鷺の停車場

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鴨志田一「青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない」を読む

電撃文庫から出ているライトノベル青春ブタ野郎」シリーズの続き、第5巻の「青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない」に進みました。

第4巻までは、桜島麻衣、古賀朋絵、双葉理央、豊浜のどかと、各巻それぞれ1人の女の子に降りかかる思春期症候群について、主人公の梓川咲太が理央たちの助けも借りながら原因を探り、心を解きほぐし、解決していくという基本的な筋書きでしたが、この第5巻は、思春期症候群はメインではなく、咲太の妹、中学校で受けたネットいじめが原因で発症した解離性障害によってそれまでの花楓としての記憶を失ったかえでの物語。

章立ては以下のようになっています。

  • 第一章 あの日の続きに今日がある
  • 第二章 かえでクエス
  • 第三章 覚めない夢の続きを生きている
  • 第四章 明けない夜の夜明け
  • 第五章 そして、また日は上る
  • 終章 邂逅

テレビアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」との関係でいうと、おおむね、

小説第1章「あの日の続きに今日がある」と第2章「かえでクエスト」が、アニメ第11話「かえでクエスト」の途中(10月16日)から最後まで、

小説第3章「覚めない夢の続きを生きている」、第4章「明けない夜の夜明け」と第5章「そして、また日は上る」の「5」の前半までがアニメ第12話「覚めない夢の続きを生きている」に、

小説第5章の「5」の後半から終章「邂逅」がアニメ第13話(最終話)「明けない夜の夜明け」に、

それぞれ対応しています(なお、アニメ第13話には、本巻に続く「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」の冒頭部の要素も盛り込まれています。)。

花楓の記憶を失ってから、咲太とともに両親の下を離れ、不登校で家に引きこもって暮らしてきたかえでが、花楓の記憶が戻る=かえでが消えてしまう日が遠くないことを悟り、その時に兄の咲太が、何もしてやれなかった、と再び後悔することにならないよう、学校に行くまでの目標を立て、咲太たちの支えで1つ1つクリアしていくが・・・というあらすじ。

アニメ版と比較すると、基本的なストーリーが同じなのはこれまでと共通ですが、アニメでは最終話になるため、原作小説でその後に続く物語の端緒・伏線として描かれていた部分はアレンジされていたことがわかります。

アニメ最終話では、最後、麻依が金沢ロケから咲太に会いに一度戻ってきたときには、翔子さんは置き手紙を残して咲太の家を去っており、麻衣はその置き手紙を見つけて動揺して金沢に戻ってしまう、という形でしたが、小説の終章では、花楓の記憶が戻って混乱する咲太を救った翔子さんはしばらく咲太の家に居候する形になり、そこに麻衣が訪れて鉢合せし、慌てる咲太を尻目に、翔子さんは「こういうのってなんて言うんでしたっけ?ああ、修羅場!」と他人事のように手を叩いて喜ぶ、というところで終わっており、麻衣が金沢に戻ってしまい、のどかの言葉で咲太が麻衣に会いに金沢に向かうアニメ最終話のクライマックス的な部分は、次巻「ゆめみる少女」の冒頭で描かれています。一方、小説の終章で最後の鉢合せの場面の前に描かれる咲太と花楓とのやりとりは、アニメ最終話では、メインストーリーの後日談のような感じでエンドロールの背景&終了後に描かれる形にアレンジされています。

 

肉体的には1人の人間ではあるものの、人格としては「花楓」とは別の、咲太との生活で積み重ねてきた「かえで」が消えてしまう、というシリアスなテーマ、切ない展開。自分がいなくなってしまう不安を感じながら、そうなったとき、お兄ちゃんに笑って思い出してもらえるように、一途に努力するかえでの姿に心打たれます。
実際には、ここまで妹思いの兄、兄思いの妹という兄妹関係は稀でしょうけど、互いの一途な思いが心に刺さり、第4巻までよりも印象深く、余韻が残る物語でした。テレビアニメ版は、尺の都合もあって、駆け足とは言わないまでも、テンポよく話が進んでいく感じがあったので、本巻のようにシリアス度が増したストーリーになるとなおさら、自分のペースで時折立ち止まって行間を味わいながら読み進められる小説の方が心に響きました。