鷺の停車場

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カルロ・ゼン「幼女戦記」第9巻 "Omnes una manet nox"

カルロ・ゼン著の小説「幼女戦記」、第9巻に進みました。

幼女戦記 9 Omnes una manet nox

幼女戦記 9 Omnes una manet nox

 

第8巻に続いて、あらすじ紹介を兼ねて、時期が明示されている場面を列挙してみます。

(以下は統一暦。小説の登場順)

第一章:浸食

1927年06月29日 帝都ベルン:レルゲン戦闘団は休暇・再編のために帝都に戻される。帝都ベルン中央駅に降り立つターニャをやつれたレルゲン大佐が出迎える。レルゲンは、相応の「戦果」を求める政治家の目を覚ますため、最高統帥会議を夜間爆撃してもらいたい、と信じがたい事前打診を口に出す。ターニャは部下に休暇を告げ、レルゲンとともにルーデルドルフ中将に復命に向かう。

参謀本部―ルーデルドルフ中将執務室:しばらく見ないうちにげっそり体重を落としたルーデルドルフ中将。戦力補充もままならない中で、政府から求められているのは「勝利」だけ、そのための目標を策定し得ていないとのルーデルドルフの言葉におののくターニャ。

第二章:本土

1927年06月30日 帝国軍西方航空管制部門:毎日のように低地工業地帯の爆撃に襲来する連合王国爆撃機の迎撃に当たる帝国軍。

同日 旧ライン戦線低地工業地帯ルート上空:雲が少ない中爆撃に向かった連合王国爆撃機部隊は、嚮導機が撃墜され、爆弾を投下して反転、帝国制空圏からの離脱を目指す。

1927年07月01日 帝国軍西方航空管制司令部:連合王国軍を撃退する帝国軍だが、将校たちは東部に戦力をとられ補充もままならない現状を憂える。

同日—帝都/帝国軍参謀本部:西方方面の司令部要員のてこ入れを議論する参謀本部

同日―東部戦線:帝国軍を圧迫する連邦軍への対応を協議するゼートゥーアたち。

同時刻—多国籍義勇軍駐屯地:タネーチカ中尉が党中央から提案された東部方面軍司令部のゼートゥーアたちを狙う斬首作戦をドレイク中佐に告げる。

1927年07月01日 帝都/ゾルカ食堂:ウーガ中佐に誘われ一緒に食堂に入ったターニャだが、食糧事情の悪化を実感する。

1927年07月02日 帝都/中央駅付近:ターニャは、ルーデルドルフ中将に連れられて、民間用の喪服を着て戦没者の追悼式典に参列し、棺桶を担ぐ兵士が傷病兵や少年である人的資源の枯渇、犠牲への悲嘆が日常化している状況を実感する。ルーデルドルフ中将は、世論は攻撃発起直前の平静さだ、破綻が露呈すれば大惨事は避けがたいと語る。別れた後、ターニャは真剣に亡命を考えるのだった。

第三章:必要は発明の母

1927年07月03日 帝都:深夜に参謀本部への出頭命令を受け、ヴィーシャが運転する車で参謀本部に向かうターニャ。ルーデルドルフ中将が告げたのは、南方大陸派遣軍の撤退支援だった。

同日—連合王国ロンディニウム/ホワイトホール会議室:南方大陸でロメール率いる帝国軍の撤退の動きを把握した連合王国は、イルドア国境を含む内海方面で牽制作戦を行い、帝国が確保した旧共和国領の港湾施設の確保を狙う。

同日―午後:ターニャは第二〇三航空魔導大隊に南方軍帰国支援任務を説明する。そこにレルゲン大佐がシューゲル主任技師を連れて現れ、魔導師が誘導する魚雷V-2を持ってくる。

大戦中―某日/帝都近郊にて:V-2は、ターニャがサラマンダー戦闘団を率いる前、短い参謀本部戦略研究室勤務中に、ターニャ自身がアイデアを提示したものだった。

1927年07月12日 内海方面:ターニャたちはV-2を乗せた帝国軍の内海潜水艦隊に乗船して出撃する。

第四章:海底から愛を込めて

1927年07月15日 内海方面:敵艦隊の接近に出撃を決めるターニャ。

ダカール連合王国本国艦隊所属第二戦隊(アグリーメント作戦前衛集団)Operation Agreement発動より13:25(現地時刻十九時前後):圧倒的な戦力差に、勝利を疑わなかった連合王国艦隊だったが、ターニャたちの攻撃に甚大な被害を受け、連合王国航空魔導部隊の増援により、かろうじて壊滅を免れる。

同日―第二〇三航空魔導大隊:旅団規模の敵航空魔導師の接近に、残りの敵艦への攻撃を諦め、撤収を命ずるターニャ。大隊の回収のために浮上していた帝国軍潜水艦U-091を発見し、合流する。そこに、参謀本部から「同盟国で休暇を堪能しつつ、在イルドア大使館武官に表敬訪問」との命を受ける。不慣れな礼装を考えて苦しく思う自分に、戦場に毒されていることを気付かされるのだった。

