鷺の停車場

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ヤナーチェク:シンフォニエッタ

NHK Eテレで日曜夜に放送されているクラシック音楽館でしばらく前に録画したサイモン・ラトルロンドン交響楽団のコンサートを見ました。

NHK音楽祭の一環で昨年9月27日にNHKホールで行われたコンサートの録画で、曲目は、

  1. ラヴェルバレエ音楽マ・メール・ロワ
  2. シマノフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番
  3. ヤナーチェクシンフォニエッタ

というもの。

https://www.nhk-p.co.jp/event/detail.php?id=865

ラトルは長年務めていたベルリン・フィルの芸術監督を昨年退任しましたが、相前後して、2017年秋からロンドン交響楽団音楽監督に就任しているそうです。

前プロも良かったのですが、メインのヤナーチェクシンフォニエッタを久しぶりに聴いて、やはりいいなあと思いました。

通常の3管編成のオーケストラに、別働隊として、トランペット9、バストランペット2、テナーテューバ2が加わる大規模な編成。

演奏会の映像前に放映されたインタビューでラトルが語っていたとおり、別働隊とティンパニのみで演奏されるファンファーレの第1楽章(Allegretto)は、トランペットの上手さが引き立つ素晴らしい演奏。この曲だけのためにこれだけの人数のトランペット奏者をロンドンから連れてきたのでしょうか、画面で見る限り、日本人らしい奏者はほとんどいませんでした。

ところで、この楽章は2本のテナーテューバによる完全五度の和音進行で始まるのですが、テナーテューバは音を変えながら、最後まで完全五度の和音を吹き続けます。完全五度の和音が続く連続五度は、和声学の教科書では禁則とされている和声進行だそうですが、それをここまで続けるところにもヤナーチェクの独特の味を感じます。

第2楽章(Andante)は、トロンボーンの刺々しい伴奏の上にオーボエが奏する躍動的なメロディに始まり、テーマが移り変わりながら発展していきます。途中、低弦のゴツゴツした伴奏や、ヴァイオリンのとてつもないハイトーンのメロディなど独特な音使いも面白い。

第3楽章(Moderato)は、弦楽器の悲しげなメロディで始まりますが、中間部は、ガラッと雰囲気が変わり、高揚していきます。速度を上げてのトロンボーンのソロに始まる部分、音楽が高揚するにつれハイトーンになっていくホルンの伴奏、とても大変そうですが、印象に残ります。

第4楽章(Allegretto)は、トランペットの弾んだリズムのメロディが繰り返される中で、楽器や伴奏の表情を変えていきます。全体の中では間奏のような感じも受ける曲。

第5楽章(Andante con moto)は、フルートのメロディに始まりますが、音楽が高ぶっていくと、ハイトーンのクラリネットがどこか悲し気なメロディを吹きます。その後、テンポを上げ、木管の尋常でな速さの指回しのフレーズが重なっていきます。再びテンポが緩むと、再びクラリネットのハイトーンのメロディが叫びのように響き、高揚していくと、第1楽章のファンファーレが戻ってきます。ここは個人的にとても好きな部分で、テナーテューバが戻ってくる直前の高揚に、なぜか涙してしまいます。第1楽章のファンファーレがそのまま、オーケストラの伴奏・合いの手を加えて演奏されると、短いコーダで華やかに終わります。

久しぶりに他の演奏も聞いてみました。 

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カレル・アンチェル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(録音 1963年4月14~20日(1)/1961年1月9~11日(2) プラハ、芸術家の家)

ヤナーチェク:シンフォニエッタ

ヤナーチェク:シンフォニエッタ

 

いわば、本場ものの演奏。ヤナーチェクの出身のブルノはチェコ東部のモラヴィアにあるので、西部のボヘミアプラハのオケであるチェコ・フィルは厳密には本場とはいえないのかもしれませんが、速めのテンポで、音楽の躍動感はさすがです。個人的には好きな演奏の一つ。

