鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さんと二つの顔〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第4巻、「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さんと二つの顔〜」に進みました。

第3巻までは、一話簡潔の謎解きを3~4話重ねる中で大輔と栞子たちの関係が少しずつ変化していくという展開でしたが、本巻は、全体を通じて一つの謎を解く長編になっています。栞子と大輔の関係、栞子と母親の智恵子との関係も大きく進展します。まだシリーズ全体を最後まで読んでいませんが、シリーズの中で起承転結の「転」に当たる作品になっているのかな、と思いました。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、ごく簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

プロローグ 

東日本大震災の余震が続くある日、ビブリア古書堂の店主の篠川栞子と妹の文香は従姉妹の結婚式に出席するため、その店で働く五浦大輔が1人で店番をしていると、栞子によく似た声の電話が入る。それは、栞子たちの母親・智恵子で、仕事の古書の取引で海外から戻ってきたという。智恵子は店を見下ろせる北鎌倉駅のホームから電話を掛けていたが、また来る、娘たちによろしく、と言い残して電車に乗り姿を消す。

第一話 江戸川乱歩『孤島の鬼』

翌日、大輔が電話があったことを栞子に話していると、篠川智恵子に用事がある、いないなら古書に詳しい人を呼んでほしいと中年女性がやって来る。自分は代理人で、姉が江戸川乱歩の珍しい古書に関係する特別な相談があるという。
栞子は智恵子が何かをしようとしているなら放っておけないと、翌日、大輔と依頼主の来城慶子を訪れる。慶子に会う前に通された書斎には、乱歩が生前に出版した大人向けの著書が雑誌のバックナンバーを含めて全て揃っていた。そこに慶子がやって来る。慶子は喉頭癌で声帯を取っており、震災による怪我で車椅子で生活していた。妹の田代邦代は宮城に住んでいたが、姉の面倒をみるために鎌倉に滞在しているという。
邦代の通訳を介しての説明によると、ここは鹿山明とその父が集めた大好きな江戸川乱歩の本を置くために買った別荘で、慶子はその父の没後に明と知り合って妾としてこの別荘で暮らしており、明の没後、その遺言によりこの家と蔵書を相続したのだという。姉妹は依頼に当たってのテストとして、一冊の江戸川乱歩の著書の初版本を示し、本に触れずに書名を当てることを求めるが、栞子はその書名を言い当てる。
すると、姉妹は旧日本軍の特注の金庫を示し、明が慶子に残した江戸川乱歩に関する何らかの珍品が入っているという金庫を開けてほしいと言う。開けるためには鍵のほかに暗証番号が必要で、それを突き止めてほしい、成功すれば蔵書は全てビブリア古書堂に売るという。栞子が明の人となりについてさらに聞くと、書いてまとめて届けてもらうことになる。帰り際、邦代は、慶子には秘密だが、鹿山家から鍵は見つからなかったという連絡があり、鍵がないかも調べてほしいと頼む。

第二話 江戸川乱歩『少年探偵団』

その日の夕方、大輔が慶子から資料が届いたというのでビブリア古書堂を訪れると、文香と志田がいた。志田は大輔に、ヒトリ書房に行ったら井上からビブリア古書堂の状況についてうるさく聞かれたが何かあったのかと聞くが、文香はヒトリ書房を知らなかった。
栞子に届いた資料は、びっしりと文字が書き込まれた何枚ものレポート用紙で、家系図や明やその父の経歴、明の乱歩作品への評価まで記されていた。明は総合専門学校の経営者として成功し、今は明の息子・義彦が学長を務めているという。2時間もしないうちに届いた資料としてはきちんとしすぎており、栞子はあらかじめまとめていたのだろうと推理する。
邦代は鹿山義彦に改めて連絡をとって翌日の夕方に栞子たちが訪問する約束を取り付けていた。翌日、栞子と大輔が鹿山家を訪ねると、義彦によれば、鹿山家の家族は、慶子はおろか、その家の存在すら遺言状で初めて知ったという。明は生真面目で寡黙な面白みのない人物で、鹿山家では教育方針も厳しく読書やテレビ鑑賞も制限されていたが、江戸川乱歩の『少年探偵団』のシリーズだけは父が揃えてくれて、子どもの頃は妹や近所の子どもと少年探偵団ごっこをして遊んでいたと懐かしげに語る。
栞子は義彦に『少年探偵団 江戸川乱歩全集』と明の書斎を見せてほしいと頼む。義彦の本はポプラ社版だったが、明の書斎から、光文社版の江戸川乱歩全集の特典プレゼントだったBDバッジが見つかる。バッジは各冊に付いた引換券3枚でもらえたもので、光文社版が3冊はあったはずだが見当たらない。義彦は子どもの頃、妹の直美がこれを付けて遊んでいたと言う。栞子が直美にも話を聞きたいと申し出ると、子どもの頃一緒に探偵団ごっこをしていた井上が営むヒトリ書房で働いていると知らされる。
ヒトリ書房に行くと、閉店後だったが、外出している井上の帰りを待つ直美に話を聞くことができる。しかし、直美は、態度だけは厳しくて自分にも離婚をなかなか許さなかったくせに愛人を囲っていた父は嫌いだった、本のことは知らないと強い口調で追い返される。
その翌日、井上が話があると店にやって来る。井上にとって鹿山明は子供の頃の知り合いで、古本屋を始めた当初の経営危機から助けてくれた恩人だった。夫のもとから家出して実家に戻ってきた幼なじみの直美に働いてもらったとき、直美には明のコレクションや取引のことは秘密にしていたが、篠川智恵子が、明や直美の事情を知っていることを仄めかし、鹿山明に紹介するように脅してきたことがあり、井上はそれで智恵子を嫌うようになったという。話を聞く栞子の様子から、井上は、智恵子とは異なり人間らしい隙があると、栞子に対する態度が和らいでいく。井上は鍵を探すついででいいから、明が自分に無関心だったという直美の誤解を解いてほしいと言い、鹿山家を再度調べられるよう義彦を説得してくれる。
栞子たちは鹿山邸を再訪し、井上の画策により戻った直美が秘密の隠し場所を示してくれることを隠れて待つ。そこには、見当たらなかった光文社版の『少年探偵団』シリーズなどが収められていた。井上もその場に現れる。栞子は、そこに収められていた、『少年探偵団』シリーズが連頼されていた雑誌の付録の『少年探偵手帳』の住所氏名欄に、明が直美の名前を記していたことを示す。直美がここにある本を読むことを明は知って認めていたのだ。直美と井上が出て行った後にその場所を確認すると、『大金塊』など4冊が欠けており、鍵もなかった。しかし、直美の話から、別の隠し場所があると気付いた栞子は、その場所を見つけ、残りの4冊と鍵が見つかる。
その足で慶子の家に向かうと、篠川智恵子が訪問していた。

