鷺の停車場

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映画「奇跡」

再び昔の是枝裕和監督の作品をDVDを借りて観ました。
今回借りたのは「奇跡」(2011年6月11日(土)公開)。 是枝監督の8作目の作品。

奇跡 [Blu-ray]

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おおまかなあらすじです。

小学6年生の航一(前田航基)と4年生の龍之介(前田旺志郎)の兄弟は、両親が離婚したため、航一は母・のぞみ(大塚寧々)に引き取られ祖父母(橋爪功樹木希林)と鹿児島で、龍之介はミュージシャンを目指す父・健次(オダギリジョー)に引き取られ福岡で、離れ離れに暮らしているが、仲が良く、ひんぱんに携帯電話で連絡を取り合っている。
ある日、九州新幹線の一番列車がすれ違う瞬間を目撃すれば願いが叶うという話を聞いた航一は、桜島が噴火すれば家族4人が再び一緒に暮らせると、同級生の佑(林凌雅)、真(永吉星之介)を誘って、熊本を目指そうと計画を立て、おもちゃを売ったりして、資金を集める。一方、航一からその話を聞いた龍之介も、蓮登(磯邊蓮登)、恵美(内田伽羅)、かんな(橋本環奈)を巻き込んで、旅の計画を立て始める。
そして、九州新幹線の開業前日の計画実行の日、航一たち3人は授業中に仮病を使って保健室に抜け出す。何か事情があることを察した保健の先生(中村ゆり)が担任の先生(阿部寛)をうまく取りなしてくれ、祖父の協力もあって航一たちは途中下校する。
3人は鹿児島中央駅から、短縮日課だった龍之介たち4人も博多駅から、それぞれ普通列車に乗って出発する。新幹線がすれ違うはずの場所に最も近い川尻駅熊本駅宇土駅の間の駅)で合流した7人は、新幹線を見ることができる場所を探して駅から歩くが、途中で蓮登が勝手に引き返してしまう。6人は蓮登を探す羽目に陥り、暗くなってお巡りさんに保護された蓮登にばったり出会う。お巡りさんから逃れようと、女優を目指している恵美がおばあさんの家に行くんです、あそこです、と咄嗟にウソをつくが、おばあさんとその夫が親切に受け入れ、7人を家に泊めてくれる。
翌朝、夫妻に新幹線が見える場所の近くまで軽トラックで送ってもらった7人は、新幹線の高架脇の小高い丘に駆け上がると、間もなく線路の両側から新幹線がやってくる。すれ違うその時、7人はそれぞれの願いを新幹線に向かって叫ぶ。かんなは絵が上手になりますようにと、恵美は女優になれますようにと、蓮登は足が速くなりたいと、祐は(死んでしまった愛犬)マーブルが生き返ってほしいと、真は父ちゃんパチンコやめてと。
しかし、前の日に川尻駅で駅員から雲仙普賢岳の噴火で大きな被害が出たことを聞いた航一は、桜島噴火を願うのを止めて、家族より世界を選び、龍之介もまた、父のメジャーデビューを願ったのだった。
そして、航一たちと龍之介たちは、再開を約束して、再び普通列車に乗って別れる。
家に帰った恵美は、母(夏川結衣)に東京に行って女優になると伝え、部屋で嬉しそうに踊る。一方、龍之介の家では、父のバンドが「チャートバスターズ」に出られることになったと練習に励んでおり、龍之介は、俺のお陰やから感謝せえよ、と言う。
航一たち3人も鹿児島中央駅に戻ってくる。マーブルは生き返らなかったが、みんな一回り成長していた。(ここまで)

九州新幹線の全線開通を契機に、JR九州などJR関係企業の企画で製作されたいわゆる「企画モノ」の作品のようです。九州新幹線の一番列車同士がすれ違うのを目撃すると願いが叶うという噂(都市伝説?)を信じて実行に移す子どもたちというのが全体のフレームになっているのですが、実際に鉄道が出てくる場面は意外に少なく、終盤になって計画を実行に移す航一たち/龍之介たちがそれぞれ電車に乗って向かう場面と、一番列車がすれ違うシーンくらいしかありません。 

まず思ったのは、子役の演技が生き生きしていること。主役の兄弟役は小学生(当時)お笑いコンビ「まえだまえだ」の2人。舞台経験が生きているのでしょう、脇を固める大物俳優に物怖じすることなく演じているのは見事。特に龍之介役の弟の演技は良かった。その龍之介の級友の恵美役の内田伽羅は、本木雅弘内田也哉子夫妻の子、樹木希林の孫だそうですが、内に芯の強さを秘めた女の子をうまく演じています。同じ級友のかんな役で、ブレイク前の橋本環奈が子役で出ていたのは意外。まだ11~12歳くらいでしょうか、この年でもかなりのかわいさで、なかなかいい演技をしています。ただ、子役的なかわいさとはちょっと違う感じはあって、ブレイクしたのが数年後になったのは分かる気もしました。

脇を固める俳優陣も好演。大塚寧々演じる母親が電話で離れて暮らす龍之介と話して涙を流すシーンが特に印象的でした。是枝作品の常連のオダギリジョー樹木希林は最新作の「万引き家族」にも出ていますが、それと比べると、7年前なのにもっと若く見えます。

家族の絆、関係がテーマであることは、多くの是枝作品と共通しています。作品中で家庭内の光景が描かれる航一と龍之介の兄弟、そして恵美の家は、いずれも片親が不在であり、両親と子どもという普通の家庭が描かれませんが、どこか欠けたところがある家族で、それが修復されていく過程というようなもの(うまく表現できませんが)に焦点を当てる狙いがあったのでしょう。

全体のフレームとなっている噂のような奇跡は起きないわけですが、現実的に到底無理と思われた一番列車のすれ違い目撃を成し遂げたのも1つの奇跡です。特に、川尻駅から歩く途中、お巡りさんに保護されかかって出た恵美の演技にとっさに合わせて7人を受け入れてくれたおばあさんの機転、優しさは夢のような奇跡。しかし、それ以上に、兄弟の純真な思いが、友人たちを、さらには周囲の大人たちを動かし、親子・家族の関係をちょっとずつ変えていったことが大きいのだろうなあと思いました。

小学生たちが主役のストーリーであることもあって、それ以前の作品ほどメッセージ性は強くなく、ファミリー層にも受け入られやすい作品になっています。企画モノの欠点と見る向きもあるようですが、前作の「空気人形」が興行的には赤字だったことで、メッセージ性と興行性をどうバランスさせるか、新たな方向性を模索した結果なのだろうと思います。そういう意味で、是枝監督の一連の作品の中で、1つの分岐点ということもできるかもしれません。