鷺の停車場

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映画「37セカンズ」

映画「37セカンズ」(2月7日(金)公開)を観に行きました。

本作は、ベルリン国際映画祭で「パノラマ観客賞」と「国際アートシネマ連盟(CICAE)賞」を受賞したのをはじめ、海外の映画祭で様々な賞を受けているそうです。公開後の映画情報サイトなどでの評価も高いようですが、全国43館と小規模での公開、後から上映が始まる館もあるものの、しばらくすると観る機会を逸してしまいそうな気がして、公開初週に行ってみることにしました。

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観に来たのはMOVIX亀有。平日のレイトショーとあって、ロビーに人はまばらです。

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この週の上映スケジュール。

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上映は、この映画館で最も大きい460席のシアター10。中に入るとお客さんは20人弱。これは、もっと入ると思った劇場の読み違いなのでしょう。公開2週目はもっと小さい箱での1日1回の上映になっていました。

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(チラシの表裏)

公式サイトのストーリーによれば、

<生まれた時に、たった37秒息をしていなかったことで、身体に障害を抱えてしまった主人公・貴田ユマ。親友の漫画家のゴーストライターとして、ひっそりと社会に存在している。そんな彼女と共に暮らす過保護な母は、ユマの世話をすることが唯一の生きがい。

毎日が息苦しく感じ始めたある日。独り立ちをしたいと思う一心で、自作の漫画を出版社に持ち込むが、女性編集長に「人生経験が少ない作家に、いい作品は描けない」と一蹴されてしまう。その瞬間、ユマの中で秘めていた何かが動き始める。これまでの自分の世界から脱するため、夢と直感だけを信じて、道を切り開いていくユマ。その先で彼女を待ち受けていたものとは…>

というあらすじ。

 

主役のユマは、オーディションで選ばれた実際に脳性麻痺の障害を持つ23歳(撮影当時)の佳山明が演じています。母親役の神野三鈴、ヘルパー・俊哉役の大東駿介、ユマの友人となる舞役の渡辺真起子といった俳優陣が脇を支えています。

そのほか、ユマがゴーストライターを務める友人の漫画家を萩原みのり、ユマが変わるきっかけをくれたアダルト漫画誌の編集長・藤本を板谷由夏、幼いころに別れたユマの父親の弟を尾美としのり、タイで教師をしているユマの双子の姉・ユカを芋生悠、舞の常連客の障害者をやはり実際に脳性麻痺の障害を持つ熊篠慶彦が演じています。

 

評判どおりのいい映画。今年(まだ2か月足らずですが…)これまで観た実写映画では一番の作品でした。

障害者の性と自立という、陽の当たらないテーマを描いた作品。冒頭のシーンから、障害者の暮らしがリアルに描写され、また、母親の過保護ぶりが象徴的に示されます。

母親の過保護は共依存の関係、母親は自立しようとするユマを自分の籠の中に閉じ込めておこうとしますが、スキを見て逃げ出したユマは、舞や俊哉のサポートもあって、かつて離婚した父親から送られたハガキの住所を訪ねる。そこで自分に双子の姉がいて、タイで教師をしていると初めて知ったユマは、姉に会いに行く。ユマが不在の間、家族の思い出の品を取り出して思いを馳せる母親。帰宅したユマと母親は抱き合い、和解する。ユマは、編集長の藤本を訪ね、自分が変わるきっかけをくれたことに感謝の気持ちを伝える。藤本の求めでユマがアダルトでない漫画の原稿を見せると、それを評価した藤本は他誌の編集長に推薦の電話を入れる。この後半の展開は心に響きました。

障害者だって健常者と変わることなく、恋やセックスをしたいし、ばか騒ぎをしたいときもある、言われてみれば当たり前のことを示され、自分が障害者に多少なりとも偏見、異物感を抱いていたことに気づかされ、考えさせられる映画でした。

監督のHIKARIさんはアメリカで映画を学ばれた方だそうですが、こんな映画を作るとは、才能ある方なのですね。今後の活躍に期待したいと思います。