第五章:観光旅行

1927年07月17日 イルドア方面:U-091は親善訪問のための案内役派遣という名目で、国旗を掲揚して堂々とイルドアに入港。イルドア軍の連合王国製戦闘機が飛ぶなど刺激はあるが、表向きは友好的中立国として丁寧に歓迎される。

同日—午後/イルドア縦断鉄道―食堂車:手配されていた特別列車に乗った第二〇三航空魔導大隊の面々。ターニャは帝国と異なり整備が行き届いた鉄道事情を実感する。応接役を務める、かつて東部戦線で観戦武官として同行したカランドロ大佐と会食するターニャ、互いに腹の底を探り合いながら歓談する。

1927年07年18日 帝国軍南方方面軍、旧共和国アイン防衛区:港湾勤務とされたレルゲン戦闘団の砲兵・歩兵部隊、砲兵部隊を率いるメーベルト大尉と歩兵部隊を率いるトスパン中尉は、折り目正しい軍服を着る守備隊の姿に違和感を覚え、規則正しい生活にカルチャーギャップに悩まされる。そんな時に、不明艦が入ってくるが、警戒心を抱かない平和ボケした司令部にメーベルト大尉は独断専行で威嚇射撃すると、それはやはり敵襲だった。守備隊がパニックに陥り混乱する中、トスパン中尉とメーベルト大尉は東部戦線の経験を発揮して迎撃する。

同日—イルドア王国/親善観光団:イルドア王都に到着した第二〇三航空魔導大隊の面々。ターニャはカランドロ大佐と丁々発止の探り合いのやりとりを交わす。

1927年07月21日 イルドア領内/国際列車一等室:ひととおりの歓迎の後、一刻も早く帝国軍を追い払いたいイルドア側が用意した送別列車で王都を離れるターニャたち。国境を越えて帝国に入ったとたん激増する振動に、帝国の貧しさを実感するのだった。

第六章:黄昏の場合

1927年07月22日 帝国軍参謀本部:帝都に戻り、参謀本部に復命するターニャはレルゲン大佐に呼び出される。メーベルト大尉とトスパン中尉が、守備隊の不手際を隠そうとする海軍の濡れ衣で憲兵隊に拘束されたが、レルゲンが憲兵司令部に乗り込み話を付けたと知らされる。各所への挨拶の最後、ルーデルドルフ中将から最高統帥会議が東方の新領土獲得に関心を示していると聞かされたターニャは、軍事的合理性をわきまえない判断に耳を疑い、勝利は遥かに彼方であり、もはやどのようにして国内を説得するかの次元だと具申するが、ルーデルドルフから最高統帥会議がイルドア制圧を真剣に検討を始めたと聞き、その意を更に強くする。

同日―夕刻/帝国軍将校クラブ:参謀本部ロメール将軍に出会ったターニャは、将校クラブの個室でロメールと語り合う。水のように蒸留酒を飲みながら、本国の戦意を保つために撤退してきた自分が勝利者として賞賛されるありさまに政治への不満を語り、政治という分野に軍事的な脅威があれば軍事的な目標たり得る、必要とあれば独断専行すべき局面もあり得ると語るロメール。これ以上は聞かない方がいいと直感したターニャは、素面の時に改めて話をお聞きしたいと返すと、翌日に呼ばれることになる。

1927年07月23日 帝国軍ロメール将軍付き副官日誌:ターニャがロメール将軍を来訪、公式の職務後、ロメールはターニャと私的な歓談を行ったとの記録。

同日 帝国軍参謀本部:レルゲン大佐が参謀本部の作戦部門の会議で、最高統帥会議からの状況打開策を報告。イルドアへの軍事的侵攻をオプションに入れるとの最高統帥会議の命令に、避けるべき破局への道と確信するルーデルドルフやレルゲン。現実的な作戦を検討するが、戦力の不足は明白。電撃戦によるイルドア侵攻の可能性を否定しないルーデルドルフに、レルゲンは政治の無為無策に、政治に突っ込まざるを得ないのかと自問自答するのだった。

 

副題の"Omnes una manet nox"(オムネース・ウーナ・マネト・ノクス)とは、「全ての人々をたった一つの夜が待ち受ける」といった意味のラテン語だそうです。最後の場面で「帝国の先行きは、どうなのだ?夜が、待っているのではないのか?」と自問自答するレルゲン。「夜」とは「死」の比喩なのでしょう。

もはや最高統帥会議が望むような勝利を勝ち取れる戦力はないことは、参謀本部を始め将官の目には明らか。ここまでくると、合理的に考えれば、あとはどれだけ負け方をマシなものにできるかどうかという状況。その足を引っ張るのは世論を無視できない政治。この先はさらに辛い展開となるのでしょうか。

まだ10巻・11巻と続きますが、この先は、しばらくしたら再び読み進めることにしようと思います。