鷺の停車場

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ヤナーチェク:ピアノ作品集/フィルクシュニー

再びヤナーチェクのCDを。

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ヤナーチェク:ピアノ作品集
1.主題と変奏(ズデンカ変奏曲)[1880]
2.ピアノ小品集「草かげの小径にて」(第1集・第2集)[1901~1908]
3.思い出[1928]
4.ピアノ・ソナタ 1905年10月1日「街頭から」[1905]
5.霧の中で[1912]
6.コンチェルティーノ[1925]
7.カプリッチョ[1926]
ルドルフ・フィルクシュニー(ピアノ)、ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団員(6・7)
(録音:1971年5月、ミュンヘン

Piano Works

Piano Works

  • アーティスト: Leoš Janáček,Rafael Kubelík,Bavarian Radio Symphony Orchestra,Rudolf Firkušný
  • 出版社/メーカー: Dg Imports
  • 発売日: 1997/09/01
  • メディア: CD
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比較的珍しいヤナーチェクピアノ曲の録音。45年ほど前の録音ですが、こうした世界的レーベルで紹介されるのは初めてだったのだろうと思います。CDの解説書に掲載されているフィルクシュニー自身の回想によると、フィルクシュニーは5歳から晩年のヤナーチェクにピアノや作曲を習い、ヤナーチェクピアノ曲のほとんども本人の前で引いたことがあるそうです。ドイチェ・グラモフォンが起用したのもこうした作曲者との深い関係にあったのでしょう。

「主題と変奏(ズデンカ変奏曲)」は、変奏曲という形式もあって、その後の自由奔放な作品を知る耳には習作に聴こえます。

「草かげの小径にて」 は、若く亡くなった娘オルガを想い作曲されたといわれ、次の15曲からなります。
第1集
1.われらの夕べ(Modrato)
2.散りゆく木の葉(Andante
3.一緒においで(Andante-Adagio)
4.フリーデクの聖母マリア(Grave)
5.彼女らはつばめのようにしゃべりたてた(Con moto)
6.言葉もなく(Andante
7.おやすみ(Andante
8.こんなにひどくおびえて(Andante
9.涙ながらに(Larghetto)
10.ふくろうは飛び去らなかった(Andante
第2集
1.Andante
2.Allegretto
3.Più mosso
4.Vivo
5.Allegro-Adagio
第1集はヤナーチェクの生前に出版されており、副題は自身によって付けられたもの。第2集はヤナーチェクの死後にまとめられ発表されています。
ヤナーチェクに限ったことではないのだと思いますが、ピアノ曲は、オーケストラ曲より、作曲者の率直な気持ちが強く反映されている感じがします。例えると、オーケストラ曲が小説だとすれば、弦楽四重奏曲私小説ピアノ曲は随筆というような。
特にこの小品集は、そうした色合いが強く出ています。テンポや拍子が頻繁に変わる曲もあったり(上の表記はCDの解説書に従っていますが、実際には途中でテンポが変わる曲も多いです)独特の語り口で、感情がそのまま吐露されたような印象を受けます。個人的には、特に2曲目や7曲目など、穏やかで叙情的な感じの曲に強くひかれます。

「思い出」は、穏やかな黄昏時を感じさせるように始まりますが、感情を高ぶらせ、最後は静かに終わる短い小品。

ピアノ・ソナタ 1905年10月1日「街頭から」は、その日、ブルノでデモに参加した労働者が鎮圧で命を落とした事件を契機に作曲されたもので、次の2楽章(ともに変ホ短調)からなります。
1.予感(Con moto)
2.死(Adagio)
当初作曲された第3楽章は初演前に破棄され、残った2楽章も一度はヤナーチェク自身は破棄したものの、後年になって初演者による写譜が発掘されたという経緯があるそうです。
曲は、事件そのものを描写したというより、事件からヤナーチェクが受けた心象を表現したような作品。

