先日、下高井戸シネマに「四月の永い夢」(5月12日(土)公開)を観に行きました。
(もらったチラシ)
ネットの映画情報を見て、少し前から気になっていたのですが、個人的に行きやすいエリアで上映されることがないまま、上映が終了してしまいそうなので、気分的にはけっこう遠いのですが、首都圏では最後の上映館になるかもしれない下高井戸まで観に行くことに。
下高井戸駅で下車。山手線の西側に来る機会はほとんどないので、新鮮な感じです。このあたりに来るのは、初めてかもしれません。
駅から3分ほどで、下高井戸シネマに到着。マンション?の2階が映画館になっています。
この日の上映スケジュール。
館内は126席で自由席制。スクリーンサイズは、この映画のアメリカンビスタの場合で3m×5.55m。一昔前の映画館という風情です。
この日の観客は3~40人ほど。
冒頭、桜の花びらが散る四月の景色に喪服姿の初海(朝倉あき)が立ちつくす美しい光景(上のチラシ表面の写真のビジュアル)の中で流れる初海のモノローグがとても印象的で、最初から引き込まれます。
教師を辞め、国立の蕎麦屋でアルバイトをしていた初海。亡くなった元恋人の母親から送られてきた元恋人の手紙が届き、相前後して、勤めていた蕎麦屋がご主人が高齢になって閉店することになったこともきっかけに、元恋人が亡くなった3年前の4月から、固い氷のように初海の心にあった喪失感がゆっくりと融解していく、映画での表現を借りれば「真っ白なまま覚めない夢の中」にいた初海が目覚めていく過程が、抑制された、美しい映像の中に描かれていきます。
何と言っても、抒情的な美しい映像に惹かれます。映画の展開も、劇的な演出を避け、淡々とした運びの中に、じんわりと心に沁みる物語が描かれていきます。
完成度の高さという点では、回収されない伏線があるように思えたりもしたので、もう少しという点もあるかもしれませんが、美しい映像の中で描かれる物語は、とても魅力的。とりわけ、主役の初海を演じた朝倉あきが本当に良かった。
彼女は、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」の主人公かぐや姫の声を務め、女優としてもドラマや映画に多く出演しているそうですが、私自身は、失礼ながら、こんな女優さんがいるんだ、と初めて認識しました。
彼女の凛としたたたずまい、立ち振る舞いは素晴らしく印象的で、この作品が美しく抒情的に映るのは、映像自体の魅力はもちろんですが、彼女の存在がなければ、ここまで感銘を受けることはなかったのではないか、と思うくらい素晴らしかった。
感涙、というタイプの映画ではないかもしれませんが、どういったらいいのか、後になるほど余韻が深まっていく映画。他の作品だと、観たときは感激しても、2~3日も経つと、その印象は薄れていくのですが、この作品は、かえって、時間が経つにつれて、たぶん観たときには自分の中では未消化だった部分が消化されていって、観たときの鮮やかな印象が思い出されて、再び観たい、という気持ちが高まる、そういう映画でした。万人向けの作品ではないのでしょうけど、上映館の規模は小さいながらも、5月の公開から4か月近く上映が続いているのは、こうした作品に魅力を感じる人がそれなりにいるということなのでしょう。
10月にはDVDなどが発売されるようですので、次に観るのは、DVDかBlu-rayになりそうな気もしますが、運よくもう少し行きやすい映画館で上映される機会があれば、ぜひ再びスクリーンで観たいと思います。