鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

「イヴの時間 劇場版」

イヴの時間 劇場版」(2010年3月6日(土)公開)をDVDを借りて観ました。

「イヴの時間 劇場版」 [DVD]

「イヴの時間 劇場版」 [DVD]

 

映画の舞台は、アンドロイドが広く普及した世界。ロボットは献身的に人間に奉仕するが、それにより仕事を奪われる人や、アンドロイドに精神依存する「ドリ系」と呼ばれる人の増加が問題視されている。高校生のリクオ福山潤)は、家のハウスロイド(家事用アンドロイド)のサミィ(田中理恵)のログに、不審な行動記録があることに気付く。その場所をクラスメイトのマサキ(野島健児)と探すと、行き着いたのは、人間もロボットも区別しないことがルールという喫茶店イヴの時間」だった。その店では、アンドロイドも表示を義務付けられている頭上のリングがなく、人間もアンドロイドも関係なく思い思いに過ごしていた。リクオとマサキはそこで店員のナギ(佐藤利奈)や少女アキコ(ゆかな)などに出会い、次第に、人間とアンドロイドとの関係について思いを深めていく、というもの。

元々は吉浦康裕監督が脚本・演出も手掛けネット配信された15分×6話のアニメ(未視聴)で、映画は基本的にその総集編ですが、新たなシーンも加えて再編集されているようです。

リクオとマサキは、それぞれ事情は違いますが、アンドロイドの振る舞いに傷ついた過去があります。マサキは、反ロボット団体で活動する父親との関係もあって、家にハウスロイドがいることを隠し、アンドロイドに批判的な態度を見せますが、その根底には、幼い頃、信頼していたハウスロイドのテックスが突然話さなくなった(実は父親の命令によるものだった)ことで裏切られたと感じた経験がありました。そうしたリクオたちのアンドロイドに対する屈折した感情が、「イヴの時間」で、アンドロイドたちが人間であるご主人への仕え方に悩むさまを見たりする中で、次第に氷解していき、それぞれのハウスロイドと「和解」するに至る過程が、お店にやってくるアンドロイドたちとのエピソードを交えながら描かれます。

アンドロイドたちは、人間に危害を加えてはならない、人間の命令には従わなければならない、自己をまもらなければならない、というロボット三原則に厳格に規律されているのですが、その絶対的な行動原理の枠内で、単に義務的に仕えるのではなく、主人である人間のためを思い、どのように行動すれば良いかを考え、悩む姿は、単なるロボットというより、人間と同様の感情を持っているように思えます。そうしたアンドロイドが主人である人間に持つ思いと、主人である人間がアンドロイドに持つ思いが、かつては、ねじれの位置にあるかのようにすれ違っていたものが、交わるようになっていくまでの描写は心打たれるものがあって、予想以上に感動的な作品でした。特に、マサキとテックスの和解のシーンは、涙なしでは観ることができませんでした。

広く万人に受け入られやすい設定ではないかもしれませんが、観て良かったと思いました。