鷺の停車場

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ジェズアルド「テネブレ」(レスポンソリウム全曲)/ヒリヤード・アンサンブル

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◯ジェズアルド:レスポンソリウム(全曲)
ー聖週間の聖務日課のためのレスポンソリウムおよびその他の曲集[1611]
ポール・ヒリアー指揮ヒリヤード・アンサンブル
(録音:1990年3月、イングランド

以前にも書いたアルヴォ・ペルトのCDで聴いたヒリヤード・アンサンブルの演奏に触発されて、一時期、ECMへの録音を中心にヒリヤード・アンサンブルのCDを買っていた時がありました。これもそのうちの1枚。

16世紀末から17世紀初頭のイタリア・マドリガル作曲家であったカルロ・ジェズアルド(1560~1613)の晩年、1611年に出版された上記曲集の全曲の録音。

古楽に詳しいわけではないので、よく知らないのですが、本盤の解説を読むと、ジェズアルドで有名なのは、同時期に出版されたマドリガーレ集に収載されている曲だそうで、本盤は、ジェズアルドの作品の中でそれほど有名ではない宗教曲集を、ヒリヤード・アンサンブルが掘り起こした録音ということのようです。

本盤は、次の29曲が収録されています。
・聖木曜日のレスポンソリウム(Feria V - In Coena Domini)
聖金曜日のレスポンソリウム(Feria VI - In Parasceve)
・聖土曜日のレスポンソリウム(Sabbato Sancto)
 これらは、いずれも次の9曲で構成されています。
 第1夜課(In I Nocturno):Responsorium 1~3
 第2夜課(In II Nocturno):Responsorium 4~6
 第3夜課(In III Nocturno):Responsorium 7~9
ベネディクトゥス(Benedictus)
・ミゼレーレ(Miserere)

ちなみに、アルバムのタイトルの「テネブレ」(Tenebrae)とは、カトリックで復活祭の前の聖週間の木・金・土に行う朝課・賛課を意味する言葉だそうです。

編成はこの時代の宗教曲に一般的なものだろうと思いますが、半音階的な動き、和声の移り変わり、時折表れる畳み掛けるようなリズムによる高ぶりなど、ルネサンス期の音楽に抱いていたイメージを裏切る激しい表現は、この時代ではかなり個性的、斬新なものだったのではないでしょうか(同時期の他の作曲家の作品と比べたわけではありませんが)。

そういう面で、音楽理論的なことはちっとも判りませんが、後期ロマン派のワーグナーマーラーなど、目まぐるしく和声が移り変わっていく音楽と共通する印象もあったりして、その後に続くバロック音楽や古典派よりも、むしろ現代音楽に近い感じを受ける部分もあります。

ジェズアルドは、若い頃、不倫した妻とその愛人を殺し(当時の貴族としては咎められる行為ではなかったようです)、晩年にはうつ病に苛まれるという人生を歩んだ人だそうで、そうした表現はそうした数奇な人生によるものなのかもしれません。 

とはいえ、カトリックの礼拝のための無伴奏の4~6声の合唱曲ですから、激しく感情が振り乱されるという性格のものでは全くなく、基本的に心の平安(永遠の救済)を希求する音楽で、心を落ち着けたい、静めたい時に聴くのがほとんどです。

それにしても、ヒリヤード・アンサンブルの演奏はやはり見事です。ルネサンス期の音楽に抵抗のない人には、一度聴くことをお勧めしたい演奏です。

国内盤は再発されることなく廃盤になってしまっているようですが、輸入盤であれば、新品も購入可能なようです。

Tenebrae

Tenebrae