6月15日(土)から公開された劇場版アニメ「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」が好調なようです。
最初の週末は満席となる上映回が続出、公開第1週の入場者プレゼントも軒並み初日でなくなったようです(これは興行サイドの不手際だと思いますが)。全国31館というかなり小規模の公開にかかわらず、週末の興行収入ランキングで7位、2週目でも10位に入るというのは凄いこと。
私も原作を読んで映画の前売券を買っているのですが、まず間違いなく感涙するでしょうから、周りを気にせず涙することができる程度に客足が落ち着いてから観に行こうかとも思っています。そうしているうちに上映が終わってしまわないよう注意しないといけませんが…
さて、電撃文庫から出ているライトノベル「青春ブタ野郎」シリーズの第8巻となる「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」を読みました。
前巻の「青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない」までで、主人公の咲太の初恋の人、翔子をめぐる物語が終わって、この巻からはいわば第2部というべき新たな展開になっています。
中学3年生の三学期になって保健室への登校を始めた主人公である咲太の妹の花楓の進路をめぐる物語。
まずは、あまりネタバレしない範囲で感想を。
解離性障害でそれまでの自分の記憶を失って、再び記憶が戻るまでの2年ほどの間、咲太の妹になろうと頑張っていた「かえで」。花楓は、「かえで」が残した日記に記された「かえで」の願いを叶えようと必死に努力する。思うようにいかない自分を攻める花楓の姿は痛々しいですが、咲太をはじめ周囲の人たちが花楓のことを思って暖かく接する中で、「かえで」の願いではなく自分の意思で、進む道を決めていく。
第6巻「ゆめみる少女の夢を見ない」・第7巻「ハツコイ少女の夢を見ない」では、それまでよりもシリアス寄りで、緊迫感の強い重たい展開になっていましたが、本巻では、シリーズの最初の頃と同じように、ホロっとしつつ、そこまでの緊迫感を感じることなく読むことができました。ストーリーのつながりでいうと、第5巻で描かれた「かえで」と「花楓」の物語の完結編ともいえます。
以下は、各章ごとの詳しめのあらすじです。当然ながら思い切りネタバレになりますので、ご自身で小説を読むまでは知りたくないという方は、パスしてください。
第一章 あの日の続き
1.1月のある日の授業中、咲太は七里ヶ浜の海岸でランドセルを背負った6~7の麻衣と出会う夢を見る。
その日の帰り、1学年上の恋人である麻衣にその夢のことを話す咲太。いろんなことを経験して、麻衣と一緒にいるこのなんでもない瞬間が大切なものに思える。
咲太たちは、自宅マンションの前で、中学校から帰ってきた妹の花楓と会う。花楓は、スクールカウンセラーの美和子先生に、土日に進路について相談したいと言われたと話す。
2.2日後、日曜日の1月18日の午後、自宅にスクールカウンセラーの美和子先生がやってくる。父親と花楓と3人で先生の話を聞く咲太。美和子先生は、偏差値の点では入れる学校はあるが、内申点の割合が高い県立高校は不利、オープン型の私立高校もあるが学費が高くなる・・・と説明した上で、中学校で不登校を経験した子が高校でも不登校になるケースは非常に多く、全日制高校は素直におすすめすることはできない、登校し始めたばかりの花楓は、通信制高校で3年かけてゆっくり慣れるのもいいのでは、と提案する。花楓は、お兄ちゃんと同じところに行きたい、と明かすが、美和子先生は、県立峰ヶ原高校に合格する可能性は限りなくゼロに近い、現実味のある進路選択をすべき、と反対する。
話し合いが終わり、帰る父親に進路を聞かれた咲太は、大学に行く、と答え、経済的に助けてほしいとお願いすると、父親はどこかうれしそうな顔をする。
3.翌日、咲太は横浜の国立大学と市立大学を第一、第二志望に書いた進路調査を担任に提出する。
その昼、お弁当を作ってきてくれた麻衣とお昼デートをする咲太は、麻衣が週末にセンター試験を受け高得点をマークしたこと、今年受験して休学することにしたことを聞かされる。放課後にデートに誘われる咲太だったが、花楓の関係で用事が入っていた。
4.放課後、担任に職員室に呼ばれた咲太は、今の実力を確認しておくように、とセンター試験の問題を渡される。
学校を出た咲太は、待ち合わせ場所のバイト先のファミレスでバイトに入っていた親友の佑真から卒業後は消防士を目指していることを聞かされる。
