鷺の停車場

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映画「空気人形」

「ワンダフルライフ」に続いて、昔の是枝裕和監督の作品をDVDを借りて観ました。
今回借りたのは「空気人形」(2009年9月26日(土)公開)。是枝裕和監督の長編映画としては7作目に当たるようです。  

空気人形 [Blu-ray]

空気人形 [Blu-ray]

 

アパートで秀雄(板尾創路)と暮らす「のぞみ」と名付けられた空気人形(ペ・ドゥナ)に、ある日思いがけず心が宿る。のぞみは秀雄が仕事に出かけるといそいそと身支度を整え、1人で出かけるようになる。そしてたまたま見かけたレンタルビデオ店で働く純一(ARATA)に恋心を抱き、同じ店でアルバイトを始める。やがて純一と仲良くなるが、夜になり帰宅すると、秀雄はのぞみと一緒に食事し、のぞみを風呂に入れ、星を語り、そして性欲を満たす。そうした生活にのぞみは空虚さを感じる。
ある日、アルバイト中にのぞみは、金具に引っ掛けて空気が抜けてしまう。驚いた純一は戸惑いながらものぞみのお腹の空気入れに息を吹き込み、のぞみは事なきを得る。
そして、新たな空気人形を購入して誕生祝いをする秀雄にショックを受けたのぞみは、心を宿したことを明かすが、秀雄に、心を持つと面倒臭い、元の人形に戻ってくれないか、と懇願され、家出する。空虚感に苛まれたのぞみはあるきっかけで知った自分を作った人形師を訪ね、同じ顔で作った人形も帰って来る時にはそれぞれ顔が違ってくると聞き、なぜ心を持ったかを悟る。
のぞみは純一を訪れ「望むことなんでもする」と話すと、純一はのぞみの空気を抜き、また口で空気を入れることを繰り返します。その後寝てしまった純一。「僕も同じく空っぽだ」と以前聞いていたのぞみは同じことを純一にするが、人間である純一は死んでしまう。

主要人物のほかにも、街で出会ういろんな人が、空虚さを抱え、どこかでそれを埋め合わせながら生きていることが明らかにされます。空虚感を抱きながら生きる人々を、空気人形という主人公の目を通して描いた、大人の寓話ともいえる作品。

純一にお腹から空気を入れられるのぞみのシーンは、好きな人の息が身体に満たされることで元気を取り戻す、という意味で、かなりエロティックで、普通のラブシーン以上に刺激的。終盤のシーンでは、純一がのぞみの空気を抜いて息を入れるということを繰り返す退廃的なシーンが描かれますが、これも、純一にとっても刺激的なものであったことを示しているように思います。

近年の是枝監督の作品とは風合いは違い、実験的な雰囲気もあります。心理的に残酷な要素もあって、観るのが辛いシーンもありましたが、どこまで深く理解できたかはともかく、監督が伝えようと思ったであろうことの片りんはつかめた気がして、強い印象を受けました。