鷺の停車場

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カルロ・ゼン「幼女戦記」第8巻 "In omnia paratus"

カルロ・ゼン著の小説「幼女戦記」、第8巻に進みました。

幼女戦記 8 In omnia paratus

幼女戦記 8 In omnia paratus

 

第7巻に続いて、あらすじ紹介を兼ねて、時期が明示されている場面を列挙してみます。

(以下は統一暦。小説の登場順)

第一章:とある記者のみる東部戦線

大戦後 ロンディニウムにて:かつての従軍記者アンドリューが、ドレイク将軍にかつての東部におけるハーバーグラム閣下やミスター・ジョンソンの話、特殊工作作戦について聞き出そうとするが、ドレイク将軍はしらばっくれようとする。

1927年06月08日 東部戦線―多国籍軍司令部:従軍記者として連邦に入ったWTNの若手記者アンドリューがドレイク中佐を取材する。

同日 大会議室―17時:ミケル大佐による記者団向けの会見が行われるが、「通訳」の政治将校のリリーヤ・タネーチカ中尉が実質的に記者団に対応する。会見が終了して間もなく、レルゲン戦闘団の魔導中隊来襲の警報が鳴る。子どものような帝国軍魔導師を見つけ思わずカメラを向けたアンドリューは、取材規制に引っ掛かり、フィルムを取り上げられてしまうが、来襲を知っていたかのような対応ぶりにその根拠を尋ねると、ドレイク中佐は、軍事機密だと語る。

第二章:アンドロメダ前夜

1927年05月26日 連邦領内/中央戦区多国籍軍部隊駐屯地:ハーバーグラムの命により連合王国の連絡要員として連邦に入った情報部員の「ジョンおじさん」ことミスター・ジョンソンは、ドレイク中佐に帝国軍が余勢を駆っての大攻勢を企図しつつあること、帝国政府と参謀本部の対立でゼートゥーア中将がB集団の閑職に飛ばされるらしい、有能な軍政家が参謀本部からいなくなると聞いて本国の専門家は喜んでいると伝える。

同日 帝都ベルン/中央駅:B集団の査閲担当に左遷されたゼートゥーア中将をルーデルドルフ中将が見送る。ゼートゥーアはルーデルドルフにB集団の実質的な指導を委ねる。

1927年05月28日 東部戦線/東部軍前進拠点:参謀本部より呼び出されたターニャは、ゼートゥーアが待っていたことに衝撃を受ける。ゼートゥーアはターニャに帝国軍が実行しようとしているアンドロメダ作戦を説明し、司令部中隊として一個魔導中隊を召し上げると告げ、サラマンダー戦闘団に連邦軍の囮となり鉄道路線上にあるソルディム528陣地を死守することを命ずる。

1927年06月09日 ソルディム528陣地:狙いどおり連邦軍に包囲されるサラマンダー戦闘団。持久戦に備え兵力温存を命ずるターニャ。

第三章:アンドロメダ

1927年06月10日 東部方面B集団司令部:ソルディム528陣地包囲の知らせに、予想していたゼートゥーアは予備戦力を投入しての救援を主張し、その作戦の立案・研究を要請する。

1927年06月14日 東部戦線:ソルディム528陣地で連邦軍の攻撃を受けるサラマンダー戦闘団。ターニャは敵魔導部隊の迎撃のために魔導部隊を引き連れて出撃する。敵魔導部隊の劇的な質的向上に驚愕するターニャだったが、何とか連邦軍魔導部隊を追い返しす。質的向上の理由を考えるターニャは、連邦が、監獄送りになっていた旧体制時代の軍人が投入されていると気づく。

1927年06月16日 東部戦線B集団司令部—高級将校執務室:サラマンダー戦闘団救援を求めたものの、現状を前に煩悶するゼートゥーア中将。十全に充足されていない帝国軍部隊が世界と戦うことが可能なのかと悩む。

同日 参謀本部:工業生産地帯への爆撃などで補給線よりも供給がボトルネックになりつつあるとのウーガ中佐の報告に頭を抱えるルーデルドルフ中将は打開策に悩む。

第四章:会敵/交戦

1927年06月18日 東部戦線/ソルディム528陣地:連邦軍の大規模攻勢の動きに、迎撃態勢を準備するサラマンダー戦闘団。魔導中隊を率いて第一線陣地付近に進出したターニャは無造作に転がる敵兵の遺体に義憤を覚えつつ、連邦軍を撃退する。

1927年06月18日 東部戦線B集団司令部—作戦会議室:レルゲン戦闘団の包囲されて1週間以上が経過して、頭では見方を見殺しにするのは許されないと分かっていても、心ではB集団の厳しい状況下で挑戦することをためらう参謀たち。ゼートゥーア中将は、戦略予備のクラム師団長を引き連れ、機動戦で救援に向かう。

