鷺の停車場

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カルロ・ゼン「幼女戦記」第10巻 "Viribus Unitis"

カルロ・ゼン著の小説「幼女戦記」、しばらく間が空きましたが、第10巻を読んでみました。

幼女戦記 10 Viribus Unitis

幼女戦記 10 Viribus Unitis

 

物的・人的資源の量的な差から、客観的には、敗北は時間の問題となってきた帝国軍。その中で、最適解を見い出そうとするルーデルドルフやゼートゥーア。レルゲンはルーデルドルフの命を受けイルドアとの交渉に活路を求め、ターニャは参謀本部直属の部隊として、ルーデルドルフやゼートゥーアの命の下、各地の重要な作戦に投入され、その高い能力をいかんなく発揮するが、帝国の将来に、自分の身の振り方を考え始める。

 

これまでと同様、あらすじ紹介を兼ねて、時期が明示されている場面を列挙してみます。

(以下は統一暦。小説の登場順)

第零章:プロローグ

1927年07月25日 帝都:ターニャは、軍、官僚、政治の3つの頭がバラバラの目標を追求するキメラ状態の現状に、転職の意を固くする。

第一章:青写真

1927年07月26日 帝都、帝国軍参謀本部:レルゲン大佐が外務省のコンラート参事官と会談。コンラートは軍のこれまでの対外的な説明不足を指摘しつつ、出口戦略に向け軍と行政が協力しようと呼びかける。

同日 参謀本部作戦局―参謀次長室:コンラートとの会談結果をルーデルドルフ中将に報告するレルゲン。ルーデルドルフはコンラート参事官と密接に連携するようレルゲンに命ずる。
 昼食後、自分の執務室に戻ったレルゲンをターニャが訪れる。レルゲンは、ルーデルドルフからの機密文書をゼートゥーア中将に届けた後、西方のロメール中将の下に行ってもらうとターニャに伝える。

同日 帝国軍参謀本部 晩餐室:ロメールは満員御礼の晩餐室に、状況の変化を実感し、ルーデルドルフの執務室に向かう。ルーデルドルフは、ゼートゥーアに機密文書を搬送させるため、ターニャの着任はロメールの希望よりも遅れると伝える。

第二章:詐欺師

1927年07年29日 東部戦線:緩やかな後退を繰り返すゼートゥーアの采配に困惑する将校たち。

同日 東部方面軍『査閲官』執務室:ゼートゥーアは自分の執務室で、後退を続けながら種を蒔いている今後の作戦に思いをめぐらせる。そこに中央からの公用史としてターニャが訪れ、ルーデルドルフからの封緘書類2通を手渡す。ゼートゥーアは東部戦線の状況についてターニャの見解を求める。そこにゼートゥーアの極めてラディカルな戦略再配置を読み取るターニャだが、次の手を問われてターニャが出した作戦案は戦況に釣られたもので、ゼートゥーアは自分の考える戦略的奇襲の手応えを感じる。ゼートゥーアが地図の1点を示すと、瞬時にその意図を理解するターニャは、その作戦のための陽動を命ぜられる。ゼートゥーアはターニャに帝国軍前線の戦意についての極秘報告書を読ませる。6割が勝利に懐疑的というその内容に、ゼートゥーアは成功体験の必要性を語る。

1927年07年31日 連邦領 多国籍義勇軍駐屯地:連邦軍のミケル大佐付き政治将校から届けられた機密書類を読むドレイク中佐。そこには、ゼートゥーアのお茶の好みまで帝国軍の敵情が赤裸々に描かれ、そして、帝国軍の意図をほぼ分析し終えていた。その翌日、ドレイク中佐は予想通りに帝国軍と会敵する。

1927年08月01日 東部—多国籍義勇軍警戒空域:連邦軍の分析どおり、ラインの悪魔が現れる。ゼートゥーアが意図的に形成した突出部は罠で、連邦軍の脆弱な連絡線を狙っていると確信するドレイクは、どこか臭いと感じつつ、ミケル大佐たちと迎撃に向かう。高度一万まで上昇するターニャに、限界高度差を感じるドレイクだが、スー中尉が迎撃に向かう。ターニャはペアのヴィーシャとともに、タイミングを見計らって降下して攻撃に向かう。多国籍軍は大きな被害を受け、ドレイクもターニャに攻撃され、仕留められかけるが、かろうじて踏みとどまり、自爆覚悟の爆裂術式を発動する。最大速度で突っ切って戦列を離れる2人だったが、それを追いかけるスーが莫大な魔力で長距離術式で攻撃してくる。かろうじてそれを回避するターニャは、さらに空間座標爆破を繰り出すスーに、それを利用して敵軍を誤爆させようと考える。

同日 東部戦線連邦軍:ゼートゥーアの狙いを分析し、突出部の連絡線に万全の予備隊を配置していた連邦軍は、ラインの悪魔の登場に、リベンジの期待に希望を募らせる。

同日 帝国軍東部方面軍仮設司令部:ゼートゥーアの敵連絡線ではなく敵主戦線への進撃の命令に当惑する将校たち。そこにターニャから敵の誘導に成功との報告が入る。連邦軍が交通の要衝に設けた拠点に突っ込む想定外のゼートゥーアの作戦に、突破される連邦軍

第三章:上司

1927年08月11日 西方帝国軍司令部:東部戦線を離れ、西部戦線に向かうターニャ。司令部に着任し挨拶するも、ロメール以下の高級官僚は、視察旅行で不在だった。そこに、ロメールから移動司令部への出頭命令が下る。
 出頭したターニャに、ロメールは海路からの連合王国本土強襲の作戦を聞かされる。防御のための策源地強襲を主張するロメールに、成算を危ぶむターニャ。動かねば緩慢な死あるのみ、と言うロメールに、交戦国相手に自分の顔が見える形で実績を上げることは、転職に役立つと考え直し、作戦に同意したターニャは、本国の許可を得るため、参謀本部に派遣されることになる。

