鷺の停車場

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武田綾乃「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」を読む

武田綾乃さんの小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」を読みました。

吹奏楽部でユーフォニアムという金管楽器を吹く女子高生の黄前久美子が主人公の「響け!ユーフォニアム」シリーズ、私は、昨年公開された、オーボエ、フルートの1学年上の女子部員2人に焦点を当てたスピンオフ的な劇場版アニメ「リズと青い鳥」を観たのが初めて。

それから、テレビアニメ版の第1期→第2期、第2期の総集編的な劇場版「~届けたいメロディ」、現在公開中の2年生編「~誓いのフィナーレ」と見てきましたが、原作となる武田綾乃さんの小説の方は、今年に入ってから「リズと青い鳥」と「誓いのフィナーレ」の原作に当たる「波乱の第二楽章」の前編・後編と、そのスピンオフ的な短編集「ホントの話」を読んだだけでした。

先月には3年生編の「決意の最終楽章」の後編が刊行されて完結し、アニメ版も3年生編の製作が発表されています(その後に起きてしまった京アニ放火事件の影響が心配されます)が、3年生編の前に、まだ読んでいなかった原作小説を読んでみようと思いました。

「北宇治高校吹奏楽部へようこそ」は、2013年12月に刊行された「響け!ユーフォニアム」シリーズの第1巻。

プロローグ

中学3年生の黄前久美子やトランペットの高坂麗奈がコンクール京都府大会の結果発表に臨む。テレビアニメ版の第1話「ようこそハイスクール」の導入部に描かれた場面。

一 よろしくユーフォニアム

テレビアニメ版でいうと、おおむね第1話「ようこそハイスクール」と第2話「よろしくユーフォニアム」に当たります。

京都府立北宇治高校に進学した久美子。入学式での吹奏楽部の演奏の酷さに吹奏楽を続けるか決めかねるが、たまたま仲良くなった同じクラスの元テニス部の加藤葉月コントラバスの経験者の川島緑輝サファイア)に誘わるまま一緒に吹奏楽部に入ることになり、3人は揃って低音パートに所属することになる。部員が揃ったところで、新たに顧問に着任した滝昇は、今年の部の目標を自分たちで決めるよう求め、部員たちの多数決で目標を決める。

二 ただいまフェスティバル

テレビアニメ版でいうと、おおむね、第3話「はじめてアンサンブル」、第4話「うたうよソルフェージュ」、第5話「ただいまフェスティバル」に当たります。

最初の合奏で、そのあまりのレベルの低さに、合奏を中止し、パートごとに指導していく滝。3年生などからは厳しい指導に陰口を叩く部員も出るが、1週間後に再び行われた合奏では、部員たちも自分たちの演奏のレベルが飛躍的に上がったことを実感し、滝への反発は沈静化していく。そうして迎えたサンライズフェスティバルで、北宇治高校吹奏楽部は素晴らしい演奏を披露する。

三 おかえりオーディション

テレビアニメ版でいうと、第6話「きらきらチューバ」、第7話「なきむしサクソフォン」、第8話「おまつりトライアングル」、第9話「おねがいオーディション」、第10話「まっすぐトランペット」、第11話「おかえりオーディション」に相当する部分ですが、テレビアニメ版では、本巻では直接描かれていないオリジナルの要素もいろいろ盛り込まれているようです。

滝は、部員たちにコンクールの演奏曲を伝え、メンバーをオーディションで選ぶと告げる。その場で、テナーサックスを吹く3年生の斎藤葵が、受験のために部活を辞めると申し出ると、滝はそれを認める。
「あがた祭り」が近づき、葉月は久美子の幼なじみでトロンボーンを吹く塚本秀一に祭りで告白する計画を久美子たちに打ち明ける。久美子は秀一に祭りに誘われるが、咄嗟に麗奈と一緒に行くと断る。迎えた祭りの日、久美子と麗奈は大吉山に上る。
オーディションの結果、コルネットのソロに1年生の麗奈が選ばれ、部内に波紋が広がるが、3年生の中世古香織の申し出を認めた滝は公開の場で再オーディションを行う。

四 さよならコンクール

テレビアニメ版でいうと、おおむね、第12話「わたしのユーフォニアム」、第13話(最終話)「さよならコンクール」に当たります。

コンクール京都府大会を迎えた北宇治高校吹奏楽部の部員たちがコンクールの本番に臨む。

エピローグ

コンクール京都府大会の結果発表に臨む北宇治高校吹奏楽部の部員たち。テレビアニメ版の第13話(最終話)で最後に描かれた場面。

 

本作、武田綾乃さんの公刊された小説としては第2作、大学2年生の時に書かれた作品なのだそうです。自分が学生だった頃を思い起こすと、そんな時期にこんな作品を生み出すなんて凄いなあと率直に思います。深い感情の衝突や葛藤といった要素は少ないので、全体としては、心動かされる、感涙する、というタイプの小説ではありませんが、「おかえりオーディション」で描かれる香織と麗奈の再オーディションのシーンなど刺さる場面もあり、久美子の視点から描写した吹奏楽部員たちの群像劇はみずみずしく、いろんな部員を描きながら、ひとつの物語として収斂させていくあたりは、うまく設計されている感じがしました。

翻って、原作を読んで改めてテレビアニメ版を振り返ると、既に書いたように原作にないエピソードがいろいろ加えられています。30分アニメの1話は、CMやオープニング・エンディングの主題歌、次回予告などを除いた本編部分は正味20分余り、1クール13話となると、260~270分になるので、1本2時間弱の劇場版アニメで言えば2本半という感じ。これだけの時間になると、約300頁の文庫本を忠実にアニメ化するだけでは尺が余る、あるいは間延びするという判断があったのでしょう。テレビアニメ第2シリーズの「響け!ユーフォニアム2」では、本作に続く2冊分に対応しているそうなので、原作を足さず引かず忠実にアニメ化する観点でみれば、第2シリーズの方が時間的なバランスはいいのかもしれません。いずれ続きも読んでみようと思います。