5.ファミレスにやってきた美和子先生と1時間ほど話した咲太が帰宅すると、麻衣とその異母妹ののどかが来ていた。咲太と同学年で麻衣と同じ大学を目指しているのどかは、咲太とは違う学科にすると言う。
花楓は、不安と緊張に満ちた瞳で、お兄ちゃんが行っている高校に行きたいと改めて自分の気持ちを咲太に伝える。入学願書を渡されて驚く花楓。美和子先生が、できないことをはっきり言うのも大人の役目だが、やりたい気持ちを尊重してあげるのも同じように大人の役目だろうと、先回りして用意していたのだった。花楓は咲太に、勉強を教えてほしいとお願いする。
第二章 歩くような速さで
1.咲太は物理実験室でひとり科学部の活動をする同学年の友人の理央を訪ね、花楓の進路を話し、麻衣の夢のことを相談するが、真面目に理央は取り合わない。
2.少し早めにバイト先のファミレスに着いた咲太は、麻衣に渡された英単語帳で勉強する。バイトに入った咲太はバイト仲間で1年下の友人の朋絵をいつものようにからかうが、朋絵に言われて店の外を見ると、そこには花楓がいた。
咲太は花楓と一緒についてきた麻衣をファミレスの目立たない席に案内する。翌週の願書提出は本人が行かないといけないので、外に出る練習を兼ねて夕食に来たという。幸せそうな顔でオムライスを食べる花楓を眺めていると、ふと「かえで」の笑顔が咲太の脳裏に蘇る。ボーッとした咲太の様子に花楓は何か勘づく。
3.2日後の日曜日の1月25日、咲太は花楓や麻衣にはバイトと伝えて、電車で新宿に行き、駅で合流した美和子先生と通信制高校の説明会に向かう。道すがら花楓の受験の話をすると、美和子は咲太が先生に向いていると言う。
説明会で校長先生の説明を聞き、学校紹介のPR映像に映る生徒たちの生き生きした表情に魅力を感じ始める咲太は、その生徒の1人に、のどかが所属するアイドルグループ「スイートバレット」の人気メンバーの広川卯月を見つける。
4.咲太が家に帰ると、麻衣が花楓に勉強を教えてくれていたが、花楓は疲れて眠っていた。咲太の嘘に気付いている麻衣に、本当はどこに行ってきたのか問い詰められ、咲太は正直に白状する。
5.願書提出日の1月29日の午後、咲太は花楓が無事来れるか心配で授業途中に教室を抜け出す。しばらくして花楓の姿を見つけるが、願書を提出して帰っていく中学生を見るとすれ違うまで動けない花楓はなかなかやってこない。その様子を遠くから見守る咲太。
ようやく到着して無事に願書を提出した花楓だったが、咲太の予想どおり、その体には思春期症候群の痣が広がっていた。それに気付かれて動揺する花楓は、試験もちゃんと受けられる…だからダメって言わないで、私だってがんばれるから…と必死に訴える。花楓がこの高校にこだわる理由に何となく気付いた咲太は、優しく花楓をいたわる。
その後は花楓の勉強は順調に進み、内申点があれば普通に合格できるラインにまで到達する。そうして、入試の2月16日を迎える。
第三章 扉を開けて
1.入試の日の朝、咲太は早起きして、花楓が少しでも気持ちよく出かけられるよう、朝食とお弁当を作る。
準備を整えて、出かけようとした花楓は、何かに気付いていったん部屋に戻り、咲太と家を出る。ゆっくりと歩いて藤沢駅まで付いていった咲太は、事前に相談して決めたとおり、駅で花楓を見送る。私もがんばるから、と言って咲太と別れ江ノ電に乗っていく花楓。咲太は、花楓の、私「も」という言葉に引っかかる咲太。それは、花楓がもうひとりの自分に対してかけた言葉だったから。
2.花楓を見送って家に戻った咲太は、洗濯や掃除をしてから、自分の受験勉強に取り組む。お昼には、3日前から撮影で京都に行っている麻衣から、花楓を心配して電話がかかってくる。ちゃんと行けたことを報告し、バレンタインデーのおねだりをする咲太。
しかし、その直後、高校から、花楓が昼休みに具合が悪くなり、保健室で休んでいる、と電話が入り、咲太はすぐに家を出る。
3.急いで高校に向かった咲太が保健室に行くと、花楓はベッドに寝ていた。咲太の問いかけに、午前の試験はよくできたのに、廊下で同じ制服の女の子と目が合って、見られてると思った瞬間、体中に痣が広がって動けなくなった、と体を震わせて泣き、みんながやさしいのは、もうひとりの自分がずっとがんばってきてくれたから、それなのに私は何もお返しできない、と自分を責める花楓。
先生に呼ばれ、教室に花楓の荷物を取りに行った咲太は、鞄の中に、「かえで」の日記があるのに気付く。何度も開いたあとが残るページに書かれていたのは「お兄ちゃんと同じ学校に行きたいです。かえでの夢のひとつです」。それを目にした咲太は涙がこぼれる。花楓がこの高校にこだわったのは、それが「かえで」の願いだったからなのだ。咲太は、のどかに電話をかけ、あることをお願いする。