1927年08月14日 連合王国—郊外:情報部のハーバーグラムのもとに出頭したドレイク中佐は、まず、スーの誤射について説明を求められる。地上の連邦軍は連隊長級を含め甚大な被害を受けたのだ。そして、ドレイクは、スー中尉など一部要員を外すべきと進言する。
 ドレイクが去った後、ラインの悪魔の部隊が西方展開中との帝国軍の暗号を解読した情報と、ターニャと会敵したというドレイクの報告の矛盾に頭を悩ませるハーバーグラム。暗号解読の精度を疑うハーバーグラムだが、情報部の暗号解読には異常はなかった。

第四章:価値証明

1927年08月14日 帝都:作戦案を携えて参謀本部のレルゲン大佐を訪れたターニャは、レルゲンに外務省に連れていかれる。レルゲンの案内でコンラート参事官の執務室を訪れたターニャは、戦争に勝てますか?とのコンラートの問いに、ターニャは、無理です、不可能と断言してもよろしい、と吐き捨てる。その言葉を疑うコンラートに、戦術的勝利によって戦略的劣勢による破綻を先延ばししているにすぎないと断言するターニャ。その意を理解したコンラートは、「講和のための戦争」を求める。
 その帰路、作戦案をレルゲンを押し付けたターニャだが、作戦案は快諾され、レルゲンの実務力で陸海双方を承認させ、決裁にたどり着く。

1927年08月16日 西方方面軍司令部:ロメールの下に戻ったターニャは、決裁を受けた「ドアノッカー作戦」の詳細を知らされ、第二〇三航空魔導大隊に夜間の海峡上空での航空優勢確保を命ぜられる。

1927年08月17日午前1時 第二〇三航空魔導大隊駐屯地:ターニャは部隊員に2週間にわたる作戦の概要を告げる。

同日—海峡上空:海峡哨戒部隊の管制に当たる連合王国航空管制官らはターニャたちの強襲に、即応待機中の部隊を出撃させるが、サウス遊撃管制を破壊される。

第五章:帝国式ドアノッカー

1927年08月25日 連合王国首都某所―ホテルラウンジ:ドレイク中佐はミスター・ジョンソンに、近く本土に来るラインの悪魔を迎撃するよう命ぜられる。

1927年08年26日 連合王国本国:ドレイクに一個航空海兵魔導旅団が用意される。数日の待機の後、情報どおり帝国軍が来襲する。

1927年08月31日 海峡上空:出撃したターニャは、待ち構える連合王国軍に、帝国軍の暗号が確実に解読されていると確信する。同時に出撃した海軍はそれを見て撤退していくが、ターニャは敵の旅団規模の海兵魔導部隊を挑発して統制を乱し、第二〇三航空魔導大隊は練度の低い海兵魔導部隊に壊滅的な被害を与える。

同日 反対側:予備部隊として待機するドレイク中佐は味方が解体されていく様を見て、戦闘の緊急加入を指揮官に要請する。しかし、その指揮官も撃墜され、ドレイクは出撃し指揮権を継承して部隊を率い、第二〇三航空魔導大隊を追撃する。

同日 第二〇三航空魔導大隊:ドレイク率いる精鋭中隊の来襲に意表を突かれるターニャだったが、態勢を立て直し迎撃する。指揮官同士の一騎打ちも辛うじて制し、ターニャたちは引き上げる。

同日―帝国軍西方方面軍司令部:ロメールは作戦の失敗に苛立ちをぶつけ、報告書を読んで連合王国側に情報が漏洩していることを確信する。そこに乗り込んできたターニャとロメールは、暗号が解読されているとの見解で一致する。

第六章:砂時計

1927年09月02日 帝都—参謀本部:今後の作戦について思いをめぐらし、最悪を想定した予備計画について考えるルーデルドルフ。ロメールからは暗号が破られているとの警告も来ていた。形式的な同盟国であるイルドア王国がカギとなっている現状に、イルドアは放置できない、愚策であることは元より承知だが、時間がそれを求めるのであれば、やらねばならんと考えるのだった。
 一方のゼートゥーアは、連邦との戦略的次元でのどうにもならない差に、祖国の未来がこぼれて落ちていく砂時計としか見えない。離れた東部にいるゼートゥーアは、ルーデルドルフが何をするか分からない感覚を抱く。
 その頃、西方占領地域にいるターニャは、ロメールの作戦の頓挫で手すきになった隙に、久しぶりの休暇をとり、ヴィーシャと優雅なティータイムを過ごしながら、戦争の現状に思いをめぐらす。
 そして、レルゲンは、ルーデルドルフから帝都における対叛乱計画の予備計画を示され、問題は時間だ、と告げられる。その帰り、ウーガ中佐の執務室に行くと、机に向かったまま寝入っているウーガが、イルドア侵攻のための機密機動計画のダイヤ編成を秘密裏に検討していることを知り、ルーデルドルフは交渉がタイムリミットまでに成立しなければイルドア侵攻を実行するつもりなのだと悟る。

 

副題の"Viribus Unitis"(ヴィリブス・ウニーティス)とは、「力を合わせて」といった意味のラテン語だそうです。

著者のあとがきによれば、本巻は、帝国という国家の断末魔へ向けた起承転結の起に当たる部分だそう。これまでバラバラだった軍と外務省が、実質的な勝利を断念して、講和という現実的な目標に軌道修正して、無事ソフトランディングできるのか。袋小路に入ったような重苦しい展開ですが、この先に多少なりとも希望のある結末が待っているのか、気になるところです。