鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「秒速5センチメートル」ほか

またキネマ旬報シアターに行ってきました。

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もう終了してしまいましたが、8/25まで行われていた特集上映「新海誠の世界」の1つ「秒速5センチメートル」(2007年3月3日(土)公開)。上映時間が1時間ほどと短い作品のため、前に観た「言の葉の庭」と同様に「彼女と彼女の猫―Everything Flows―」が同時上映でした。
前回観た後で調べてみたら、2016年3月にTOKYO MXで深夜に放送された約8分×全4話のテレビアニメ(原作:新海誠、監督:坂本一也)をまとめた形だそうです。

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前回観た「星を追う子ども」と同じスクリーン2。148席のスクリーン、お客さんの入りは10~20人ほど。

秒速5センチメートル」は、新海監督の劇場公開作品としては3作目に当たり、第1話「桜花抄」、第2話「コスモナウト」、第3話「秒速5センチメートル」の短編を連ねた作品。乱暴に要約すれば、遠野貴樹という男性を中心に、第1話は小6~中1、第2話は高3、第3話は社会人と、時が過ぎていく中で変わっていく男女の姿・関係を描いた作品。

第1話は、互いに牽かれ合いながら、小学校卒業とともに岩舟に引っ越していった同級生の明里。貴樹も鹿児島に引っ越すことになり、決意して会いに向かうものの、列車運行トラブルで約束の時間から大幅に遅れてしまう。この途中、思うように動かない電車での貴樹の描写がとても切なくて、胸が痛くなります。しかし、深夜にやっと待合せ場所の駅に着くと、明里はずっと待っていて、2人は結ばれます(体ではなく心がです。念のため…)

第2話は、中2で種子島に引っ越した貴樹も高3。転校生としてやってきて以来、貴樹にずっと惹かれている花苗の物語。ところどころ、貴樹の心の底に明里の存在が大きくあること、そして別の場面では、貴樹が明里ともう直接連絡を取っていないことが暗示されます。花苗は、貴樹は優しいけれど、自分ではないずっと遠くを見つめていることを悟り、でも、これからもずっと彼をどうしようもなく好きであり続けるだろうと泣きます。

第3話は、社会人になって東京で勤める貴樹。自分の目指すものが何か迷い、入った会社も退職してしまいます。そうした自分探しの中で、過去の様々なシーンが去来します。一方で、明里は、かつての貴樹と結びつきを大切な思い出として残しつつ、その後別の人生を歩み、他の男性と幸せに結婚したことが暗示されます。
ある日、貴樹が小学校のころ歩いた踏切を渡ると、反対側から明里らしき女性とすれ違います。ここで振り向けば女性も振り向くと確信しながら、踏切を渡って振り向くと、踏切を通り過ぎる電車が視界をふさぎ、踏切が開くと、もう女性の姿は見えなくなっていました…

この後の作品の「星を追う子ども」では、「君の名は。」のような緻密な描写は目立たなかったのですが、抒情的な作品のためか、この作品では、その後の作品ほどの繊細さはありませんが、やはり緻密な描写は印象的です。これは新海監督の持ち味なのでしょう。
もしかすると監督ご自身の経験もあるのかもしれませんが、この作品、また、「言の葉の庭」や「君の名は。」もそうですが、自分探しに駆られる若い男性、という面はある意味共通していて、その中で紡いでいく物語は、非常に繊細で、心に残ります。この作品や「言の葉の庭」は、それを全面に出した作品といえ、個人的には好きな部類ですが、「大ヒット」といわれるような興業的な成功を得ることは難しいのでしょう。

君の名は。」は、そうした面も残しつつ、ジブリ映画にもあるような、ちょっとコメディぽいシーンもはさみながら、緩急を付けてクライマックスに向かっていくという、展開の広がりがあることが、あれだけの大成功をもたらしたのだろうなぁと、改めて思いました。