヒルデ・レッスル=マイダン(A)、エルンスト・ヘフリガー(T)、フランツ・クラス(Bs)
[2]ラファエル・クーベリック(Pf)、エルンスト・ヘフリガー(T)、ケイ・グリフェル(A)、女声合唱
(録音 [1]1964年11月、ミュンヘンヘラクレス・ザール [2]1963年11月、チューリヒ

「グラゴル・ミサ」はヤナーチェク最晩年の作品。グラゴルというのは、古代教会スラヴ語に用いられた文字のようで、ヤナーチェクがある雑誌で見つけた、ラテン文字(アルファベット)に書き写された古代教会スラヴ語の典礼文をもとに作曲されたものだそうです。フルート4(ピッコロ持替え2)・オーボエ2・コールアングレ1・クラリネット3(バスクラリネット持替え1)・ファゴット3(コントラファゴット持替え1)・ホルン4・トランペット4・トロンボーン3・テューバ1・打楽器・ハープ2・チェレスタ1・オルガン1・独唱4・混声合唱という3管編成で、次の8曲からなります。
1.Úvod(序奏)
2.Gospodi pomiluj(キリエ)
3.Slava(グロリア)
4.Vĕruju(クレド
5.Svet(サンクトゥス)
6.Agneče božij(アニュス・デイ)
7.Varhany sólo(オルガン独奏)(後奏曲)
8.Intrada(イントラーダ)
1曲目はトランペットとホルンによる輪唱のような掛け合いのファンファーレで始まる華やかな曲。2曲目から6曲目が通常のミサの各曲に相当する部分で、歌詞は、一般的なラテン語によるミサのテキストと基本同じですが、例えば「アーメン」が「アミン」、「サンクトゥス」が「スヴェート」というように通常のラテン語ではなくスラヴ語で歌われるので、耳に入ってくる言葉は全く異なります。

全体に、ヤナーチェク独特の語り口もあって、神への敬虔な祈りというより、スラヴ民族への賛歌とも言うべき情熱を感じます。ミサ曲ではそうない躍動感溢れる部分も多くあります。2曲目は、低弦がうごめくような導入で始まるゆったりした曲。続く3曲目は、一転して高弦やハープ、木管の伴奏でソプラノが軽やかに歌った後、合唱も加わり躍動感を高めていきます。4曲目は、祈るような合唱で始まり、次々と音楽が移り変わっていき、最後は華やかに終わります。5曲目は「聖なるかな」という歌詞から受けるイメージと異なり暗い雰囲気で始まりますが、間もなく明るく躍動的な部分に移っていきます。7曲目は、オルガンのみで演奏される3分弱の曲ですが、冒頭に出てくる2小節のリズムパターンを絶えず繰り返しながら高揚していき、クライマックスで間髪を置かず終曲に続きます。最後のイントラーダは、活気と華やかさがあり、輝かしい未来を祝福するように終わります。

演奏は、全体的には早めのテンポで、ややゴツゴツとしています。オケが不慣れなのか、近年の録音と比べると、細部の詰めは甘い印象ですが、直截な表現は好感が持てます。

「消えた男の日記」は若い男性がジプシーの女性と出会って愛し合うようになり、故郷を捨てて駆け落ちするに至るまでを表現した詩に基づき作曲されたもの。男性の独白を歌うテノールが主体ですが、ジプシー女性を歌うソプラノ、そして女声三部合唱とピアノという編成で、詳細は省略しますが、全部で22曲からなります。

かつて、アバドベルリン・フィルによるズィーテク・セドラーチェク編曲の管弦楽伴奏版を聴いたときは、けっこうな衝撃を受けましたが、原曲はピアノ伴奏なので、より内面の声が響くような印象。クーベリックのピアノも見事。

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、狂詩曲「タラス・ブーリバ」、歌曲集「消えた男の日記」

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、狂詩曲「タラス・ブーリバ」、歌曲集「消えた男の日記」

 

グラゴル・ミサは手元にいくつかCDがあるので、ちょっと聴き比べてみます。  

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ヤナーチェク
1.グラゴル・ミサ[1927]
2.シンフォニエッタ[1926]
カレル・アンチェル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団・[1]合唱団、ヴィエラ・ソウクポヴァー(A) 、リブシェ・ドマニーンスカー(S) 、ベノ・ブラフト(T)、エドゥアルト・ハーケン(Bs) 、ヤロスラフ・ヴォドラーシカ(Or)
(録音 [1]1963年4月14~20日[2]1961年1月9~11日、プラハ、芸術家の家)  

Karel Ančerl: Gold Edition, Vol. 7

Karel Ančerl: Gold Edition, Vol. 7

  • アーティスト: Eduard Haken,Leos Janacek,Karel Ancerl,Orchestr Ceská Filharmonie,Jaroslav Vodrazka,Libuse Domaninska,Beno Blachut
  • 出版社/メーカー: SUPRAPHON
  • 発売日: 2002/10/19
  • メディア: CD
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クーベリック盤とほぼ同時期の録音。
さすがにチェコのオケだけあってか、不慣れな感じは全くありません。表現はクーベリック以上にストレートな印象で、人によってはドライに感じかもしれませんが、生き生きとした音楽の躍動感は見事です。 録音などに多少時代を感じますが、個人的には好きな演奏。

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ヤナーチェク:グラゴル・ミサ[1928]
サー・チャールズ・マッケラス指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、エリーザベト・ゼーダーシュトレーム(S)、ドラホミーラ・ドラブコヴァー(A)、フランティシェク・リヴォラ(T)、リハルト・ノヴァーク(Bs)、プラハフィルハーモニー合唱団
(録音 1984年1月27~29日、プラハ、芸術家の家) 

ヤナーチェク:グラゴル・ミサ

ヤナーチェク:グラゴル・ミサ

 

上の2枚から20年ほど後の録音。デジタル録音ということもあって、今回紹介するCDの中では録音としては一番聴きやすいと思います。マッケラスはDeccaにヤナーチェクのオペラをほとんど録音するなど、ヤナーチェクを得意とする指揮者。演奏も全体がよく整っていて、無難な印象もありますが、初めて聴くにはいいのかもしれません。なお、5曲目の終わりの方は、自筆譜などの研究の反映なのでしょうか、他の3枚とちょっとバージョンが異なっています。 

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1.ヤナーチェク:グラゴル・ミサ[1927]
2.ツェムリンスキー:詩編第83番[1900]
3.コルンゴルド:過越の祝いの詩編 op.30[1941]
リッカルド・シャイー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団、[1・3]エヴァ・ウルバノヴァー(S)、[1]マルタ・ベニャチコヴァー(Ms)、ヴラディーミル・ボガチョフ(T)、リヒャルト・ノヴァーク(Bs)、トーマス・トロッター(Og)
(録音 1997年6月9~13日、ウィーン、コンツェルトハウス)

ウィーン・フィルとしては珍しいジャンルに属する1枚と言えるでしょう。教会風に残響を多めにとった録音で、テンポもややゆったり目の印象。他の3枚と比べると、録音のせいもあり落ち着いた雰囲気で、アンチェル盤ほどの躍動感あふれる感じはありませんが、アンサンブルもよく整っていて、盛り上がりに欠けるところもありません。好みはありそうですが、優れた演奏。なお、カップリングのツェムリンスキーとコルンゴルドは世界初録音のようです。