鷺の停車場

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カルロ・ゼン「幼女戦記」第1巻 "Deus lo vult"

幼女戦記」を劇場版→テレビアニメ版と見て、カルロ・ゼン著の原作小説も手に取ってみました。

幼女戦記 (1) Deus lo vult

幼女戦記 (1) Deus lo vult

 

現代日本で合理主義的でリアリスティックなサラリーマンとして生きてきた主人公が、信仰に服させようとする「存在X」によって戦乱の時代の孤児ターニャ・デグレチャフとして転生させられ、生き抜くために軍人となる物語。

博識なのか軍事オタクなのか、にわかに判断つきませんが、本筋と密接に関係するわけでもないものも含め、過去の史実・エピソードなどのうんちくがふんだんに織り込まれる語り口は独特。分かりにくいキーワードには、丁寧にページの余白に注釈も付けられています。辛辣で合理主義的&リアリストの主人公のキャラクターを出す仕掛けという面もあるのでしょう。情報量が多くてストーリーを追っていくには読みにくい面はありますが、退屈な感じはしません。

これだけの情報量をそのままにアニメ化するのは不可能なのはすぐ分かります。

アニメ版では、基本的に主人公のターニャの目から見た戦争が描かれますが、原作は、ヴィーシャ、レルゲンを始め、様々な登場人物の視点で語られ、アニメ版では省略されている各国の諸情勢の説明なども説明されています。

そうしたことも含め、アニメ版では省略されている背景が描かれていて、読むのに手間取る面もありますが、読んでいくと、より腑に落ちるという感じ。

章建ては次のようになっています。

  • 第〇章:プロローグ
  • 第一章:北辺の空
  • 第二章:エレニウム九五式
  • 第三章:ラインの護り
  • 第四章:軍大学
  • 第五章:始まりの大隊

なお、意外にも、ライン戦線での戦闘など、主要な部分は、具体的な時期が明示されていない部分が多く、第1巻の本文で時期が明示されているのは、次の程度。

西暦2〇13年02月22日 主人公が東京駅ホームから突き落とされる。

(以下は統一暦)

1914年07月18日 首都ベアリーン某所の孤児院でターニャに転生したことを認識する。(表紙裏に添付されているターニャ年表によると、生後3か月)

1923年06月 少尉任官されたターニャが北方軍管区ノルデン戦区第三哨戒線で初戦闘、アンソン中佐率いる協商連合魔導部隊と交戦する。

1923年 ターニャ、銀翼突撃章を授与される。

(この間、クルコス陸軍航空隊試験工廠での本国戦技教導隊付き・総監部付き技術検証要員→軍大学→ライン戦線での第二〇五強襲魔導中隊小隊長→小佐に昇進し第二〇三航空魔導大隊の編成・訓練に従事)

1924年09月24日 ランシルヴァニア地方トゥオーラ郡 帝国軍野戦演習場で、新設した第二〇三航空魔導大隊が査閲を受けるが、ダキア軍が国境侵犯との一報が入り、途中で中止される。

1967年06月27日 ロンディニウム WTN記者室でアンドリュー記者が「第11番目の女神」の謎を探索する。

副題の"Deus lo vult"(デウス・ロ・ウルト)とは「神がそれを望まれる」という意味のラテン語だそうです。そういえば、ターニャがクルコス陸軍航空隊試験工廠で技術検証要員として従事していた頃の場面で、マッドサイエンティストの主任技師シューゲルが神の啓示を受け信仰に服した後にこんな言葉を発していた気がします。

テレビアニメ版でいうと、第1話「ラインの悪魔」から第5話「はじまりの大隊」の前半あたりまでに対応している感じでした。もう少し読み進めてみようと思います。

ところで、「ターニャ」とはロシアでは女性に多い名前の1つである「タチアナ」の愛称なのですが(なお「カーチャ」は「エカテリーナ」の愛称です)、ターニャもロシア系という裏設定なのでしょうか。姓が「フ」で終わるのもそれっぽいですし。