鷺の停車場

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映画「彼女の人生は間違いじゃない」

少し前になりますが、映画「彼女の人生は間違いじゃない」(2017年7月15日(土)公開)をBlu-rayを借りて観ました。 

彼女の人生は間違いじゃない [Blu-ray]

彼女の人生は間違いじゃない [Blu-ray]

 

廣木隆一監督が、自身の小説を映画化した作品。

福島県浜通り仮設住宅に父(光石研)と暮らすみゆき(瀧内公美)。
みゆきは平日は市役所で働きながら、週末になるといわき駅から高速バスに乗って東京に向かい、渋谷のデリバリーヘルスで仕事をしているが、父には英会話教室に通っていると嘘をついている。

農業を営んでいた父は、東日本大震災で妻を亡くし、原発事故で田んぼが汚染されて農業ができなくなり、補償金をパチンコにつぎ込み、夜は酒を飲む日々。そうした父にある日、みゆきは苛立ちをぶつけるが、現実はそう簡単に変わらない。

一方、みゆきの市役所の同僚の新田(柄本時生)は、復興のために仕事に尽力するが、卒論の取材に来た女子大生の質問に言葉が詰まり、仕事でも住民の理解が得られなかったり、家では原発事故で家族関係が狂わされたりして、辛い思いをしている。

みゆきには付き合っていた元彼(篠原篤)がいたが、震災がきっかけで気持ちが離れて別れていた。その彼が、みゆきとよりを戻したいと何度かやってくるが、みゆきは涙ながらに拒む。

週末になると渋谷でデリヘル嬢として働くみゆきは、かつて自分をスカウトし、客の待つラブホテルまで送迎するデリヘル従業員の三浦(高良健吾)に何か通じるものを感じているが、三浦は、送迎の車中で、子どもができた、そろそろ潮時だとみゆきに語る。

新田は、被災地を取材し写真を撮る山崎沙諸里(蓮佛美沙子)に、写真をみんなに見せたいと頼み、地元で小さな写真展を開く。それを見にきた父は感じるものがあったのだろう、漁師に船を出してもらい海に出る。津波にのまれ遺体が見つからなかった妻に涙ながらに呼びかけ、海に遺品を投げ入れる。

そんなある日、みゆきがデリヘル店に出勤すると、三浦の代わりに知らない新人がいた。三浦は劇団の俳優で芝居のために店を辞めたのだという。みゆきは、下北沢の劇場に三浦の芝居を見に行く。芝居を見て心打たれたみゆきは大きな拍手を送り、デリヘル店に勤めることになった時の三浦との対話を回想する。みゆきはデリヘル店には戻らず、高速バスで帰る。

福島に戻ったみゆきは、ペットショップで子犬を買う。父には公園で捨てられていたと言うと、父も子犬を気に入って可愛がる。そこに三浦から産まれた娘の写真が送られてきて微笑むみゆき。こうして続く日常。父は、再び田んぼに向かうようになるのだった。・・・というあらすじ。

以下、感想です。

震災、そして原発事故で生活が狂わされ、心に傷を負った人たちが、それぞれ五里霧中の中で未来を探し求める姿を描いた作品。特に前半は、放射能の影響で生活の基盤が失われた福島県沿岸部の厳しい現実に、観ていて辛くなる場面も多くあって、救いのない、やるせない気持ちになりましたが、後半、袋小路に入ってしまったような現実を少しずつ動かす種が芽を出すように、最後はほのかに希望を感じさせるエンディングだったのは救い。市役所職員が週末はデリヘルで働くという設定は突飛ですが、最後の方の回想シーンを見て、閉塞感に自分の精神が壊れそうになるのから逃れるには、現実的にそうしかなかったのだろうと思えました。

みゆきを演じる瀧内公美の演技は、作品で大きい役割を果たしています。全体にそことなく漂う虚無感、ちょっとしたしぐさや表情ににじみ出る感情など、強い印象を受けました。元彼に再び付き合ってほしいとアタックされ、ベッドで互いの気持ちを確かめたいとホテルに誘い、涙ながらに別れを告げる場面、三浦との最初の出会いの回想シーンなど、体当たりの迫真の演技は、心に迫るものがありました。