○ショスタコーヴィチ:交響曲第7番ハ長調 op.60「レニングラード」[1941]
マリス・ヤンソンス指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1988年4月22~23日・オスロ)
先日紹介したラフマニノフ「交響的舞曲」の約1年半後に作曲されたこの曲。
第二次世界大戦中、ソ連のみならず数えきれないほど演奏され、一種のプロパガンダ音楽として大きな成功をおさめてしまった曲。
編成も、3管編成に加え、ピアノ、ホルン4・トランペット3・トロンボーン3のバンダもありますし、打楽器もスコアをざっと見て7~8人は必要ではという大編成。それもあってか、ゲテモノ的な扱いを受けがち。
しかし、この演奏は、そうした先入観を取り払うかのように、ケレン味なく、真っ向から作品に向き合った演奏。
1楽章も、テンポはスコアに比較的忠実で、スネアドラムのリズム打ちを背景に繰り広げられる巨大な展開部も、ことさらに効果を煽るような演出もないですし、重戦車が進んでいくような重々しさを期待すると的外れになりそうですが、奇をてらわない演奏によって、むしろ戦争の狂気のようなものが、図らずも表出されているように思います。
ちょっと残念なのは、金管のバンダのパートがやや威力不足気味なところ。もしかすると、別動隊を確保できず、本来の金管パートがバンダ部分も掛け持ちしていたのかも、と思わせるところもあります。
2楽章以降はさらに素晴らしい。弦、金管もさることながら、木管セクションの奮闘が際立ちます。西側のオケだとfの部分でも綺麗に吹こうとしてか大人しくなりがちなところも、きちんと強奏されていて、これに馴染んでしまうと、他の演奏が物足りなくなります。特に、2楽章中間部のEs-Claのソロや、3楽章冒頭の序奏部分は聞きものです。
演奏は、先に紹介したラフマニノフと同じコンビですが、録音は4年ほど前、まだソ連の崩壊前、レニングラード・フィルだった時代。このオケの常任指揮者として一時代を築いたムラヴィンスキーが亡くなってまだ数か月、オケの実力が遺憾なく発揮されています。
個人的には、このオケ、例えばベルリン・フィルのように個々の能力が特筆されるというタイプではない。想像ですが、楽器も西側のオケに比べれば質が悪かったでしょうし(旧ソ連のいい楽器メーカーは聞いたことがありません)、個々の奏者の腕前だけを比較すれば、欧米にもっと上手いオケは少なからずあったでしょう。
しかし、ややくすんだ音色ながら、アンサンブルを磨いた先にある強靭な響きが、最盛期のこのオケの特徴ではないかと思います。おそらく、練習回数も欧米より多かったのではないでしょうか。
第二次世界大戦初期、ドイツ軍によって包囲されたレニングラードで作曲が進められ、作曲家の故郷レニングラードに捧げられたこの曲の、レニングラード(サンクト・ペテルブルクではなく)のオケによる数少ない録音でもあります。
レニングラード・フィルはムラヴィンスキーの指揮で数多くのCDがリリースされていて、特にショスタコーヴィチはそれぞれの曲のベスト盤と言っても過言ではない名演が多いですが(個人的には6、8、11、12番あたり)、ほとんどはライヴでどうしても録音に多少の難があるので、クリアなスタジオ録音でこのオケの最盛期を捉えたという意味でも、貴重な録音。
録音がオスロなのは、当時ヤンソンスが首席指揮者を務めていたオスロ・フィルの本拠で、収録経験もありやりやすかったのか、そのへんの事情はわかりませんが、透明感のある明るめの音色で、トランペットをはじめロシア風の金管も目立ちすぎず、程よいバランスでまとめられていて、ロシアのオケの強烈な響きが苦手な人にも比較的聞きやすい仕上がりになっています。
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なお、ヤンソンスはその後もバイエルン放送響、フィラデルフィア管をはじめ様々なオケとショスタコーヴィチの交響曲の録音を重ね、全集化しています。
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