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Janacek: Sinfonietta, Taras Bulba

Janacek: Sinfonietta, Taras Bulba

 
  1. ヤナーチェクシンフォニエッタ
  2. ヤナーチェク組曲利口な女狐の物語」 
  3. ヤナーチェク:タラス・ブーリバ

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 ソビエト国立放送交響楽団ボリショイ劇場ブラスオーケストラ(1)、レニングラードフィルハーモニー管弦楽団(2)、ソビエト国立文化省交響楽団(3)
(録音 1965年(1)/1976年(2)/1985年(3))

珍しい旧ソ連のオケ&指揮者による演奏。ボリショイ劇場のファンファーレ隊は迫力十分。近年の録音と比べると、アンサンブルの精度は劣りますが、これはこれで面白い。 

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  1. バルトーク管弦楽のための協奏曲
  2. ヤナーチェクシンフォニエッタ

ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音 1965年1月15・16日(1)/1965年10月15日(2) クリーヴランド、セヴェランスホール)

村上春樹の小説「1Q84」にはヤナーチェクシンフォニエッタがしばしば登場するそうですが(私は未読・・・)、このセル盤は小説中にレコードを買うシーンで実際に出てくるそう。なお、小澤征爾指揮シカゴ交響楽団のレコードも出てくるようですが、そちらの方は私は未聴です。

演奏は、全体にゆったりめのテンポで、各パートのバランスも考慮されていることがうかがえる整った演奏。フレージングの問題なのか、音楽が横に流れていかないところがあって、血がたぎるような感じはないので、個人的には今一つ。

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  1. ヤナーチェクシンフォニエッタ
  2. ヤナーチェク:タラス・ブーリバ

サー・チャールズ・マッケラス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音 1980年3月 ウィーン、ゾフィエンザール) 

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、タラス・ブーリバ、序曲「嫉妬」

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、タラス・ブーリバ、序曲「嫉妬」

 

ヤナーチェク研究家でもあり、デッカにウィーン・フィルとのヤナーチェクのオペラも数多く録音しているマッケラスによる演奏。入手のしやすさも含め、この曲の代表盤といえるでしょう。

演奏は、全体的によくまとまった優れた演奏。この時代の録音としては、細部のアンサンブルの乱れがところどころ見られますが、おとなしく上品にまとめることなく、出すところは直截に出す誠実な演奏は好感が持てます。

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  1. ヤナーチェク:歌曲集「消えた男の日記」(ズィーテク、セドラーチェク編)
  2. ヤナーチェクシンフォニエッタ

クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、(1)フィリップ・ラングリッジ(Ten)、ブリギッテ・バリーズ(Alt)、RIAS室内合唱団女性団員
(録音 1987年11月 ベルリン) 

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、狂詩曲「タラス・ブーリバ」、歌曲集「消えた男の日記」

ヤナーチェク:シンフォニエッタ、狂詩曲「タラス・ブーリバ」、歌曲集「消えた男の日記」

 

アバドは1960年代にロンドン響ともこの曲を録音していますが、芸術監督に就任したベルリン・フィルとの再録音。表現主義的という感じもするくらい、オケの優れた能力を活かして細部まで克明に表現した演奏という印象。ヤナーチェク独特の土臭さのようなものは感じませんが、個人的は好きな演奏。カップリングの「消えた男の日記」も素晴らしい演奏。

実は、当時NHK-FMで放送されたのをエアチェックした同時期に行われた演奏会のライヴの録音テープを持っているのですが、そちらの演奏はこのCDの演奏よりもさらに素晴らしいのです。もはや市場には流通していないのでしょうけど・・・。

なお、この曲のミニチュアスコアは、昔はドイツとかの楽譜出版社が刊行している輸入版しかなくて、楽譜専門店とかに行かないと入手が難しかったのですが、今では全音や日本楽譜出版社からも刊行されていて、値段も以前よりかなり手頃になっているようです。