鷺の停車場

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鴨志田一「青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない」・「青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない」を読む

電撃文庫から出ているライトノベル青春ブタ野郎」シリーズの続き、第3巻・第4巻に進みました。

青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない」

青春ブタ野郎シリーズの第3巻。この巻は、咲太の友人3人の1人である双葉理央の物語。

章立ては以下のようになっています。

  • 第一章 不思議が不思議を呼んできた
  • 第二章 青春はパラドックス
  • 第三章 友情は時速四十キロメートル
  • 第四章 大雨の夜にすべてを流して
  • 終章 花火のあとに残るのは夏の思い出

テレビアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」との関係でいうと、おおむね、

小説第1章「不思議が不思議を呼んできた」と第2章「青春はパラドックス」の「3」までが、アニメ第7話「青春はパラドックス」に、

小説第2章の「5」あたりから、第3章「友情は時速四十キロメートル」、第4章「大雨の夜にすべてを流して」と終章「花火のあとに残るのは夏の思い出」がアニメ第8話「大雨の夜にすべてを流して」に、

それぞれ対応しています。なお、小説第2章の「4」は、理央の症状の原因を探るため、咲太が女子アナの南条文香と会うシーンですが、アニメ版ではカットされています。

中学時代、女性としての身体の成長が早かったため、男子から好奇の視線を向けられ、自分の体の女性的な部分を嫌うようになった理央。高校に入って、佑真、咲太が友人となったが、その2人とも彼女ができたことで、またひとりになってしまうのではないか、という不安から、誰かに構ってほしくて、SNSの裏アカウントに自撮り画像をアップするようになる。見られることへ嫌悪感を捨てられないもう一方の自分。理央は、相反する目的と手段の間の強烈なストレスを感じて、意識が分離してしまったのだ・・・というあらすじ。

親も不在がちで、中学生の頃はひとりでいることをさほど苦に感じていなかったのに、高校生になって、佑真と咲太という友人ができて、それを失って再びひとりになってしまうことを強く恐れる理央の思いは、分かるような気がします。他の巻もそうですが、こうした、思春期の不安定な心情をうまく掬っています。

第1巻・第2巻の部分は、テレビアニメでは小説1巻分をおおむね3話で描かれていましたが、この第3巻の部分は、テレビアニメでは2話で描かれたため、原作小説を読むと、アニメ版では描かれなかった部分がより多くなっている印象。上に書いた南条アナのシーンもそうですし、翔子さん/翔子ちゃんとのシーンなどもそうです。第2章の冒頭、咲太が翔子さんとの思い出を夢に見て回想するシーンの、『ごめん』と言われるのは好きじゃない、『ありがとう』と『がんばったね』と『大好き』がわたしが好きな言葉、という年上の翔子さんの言葉が、第4章の後半、咲太から年下の翔子ちゃんに伝えられる場面も、個人的には印象深いシーンでしたが、アニメではカットされています。この第4章の場面では、咲太が倒れて運ばれた病院で、最近家に姿を見せなくなった翔子ちゃんにばったり会い、翔子ちゃんが、移植手術が受けられなければ中学校を卒業するのは難しいかもしれないと医者から言われる難しい心臓の病気にかかっていることが明かされるのですが、アニメでは、翔子ちゃんが心臓病であること自体、最後まで出てきません。確かに、テレビアニメ版で描かれた物語の展開には直接関係せず、回収もされないので、ばっさりカットされたのでしょう。劇場アニメ化される第6巻以降に展開される物語では大きな伏線になってくるようなのですが。

青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない」

青春ブタ野郎シリーズの第4巻。この巻は、咲太の恋人の麻衣の母親違いの妹、豊浜のどかの物語。

章立ては以下のようになっています。

  • 第一章 シスターパニック
  • 第二章 冷たい戦争はじめます
  • 第三章 シスコンではありません
  • 第四章 コンプレックスこんぐらちゅれーしょん
  • 終章 秋が連れてきた

テレビアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」との関係でいうと、おおむね、

小説第1章「シスターパニック」と第2章「冷たい戦争はじめます」が、アニメ第9話「シスターパニック」に、

小説第3章「シスコンではありません」、第4章「コンプレックスこんぐらちゅれーしょん」と終章「秋が連れてきた」がアニメ第10話「コンプレックスこんぐらちゅれーしょん」に、

それぞれ対応しています(なお、小説第4章の「3」は、咲太と理央が話す場面を除いて、アニメ第11話「かえでクエスト」の冒頭部に移されています。)。

麻衣の母親と父親が別れた後、その父親と別の女性との間に生まれた2歳下の豊浜のどかが、母親と仲違いして麻衣を訪れ、一晩泊めてもらったのだが、お互いの見た目の身体が入れ替わってしまう。
母親の他の女のところに行った父親へのあてつけで劇団に入り子役として芸能界にデビューした麻衣。芸能界で大活躍する麻衣をお姉ちゃんと慕い憧れて劇団に入ったのどかだったが、麻衣のように活躍することを期待する母親からは麻衣と比べられ、怒られてきた。麻衣の活動休止後、アイドルグループの一員としてデビューして、母親は多少優しくなり、褒めてもらえるようになってきたのに、麻衣の活動再開で、再び強いプレッシャーを受けるようになっていたのだ。
解決策が分からない2人は、仕方なく、外見に従って、のどかは麻衣、麻衣はのどかとして、学校に行き、芸能人として活動することになる。麻衣としての仕事をする中で、麻衣の高いプロ意識にスタッフから寄せられる大きな信頼や期待に強いプレッシャーを感じ、麻衣のようにはなれない、なりたくないと痛感したのどかは・・・というあらすじ。

端的に言えば、過干渉な母親の期待にこたえて喜ばれたいと頑張ってきたのどかの、自分探し&親離れを描いた作品。

互いの身体が入れ替わるという設定は、作品中でも一応理論っぽい説明はなされているものの、非現実的ではあります。それでも、憧れと嫉妬を抱いていた異母姉の活動を、身体が入れ替わったことによって、自ら実体験することで、外からでは見えなかったことが見えてくる、というストーリーは、面白いと思いました。

それにしても、のどかの外見になってから、誰にも強制されることなく自ら地道にトレーニングを積み重ね、ライブではのどか本人以上に素晴らしいパフォーマンスを見せてしまう麻衣のプロ意識の高さは、フィクションとはいえさすが。のどかと違って親離れして自らの意思で芸能活動を再開した麻衣の強さということなのでしょうね。