◯サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調op.78[1886]
◯メシアン:キリストの昇天(オーケストラのための4つの交響的瞑想)[1933]
チョン・ミュンフン指揮パリ・バスティーユ管弦楽団
(録音:1991年10月、パリ)
「昇天」は、先日紹介したヒンデミットの作品と同時期、20代半ばのメシアンが作曲した、彼としては初期の作品。
ちなみに、彼の一番の代表作「トゥーランガリラ交響曲」は、バルトークのオケコンやヒンデミットの演奏会用音楽と同様に、クーゼヴィツキーの依頼で作曲されたもの。依頼により多くの名作を生み出したクーゼヴィツキーの功績は凄いというべきでしょう。
さて、この曲は、次の4曲(楽章?)で構成されています。
1.自らの栄光を父なる神に求めるキリストの威厳(とてもゆっくりと、威厳をもって)
ゆっくりとしたテンポのコラール。スコアを見たことはありませんが、おそらく弦楽や木管はなく、金管のみによって奏されます。
「威厳」とありますが、日本語における一般的なニュアンスとはやや違って、純粋かつ強固な信仰心というイメージの方が近いと思います。
2.天国を希求する魂の清らかなアレルヤ(適度な速さで明晰に)
木管のユニゾンによる滑らかだが細かい動きの強奏が、コールアングレのゆったりとした旋律をはさんで、途中弦楽器も加わり変化しながら、3回繰り返されます。この曲に限りませんが、メシアン独特の旋法が、宗教的な雰囲気を生み出しています。
3.トランペットによるアレルヤ、シンバルによるアレルヤ(速く、喜ばしく)
テンポも速くリズミカルで力強い曲。タイトルのとおり、トランペットに始まり、クライマックスではシンバルが鳴り響きます。低弦で始まり旋律が高弦に移りながら緊張度を高めていく後半部も聞きもの。
4.父のみもとに帰るキリストの祈り(きわめてゆっくりと、情感を込めて荘厳に)
弦楽のみで奏される祈りの音楽。低音部が薄い(コントラバスはお休みのように聞こえます)ことも、天に昇って行く印象を高めています。
演奏は、1、4曲目でテンポを遅めにとり、ゆったりと歌わせているのが印象的。個人的にはもう少し音楽が横に流れてもいいのではと思いますが、これはこれで悪くない。
このディスクの本来のメインのサン=サーンスも、数あるCDの中のベストとはいいませんが、なかなかの好演。バス―ン(ファゴット)が、フレンチ式の楽器(フランス語の発音に合わせ「バソン」ということが多いようです)と思われるところも、個人的には◎。フランスのオケで一番有名なパリ管は、1970年代に世界的に主流なドイツ式に切り替えてしまったと聞きますし、今や貴重かもしれません。
ところで、メシアンは翌年の1934年、この曲をオルガン用にアレンジしています。
◯メシアン:栄光の御体[1939]
◯メシアン:キリストの昇天[1933/1934]
ルイス・ティリー(オルガン)
(録音:1972年、ジュネーヴ)
1、4曲目はほぼ原曲どおりと思われますが、2曲目は途中の伴奏や終わり方などが結構違っていますし、3曲目は「キリストの栄光を自らのものとした魂の歓喜」と題する曲に差し替えられています。確かに、原曲の3曲目は、タイトルに象徴的なようにオーケストラ向きで、オルガン向きではないことを考慮してのことでしょうが、この差し替え後の3曲目は、オルガンだからこそできる力強い表現で、個人的には好きです。
上のCDは、カリオペから出ていたメシアンのオルガン曲の録音シリーズの1枚ですが、ほかにもいくつか録音があると思います。
原曲のオケ盤の方は、昨年、ドイツ・グラモフォン ベスト100 premiumの1枚として再発売されています。この手のシリーズは、えてしてメシアンのようなマイナーな曲は他のメジャーな曲に差し替えられてしまいますが、初出時と同じ組み合わせのままなのはうれしいですね。