「霧の中で」は、次の4曲からなります。
1.Andante- Poco mosso- Tempo I- Adagio- Con moto
2.Molto adagio- Presto- Grave- Tempo I
3.Andantino- Poco mosso- Tempo I
4.Presto- Andante- Tempo I- Adagio- Vivo- Andante- Tempo I- Adagio
題名のせいか、1曲目は霧の中を手さぐりで進むような感じで始まりますが、3曲目、4曲目はそんな中でも決意して前に進むような力強さも感じます。上記のように、テンポの動きも大きく、やはり拍子が変わる曲もあります。

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4曲目の冒頭。5/4拍子→1/8拍子→2/4拍子と拍子は移り変わり、アウフタクトから始まる(前の小節の最後の8分音符から始まり、タイで次の小節の音につながっているのが分かると思います)旋律の動きもあって、何拍子という拍節感はなく、独白を聞いているような感覚になります。また、調性記号が付いていますが(変ロ短調変ニ長調?)、臨時記号も多いので、調性感もあいまいです。

コンチェルティーノ Concertino は、ピアノと2本のヴァイオリン、ヴィオラクラリネット、ホルン、ファゴットのための作品で、次の4楽章からなります。
1.Moderato
2.Più mosso
3.Con moto
4.Allegro
1楽章はピアノとホルンの対話。2楽章は甲高いクラリネットが主役ですが、最後になって弦楽器が出てきて、3楽章以降は弦楽とピアノが中心になります。

カプリッチョCapriccio は、左手のピアノとフルート(ピッコロ)、2本のトランペット、3本のトロンボーン、テナーテューバという珍しい編成の作品で、次の4楽章からなります。
1.Allegro
2.Adagio
3.Allegretto
4.Andante
左手のピアノということもあって、全体的には、ピアノよりも金管合奏が中心でテナーテューバの細かい動きが際立っています。

演奏は、生前のヤナーチェクに師事しただけあって、ピアノ曲は、すっかり薬籠中の物にしている印象で、ぎこちなさを全く感じさせません。フィルクシュニーは、晩年の1989年にも再録音していて(今は廃盤のようです…)、味わいは再録音の方があったような気もするので一長一短かもしれませんが、こちらの方はよりクリアで安定しているように思います。

室内楽2曲は、同じくチェコ出身のクーベリックの指揮の下、当時首席指揮者を務めていたバイエルン放送響のメンバーが加わっています。が、慣れない曲&珍しい編成のためか、また、技術面でも難しさがあるのか、「健闘」(=頑張っているけどぎこちなさが残る)という印象。コンチェルティーノ1楽章のホルンやカプリッチョのトランペットの高音域、テナーテューバの細かい動きなどは大変そうに聞こえてしまいます。

カプリッチョは、手元に違うCDもありました。

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1.バルトーク弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽[1936]
2.マルティヌー弦楽四重奏管弦楽のための協奏曲[1931]
3.ヤナーチェクカプリッチョ[1926]
クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮[1・2]クリーヴランド管弦楽団
[2]ダニエル・マジェスケ、バーナード・ゴールドシュミット(Vn)、ロバート・ヴァーノン(Va)、スティーヴン・ゲーバー(Vc)
[3]ジョエラ・ジョーンズ(Pf)、メアリー・ケイ・フィンク(Pic)、ジョシュア・スミス(Fl)、マイケル・ザックス、デヴィッド・ザウダー(Tp)、ジェイムス・デ・サノ、スティーヴン・ウィッツァー、トーマス・クレイバー(Tb)、アレン・コフスキー(Tub)
(録音:1992年1月26日[1]・1992年5月4日[2]・1993年5月31日[3]、クリーヴランド) 

他の曲は別の機会があれば紹介するとして、カプリッチョについていうと、アメリカ有数のクリーヴランド管弦楽団の管楽器奏者による演奏ということもあって、大変さを感じさせない金管楽器の演奏ぶりはさすがです。この曲だけでいえば、上のクーベリック盤よりもいいと思いますが、バルトーク以外の2曲はマイナーなこともあって、もはや廃盤になっているようです。