第三話 江戸川乱歩押絵と旅する男

急いで帰ろうとする栞子と大輔に、智恵子は文香に会うことになっているから乗せてほしいと車に乗り込んでくる。ビブリア古書堂に到着すると、母屋の玄関先で文香が智恵子を待っていた。文香は自分には何も残していかなったことを訴えるが、智恵子が残していたと答える。実は、幼い文香は母親がいなくなったことに癇癪を起こしてその本を投げ捨て、栞子が保管していた。その本は安野光雅『旅の絵本』(福音館書店)だった。文香は、お母さんに会いたいと思っているが、もう必要とはしていない、今までのように何も連絡もせず顔を出さないつもりなら、そのうち会いたいとも思わなくなる、そうしたらもうこの家に入れないと智恵子に言う。
智恵子は、翌日には暗証番号を探り出すから、蔵書の買取りは折半しようと持ち掛けるが、栞子はそれを断る。智恵子は大輔と栞子に、あの金庫には『押絵と旅する男』の第一稿が入っていると語る。乱歩自身の手でホテルの便所で破り捨てたとされているものだが、当時そのホテルで働いていたはずの鹿山総吉が捨てた原稿を回収したという推理だった。
智恵子が去ってすぐ、栞子は大輔の運転する車で鹿山家に急ぐが、智恵子は栞子と声が似ていることを利用して電話し、代理人として先回りしていた。しかし、2人は義彦の息子から暗号解読に必要なトリックが仕込まれた二銭銅貨のレプリカを手に入れる。その夜、大輔は暗号が解けないという栞子から電話に、大輔は思いつく限りのことを話し、栞子はそれをヒントに暗号を解読する。
翌日、金庫が開けられた直後、邦代が出かける。何か気付いた栞子は慌ててそれを追いかけつかまえる。邦代は、自分が来城慶子で、邦代と慶子の姉妹は入れ替わっていたことを語る。栞子は、金庫にあった物が明が残した草稿であること、そのペンネームに託された思いを語る。慶子は旅に出発した後、そこに現れた智恵子は、慶子が金庫の中身を2人に偽っていた可能性を語り、それを確かめるために共に追いかけよう、この10年で自分が目にしてきた栞子が知らないこの世界を教えると栞子を誘う。栞子は迷った末大輔とデートの約束を優先して断ると、智恵子は1人で慶子の後を追う。
この事件が解決した次の定休日に大輔は栞子とデートをし、彼女に告白する。

エピローグ 

デートの数日後、栞子の留守を見計らって大輔は志田を呼び出して、智恵子との関係を問い詰める。智恵子が栞子や大輔の近況を知っていたのは文香以外の情報源があると考えたのだ。志田は、自分にとって智恵子は恩人で、時々栞子たちの様子を見てきてほしいと頼まれていたこと、智恵子が篠川家から離れた理由がとてつもなく入手困難な古書を探すためであったことを語る。

 

ポプラ社刊の少年探偵団シリーズは、私も小学生の頃、学校の図書室にあったものをほぼ全て読んだ記憶があります。「孤島の鬼」は読んだことがなく、「押絵と旅する男」も読んだかどうか記憶があいまいですが、最後の暗証番号の解読の部分に出てくる「二銭銅貨」は読んでいます。後に修正されたが初版本には誤りがあり、その誤りっぷりが暗証番号の解読に大きな影響を与えるという組み立ては手が込んでいます。

これまで存在が暗示されるだけだった篠川智恵子が、いよいよ重要な登場人物として現れてきました。おそらく、次巻以降はさらに重要な役割を担っていくことになるのでしょう。

続きはまた改めて。