4.入試が終わって授業が始まった金曜日、高校の図書室で麻衣と会う咲太。麻衣はスマホでSNSで流行っているという霧島透子のミュージックビデオを見ていた。
家に帰った咲太。花楓の部屋のドアは固く閉ざされているが、咲太が取り寄せた通信制高校のパンフレットを見た形跡があった。出てきた花楓に咲太は、明日の午後、でかけるぞ、と一方的に約束する。
5.翌日、咲太は花楓を連れて辻堂のショッピングモールのイベントステージで行われた「スイートバレット」のライブに行く。センターに立つ広川卯月を目で追う花楓に、咲太は、通信制高校の説明会で見たインタビューに卯月が出ていたことを話し、花楓自身が峰ヶ原高校に通いたいわけじゃないなら、無理して通いたいと思う必要はない、きっとみんなも、「かえで」もそれを望んではいない。「かえで」の願いを花楓にかなえてほしいわけじゃない、と語る。「かえで」は一生懸命に僕の妹になろうとしてくれた、だから、いなくなったときはとても悲しかった、でも、花楓が戻ってきてくれたから、それと同じだけうれしかった、と言う咲太に、花楓は、お兄ちゃんはもうひとりの自分の方が好きなんだから、自分が代わりになんないとって思ってた、と泣きながら本心を明かし、笑顔を見せる。
ミニライブの終了後、咲太と花楓はのどかとの待ち合わせ場所に向かう。
第四章 夢を見るか
1.週が明けて、花楓は入試後できなくなっていた保健室登校を再開し、通信制高校のパンフレットを見て、パソコンを始めるようになった。そんな風に花楓が前向きになったのは、卯月のおかげでもあった。
土曜日のミニライブ終了後、咲太と花楓は、のどかの仲介で、卯月から通信制高校の話を聞く。卯月は、最初は全日制高校に入ったものの、アイドル活動でまわりと時間が合わず、みんなになじめず不登校になっていた。卯月は、通信制高校に入った理由を尋ねる花楓に、みんなちゃんとやっているのに、できない自分が悪い、と息苦しさを感じていたが、説明会では、そうじゃなくていい、と言ってくれた、その帰り道、卯月の幸せは、みんなに決めてもらうもんじゃなくて、卯月が決めるんだよ、という母親の言葉で入学を決心した、そして、メンバーやファン、お母さん、「みんな」がまだいるかもしれないと思えたからきっと入ったんだ、と語る卯月だった。
そして2月27日、花楓は、卯月が通う通信制高校の説明会に行きたいと咲太に伝える。
2.翌日の土曜日、花楓の幼なじみの鹿野琴美がやってくる。咲太と一緒にカレーを作ってお昼を食べ、パソコンを見ながら親しく話す2人を咲太は暖かく見守る。
咲太がバイトに出かけようとしたそのとき、美和子先生から、峰ヶ原高校が定員割れして、花楓も合格したと電話が入る。しかし、花楓の意思は明確だった。
3.咲太はバイトの時間を1時間遅らせ、父親に連絡を取り、日曜日に3人で話し合って結論を出すことにする。
咲太は琴美と一緒に家を出てバイトに向かう。琴美は、学校を自分で選ぶ花楓はすごい、と咲太に話す。
バイトで休憩に入った咲太は、ファミレスに訪ねてきた翔子と話す。翔子は、少し気になっていることがある、心臓移植手術から1年経って、元気になった翔子は、先に未来を経験した何人もの翔子の記憶を全部覚えているが、霧島透子のミュージックビデオは存在してなかった、と話す。自分がしたことが未来の世界を変えたかもしれないと心配する翔子に、誰かが不幸になったわけでもないなら放っておけばいい、他人の心配よりもっとやることがある、と優しい言葉をかける咲太。休憩時間も終わり近く、翔子は、話がもうひとつある、と言って、明日沖縄に引っ越すことになった、暖かいところの方が体の負担が少ないので、と話す。咲太は、眩しいくらいの翔子の笑顔を記憶に焼き付け、温かく送り出す。
4.翌日、咲太は高校の卒業式に出席した後、七里ヶ浜の海岸で麻衣を待つ。かつて翔子と出会った海を見渡し、翔子との思い出を回想して温かい気持ちになる咲太。そこにランドセルを背負った6~7歳の頃の麻衣にそっくりな女の子に出会う。以前夢で見たのと似たシチュエーションに、頭の中が疑問で埋め尽くされた咲太が、麻衣さん、と名前を呼ぶと、夢と同じく、女の子は振り返って、おじさん、だぁれと言うのだった・・・
(ここまで)
冒頭と最後に出てくる小学生の麻衣の謎については、本編では何の進展もありませんし、何回か意味ありげにミュージックビデオが出てくる霧島透子も同様です。このあたりは次巻以降の伏線になっていくのでしょう。