同日 ソルディム528陣地:ゼートゥーア中将から「レルゲン戦闘団」宛てに「レルゲン大佐」は速やかに「所定の」行動を開始せよ、との命を受けたターニャは、命令の真意が何かを考えるが、機動戦による解囲作戦だと気づき、「レルゲン大佐」は速やかに「所定」の行動を開始す、と返信を命ずる。それを受けたゼートゥーア中将は、行動を察する予測可能性、与えられた目的に沿って自律的に判断し得る柔軟さを持った、卓越した参謀将校たると感じる。

第五章:ポケット

1927年06月18日 東部戦線/救援部隊最先鋒:クラム師団長を戦闘に、ソルディム528陣地に突進する帝国軍。ゼートゥーアは、帝国軍戦車砲の直撃を受けても健在な敵戦車に衝撃を受ける。他師団の支援もあって進撃するが、連邦軍部隊が陣地変更して反応、高級将官にも被害が出るが、ゼートゥーアは作戦を継続する。

同日 ソルディム528陣地:ゼートゥーアが自分を囮にする作戦と分かったターニャは、連邦軍を後ろから挟み撃ちにすべく、魔導部隊を引き連れて出撃する。

同日 連邦軍攻囲第一線付近:ドレイク中佐は、敵陣地からの魔導反応の激減に気づき、敵魔導師が引き抜かれたと確信し、敵陣地への突撃戦を進言するが、政治将校は首を縦に振らない。それを聞いたメアリー・スー中尉は独断で帝国軍魔導部隊を追って飛び上がっていく。それを追ってドレイクも出撃する。

同時刻 東部戦区空域・第二〇三航空魔導大隊最先鋒:多国籍義勇魔導部隊の来襲に気付いたターニャ、連邦軍魔導部隊も合流し、予想外の戦闘に苦戦するターニャたち。何とか振り切るが、目的地付近で待ち伏せされていた。ゼートゥーアを護衛するグランツ中隊と挟み撃ちにして何とか追い返すが、途中の戦闘のせいで弾が尽きる。

第六章:ハンス・フォン・ゼートゥーア

1927年06月18日深夜:連邦軍は入念に用意されていた事前計画を遅滞なく発令し完璧に近い対応だった。スー中尉の飛び出しが怪我の功名で、損害を限定的にしていたが、予見し得なかったターニャたちの挟撃により致命的な一撃を受けたのだった。ゼートゥーア中将は、賭けに勝ったのだった。

1927年06月19日 東部戦線/帝国軍追撃部隊:残敵掃討・追撃を命ぜられた第二〇三航空魔導大隊は、敵魔導部隊の駆逐に向かう。

同日 多国籍軍 殿(しんがり):後退戦闘のしんがりを務めるドレイク中佐、ミケル大佐たち魔導師部隊。スー中尉の暴走で13人の魔導師を失っていた。スーに退路確保を命ずるドレイク。

同時刻/帝国軍第二〇三航空魔導大隊:敵魔導部隊が二個大隊規模であることを確認すターニャ。隊列を整えて迎撃しようと向かう敵部隊だったが、意表を突いた陽動・反転に、ターニャたちは追撃の機会を失う。

連邦・モスコー某所―人民に奉仕するための内務人民委員部執務室:帝国軍B集団に敗北の報告を受けるロリヤ。帝国軍の主力部隊を食い止め、アンドロメダ作戦を失敗させたことに一応満足するが、ターニャを捕獲するための追跡部隊を提案する。

東部戦線B集団 仮設前進司令部/旧ソルディム528陣地:ゼートゥーアは、ターニャにアンドロメダ作戦の頓挫を告げ、このままでは道がない、戦争を終わらせるためには、内なる課題に勝利しなければならないと語り、本国での「予防的な外科的措置」をほのめかす。我々はおそらくそうせざるを得ないと語るゼートゥーアにターニャは、逃れられないとあれば覚悟は決めなければならない、何事があろうとも、驚くことのないように、と思うのだった。

 

副題の"In omnia paratus"(イン・オムニア・パラトゥース)とは、「起こり得る全てに備えよ」といった意味のラテン語だそうです。最後のターニャの思いの部分に対応しているのでしょう。

「恐るべきゼートゥーア」が何を意味するのかまだよく分かりませんが、この東部戦線での数的劣位を補う戦術家としての能力も一因なのでしょうか。明示的には書かれていませんが、どうやら連邦軍は帝国軍の電信を解読し、帝国側の作戦を把握した上で、入念に対策を準備している様子がうかがえます。人的・物的にも資源が不足する中で、情報戦でも劣位に立つとなれば、実際の歴史どおり、今後の勝ち目はなさそうです。