鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第2巻、「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜」を読みました。

第1巻の「栞子さんと奇妙な客人たち」が思った以上に面白かったので、続きも借りて読んでみました。

作者の三上さんは実際に古書店で働いた経験がおありだそうですが、それにしても、一般の人にはほとんど知られていないような古書を取り上げて、その本にふさわしい謎を仕込んでいくのは、なかなかすごいと思います。前巻に引き続いて一気読みしてしまいました。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、ごく簡単なあらすじ、各章の概略を紹介します。

プロローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)・Ⅰ

五浦大輔が、一度は辞めたが再び働き出した古書店「ビブリア古書堂」で開店準備をしていると、店主の篠川栞子に呼ばれる。不要な自分の本を店に出すとのことだが、その中に、なぜか同じ『クラクラ日記』が5冊もあったことに、大輔の脳裏に疑問が浮かぶ。

第一話 アントニイ・バージェス時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)

大輔が一人で店番をしていると、桃源社国枝史郎『完本蔦葛木曽棧』を探してくれとFAXが入り、直後に関西訛りの男から電話が掛かってくる。大輔の対応に男は、素人やね、と電話を切ってしまい、客を逃した大輔は落ち込む。
常連客の女子高生・小菅奈緒が大輔に相談したいことがあると店を訪れる。
中学生の妹・結衣が書いた『時計じかけのオレンジ』の読書感想文に、学校から本の内容について注意され、親が買った本の中身をチェックするようになったという。大輔が感想文を預かって栞子に相談すると、栞子は、本当の意味で『時計じかけのオレンジ』を読んでいないと言う。
2008年に出版された現行版は、それ以前の版ではカットされていた最終章を加えた完全版で、結末が全く違っていたが、感想文にはその部分について全く触れていないなど不思議な点があった。
栞子は結衣を店に呼び出し、結衣が『時計じかけのオレンジ』を最後まで読んでおらず、感想文は誰かが書いたものを写したと根拠を挙げて追及し、結衣もそれを認める。
実は、元になった感想文は、かつて結衣が通った小学校に通っていた栞子が4年生の時に書いたものだった。

第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)

大輔が高校時代の友人の澤本と飲んでいると、高校時代に付き合っていた晶穂が姿を現す。亡くなった父が遺した古書をビブリア古書堂に買い取ってほしいという。
2日後、大輔と栞子が晶穂の実家に買取りの査定に向かうと、晶穂の異母姉の光代から、父が生前に何十万円もの売り値がつく本が1冊あるそうだと話すのを聞いたと言われる。
査定をしながら、古書を買った店でなく、わざわざ面識のないビブリア古書堂を指定したことを不思議に思う2人。
光代が言っていたような本は見当たらず、栞子は、買取価格が付かなかった本は査定のやり方が違う大きな新古書店に持っていってはどうかと提案し、晶穂は本を車に積んで先に出発する。買い取る本の整理中に、以前に店に入った『完本蔦葛木曽棧』を探すFAXの切れ端を見つけ謎が解けた栞子が、急いで晶穂を追いかける。
新古書店に着くと、晶穂が本を売るのを止めて持ち帰るところだった。栞子は、その本の中から父が晶穂に贈ろうとした『名言随筆 サラリーマン』を見つけ、父が晶穂に伝えたかったであろう想いを話す。晶穂は涙を流す。
車で買取りから車で戻る途中、大輔は栞子がかなりの高熱なのに気付き、栞子を店の2階にある寝室まで運ぶ。そこで大輔は、廊下の本の山から売ったはずの『クラクラ日記』と女性の絵画を見つける。絵画のモデルは栞子に思えたが、その日付は30年前のものだった。

第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房

帰ってきた文香は、大輔が廊下で見つけた絵画は、栞子と文香の母・篠川智恵子の絵であること、智恵子は結婚前はビブリア古書堂の店員であったこと、10年前に家を出ていったことなどを大輔に話す。その後の休日、ビブリア古書堂に、古書が入ったダンボール箱を抱えた男性がやってくる。男は女性の店員がいないか尋ね、出てきた栞子に足塚不二男の『UTOPIA 最後の世界大戦』はいくらで買ってもらえるかになるか聞く。栞子の回答に満足した男・須崎は、買取票に住所を途中まで書いて出ていってしまう。
栞子は、大輔を連れ、残された段ボール箱の臭いなどから須崎の実家を突き止める。
須崎は2人に、彼の亡き父が藤子不二雄のコレクターで、ビブリア古書堂で後の藤子不二雄の最初の単行本である貴重な『最後の世界大戦』を安価で買ったこと、その時に智恵子が栞子と同様に家を突き止めたが、その方法が分からず、一目で智恵子の娘と分かる栞子がいるのを知って本を持ち込んだこと、訪ねてきた智恵子に父が他の初期作品のコレクションを売ったことなどを話す。家を突き止めた方法が分かった須崎は、藤子不二雄の残りのコレクションをビブリア古書堂に売りたいと言う。
智恵子と須崎の父の関係を推理した栞子は、査定する本を車に積んで帰る途中で、それを大輔に話す。『最後の世界大戦』はビブリア古書堂で買ったのではなく、別の店で盗んだものが誤って持ち込んだ段ボールに紛れ込んだもので、それに気付いた須崎の父は慌てて出ていったが、盗品であることを見抜いた智恵子は家を突き止めて交渉し、それを安価で売ったように偽装する代わりに、コレクションを入手したのだと。さらに栞子は、その智恵子は10年前に栞子に『クラクラ日記』を残して家を出ていったこと、須崎に推理を打ち明けなかったのは古書を買い取れなくなるだろうと思ったからで、母と自分は似ている、自分は一生結婚するつもりはない、結婚しても母のように家族を捨ててしまうかもしれないと打ち明ける。

エピローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)・Ⅱ

2週間ほど経った後、大輔が店に出すよう言われた栞子の本の中に、また3冊の『クラクラ日記』があった。大輔は、母が『クラクラ日記』に託した気持ちが分かった栞子はそれを読まずに処分してしまったが、本の中にメッセージが書き込まれていたかもしれないと思って探している、とその理由を解き明かし、休日に栞子と2人で出掛ける約束をする。

 

第2話で、買取りに向かった先で、高校時代の彼女の晶穂が「大輔くん」と呼ぶのに接して、男の人を名前で呼ぶのってなんだかいいな、と語った栞子は、その帰り、それまでの「五浦さん」から「大輔さん」と呼び方を変え、大輔も「篠川さん」から「栞子さん」に呼び方を変えます。帰宅後、文香は、風邪をおして大輔との買取りに向け準備する栞子の様子はまるで遠足の前日の小学生みたいに楽しそうだったと大輔に語ります。栞子への恋愛感情を自覚している大輔と異なり、栞子には自覚がないようですし、大輔も自分が異性として認識されていないと思っていますが、発露の仕方が独特なだけで、大輔に好意を抱いていることがうかがえます。第3話の終盤で、思い出したくない母親の話を大輔にしたのも、そういう思いの現れだろうと思います。個々の謎解きの面白さもありますが、謎を解いていく中で、この独特な2人の関係が、ほんのちょっとずつ近付いていくもどかしい展開も、このシリーズの大きな魅力になっていると思います。