鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「教誨師」

昼ごろに池袋で用事があったので、2時間半ほど早く出て、池袋で映画を観ることに。

f:id:Reiherbahnhof:20181016001642j:plain

f:id:Reiherbahnhof:20181016001705j:plain
来たのは池袋シネマ・ロサ

f:id:Reiherbahnhof:20181016001732j:plain
この日のラインナップ。

大杉漣の最後の主演作となった「教誨師」(10月6日(土)公開)。気になっているのですが、単館系が中心の全国20数館での上映、近くの映画館では上映しそうにないので、池袋シネマ・ロサにやってきた次第。

f:id:Reiherbahnhof:20181016001852j:plain

f:id:Reiherbahnhof:20181016001905j:plain

f:id:Reiherbahnhof:20181016001914j:plain
上映は2階のシネマ・ロサ1、朝イチの回は自由席でした。193席のスクリーンですが、お客さんは20人弱という感じ。

5分の予告編、映画泥棒の後、本編が始まります。

f:id:Reiherbahnhof:20181016002014j:plain

f:id:Reiherbahnhof:20181016002026j:plain
(劇場でもらったチラシ)

多少ネタバレになってしまいますが、以下のようなあらすじ

教誨師として拘置所を訪れるようになった佐伯保(大杉漣)が、教誨室で死刑囚と個々に面会し、対話する。佐伯の問いに無言で全く答えない鈴木(古寛治)。気のよいヤクザ組長の吉田(光石研)。ホームレスで読み書きができない進藤(五頭岳夫)。よくしゃべる大阪のオバチャンの野口(烏丸せつこ)。我が子を思う気の弱い小川(小川登)。頭が良く佐伯に攻撃的な言葉を投げつける若者の高宮(玉置玲央)。

佐伯は、死刑囚たちの話を聞き、聖書の言葉を伝えてその心を静めようとするが、必ずしもうまくいかない。野口は聖書の言葉を伝えようとする佐伯に苛立ちをぶつけ、高宮は命の大切さを説く佐伯に動物はどうなんだ、死刑で命を奪うのはどうなんだ、という感じで答えに窮する質問を佐伯に投げる。悩みながら死刑囚と向き合う佐伯は、それまで眼を反らしていた自分の過去とも向き合うことになる。

年末が近付くにつれ、死刑囚たちの様子に変化が出てくる。死刑が執行されるのはいつもその時期なのだという。執行されるのが自分になることの恐怖から、取り乱す死刑囚も出てくる。

そうして、12月26日の朝、死刑囚の1人に死刑が執行される。執行に立ち会う佐伯の前に連れてこられた本人は、ショックで立つことも話すこともできない。佐伯が聖書の一節を朗読しようとすると、本人は手を振ってそれを拒む。佐伯が本人への思いを伝えると、衝動的に佐伯を抱きしめるが、看守にすぐに引き離し、刑が執行される。

その後も、佐伯と死刑囚との対話は続いていくのだった・・・。

監督・脚本は佐向大大杉漣がエグゼクティブ・プロデューサーを務めています。

感想を整理して書くのが難しい作品。

始まってまず驚くのが、画面が今ではほとんど見なくなった横幅の狭いスタンダード・サイズであること。映画のほとんどの場面は教誨室での佐伯と死刑囚の対話劇ですが、その閉ざされた空間の印象をさらに強めています。

カメラが教誨室を出るのは、途中一度だけ挿入される佐伯が自分の過去を振り返る回想シーン、死刑執行の日、最後の面会から執行までのシーン、映画の最後、教誨室を出て迎えに来た妻の運転で家路に向かうシーンの3つだけ。観ているときは引き込まれて気付きませんでしたが、拘置所の外のシーンでは今の映画で一般的なビスタサイズになっていたようです。

最初の方は、人を替えながら教誨室での死刑囚との対話シーンが何十分も続くので、退屈に感じてしまうところもありました。これは、演出だけの問題ではなく、最初のうちは佐伯と死刑囚との対話がうまく進まず、ギクシャクした対話が多いというストーリー展開もあったでしょう。しかし、中盤、佐伯の回想シーンが挿入された後くらいからは、グッと心をわしづかみにされるような感じがあって、この映画のクライマックスであろう死刑執行の日のシーンは、何故か自分でも分からないままに泣きました。佐伯の熱心な指導でひらがなを書けるようになった進藤が佐伯に渡した「あなたがたのうちだれがわたしにつみがあるとせめうるのか」という書き置きも重く響いて、エンドロール、佐伯が歩いていく後ろ姿に、大杉漣さんの作品はもう観れないんだという思いも混じって、再び涙が流れました。

非常に制約のある設定の中で、緊迫したドラマが描き出されているのは、カメラワークなど演出の巧みさもあるのでしょうけど、ほとんど表情とセリフだけで演じる俳優陣の好演あってのことだろうと思います。ほぼ出ずっぱりの大杉漣はもちろんですが、高宮役の玉置玲央は特に印象的でした。

死刑囚と教誨師という、ほとんど語られることのない世界を丁寧に描き、死刑のこと、魂の救済とは何か、など、いろいろなことを考えさせられる作品でした。