鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜」を読みました。

去年、映画館で実写版の予告編を何回も見かけて少し気になったのですが、映画情報サイトでの口コミ評価があまり芳しくなくて、映画自体は結局観ないままになっていました。

この本、たまたま図書館で見かけて、映画化されるくらいだから原作本に魅力があるのだろうと思って、借りてきました。家に帰って調べてみたら、「ビブリア古書堂の事件手帖」は既に7巻発行されている人気シリーズなのだそうで、借りてきた「栞子さんと奇妙な客人たち」は、その第1巻に当たる作品でした。最初の巻で良かった。

古書をテーマに謎を解き明かしていく、というのは目新しい視点で、ストーリーも確かに魅力的。人と話すのは極度に苦手なのに、本のことになると饒舌に語り出す古書店の店主・栞子のキャラクター設定もいい味わい。

ただ、これを実写映画化するのは結構ハードルが高そうな気がして、実際の映画の評価が総じていえばあまり高くなかったのも、その辺の難しさがあったのかなあと思ったりもしました。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、各章の簡単なあらすじ、アウトラインを紹介します。

プロローグ

主人公、今年23歳になる五浦大輔の高校生時代の回想。北鎌倉駅前にある古書店「ビブリア古書堂」の店頭で見かけた女の子が気になるが、声を掛けずに終わっていた。

第一話 夏目漱石漱石全集・新書版』(岩波書店

大学を卒業したものの、就職できないまま過ごしていた大輔は、その夏、母から、1年前に亡くなった祖母の遺品『漱石全集』の中の1冊『それから』に、夏目漱石の署名があると聞かされる。それは、小さい頃、大輔が本好きだった祖母の本棚にあるのを取り出し、祖母に激しく叩かれ、自分が本が読めない体質となった原因となった本だった。
大輔は、母に頼みでサインが本物であるかどうかを調べるため、本の値札に記されていたビブリア古書堂を訪れると、店番をしていた店主の妹・篠川文香から、店主は入院しているので、病院へ行くよう言われる。大輔が病院を訪ねると、店主は、高校時代に古書店で見かけて気にかかっていた女性、篠川栞子だった。漱石のサインは偽物だったが、栞子はそれが田中嘉雄あての献呈署名の体裁であることなどから、祖母が、田中嘉雄から贈られたものを落書きと偽装するためにやったのだろうと推理する。
帰宅した大輔が母に結果を報告すると、迷惑をかけたおわびに菓子折を持って病院に行くよう言われる。翌日、大輔は菓子折を買おうとしたお店で伯母に会い、祖母たちの思い出話を聞くうちに、前日に栞子から聞いた話の中に、自身にも関わる重大な秘密があることに気付く。
病院に栞子を訪ねた大輔はそのことを話す。栞子からビブリア古書堂で働かないかと持ちかけられた大輔は、それを快諾する。

第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫

大輔はビブリア古書堂で働き出す。店番をする大輔は、万引きを取り押さえてもらった常連と自称する志田から、盗まれた本を探してもらいたいと頼まれる。志田は仲間と商品を交換するために待ち合わせをし、トイレに立った時に女子高生に自転車を倒され文庫本『落穂拾ひ・聖アンデルセン』を盗まれたようなので、もしその本を売りに来たら黙って買い取り、自分に買い戻させてほしいということだった。
入院中の栞子にそのことを話した大輔は、犯人とすれ違った志田の待ち合わせ相手・笠井菊哉に会って話を聞くなどして、犯人の女子高生の身元をつかみ、その女子高生・小菅を病院へ呼び出す。栞子が推理したとおり、小菅は文庫本に付いていた紐の栞が目当てで盗んだのだった。
その後、志田のもとに小菅が謝りに来るが、その行動の裏にあった男子高生への想いを知った志田は同情し、小菅と『落穂拾ひ』について語り合い、打ち解ける。

第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)

ビブリア古書堂に、初老の男・坂口昌司が古びた『論理学入門』という文庫本を買い取ってもらいたいとやって来る。その直後、坂口の妻を名乗る女から、その文庫本を売るのを止めてほしいと電話がかかってくる。
大輔が病院でそのことを栞子に話しその本をチェックしてもらうと、坂口に前科があったことがわかる。そこに、坂口の妻・しのぶがやって来てその本を返して欲しいと言う。栞子が本人以外には返せないと言うが、そこに坂口本人が現われる。
栞子は、前科のほかに、坂口の視力が悪化していることを見抜く。坂口はそれらの事情をしのぶに告白するが、しのぶの夫への思いが変わることはなかった。坂口は夫婦の思い出のその本を売ることを止める。
坂口たちが帰った後、栞子は隠していた入院の経緯を大輔に話し始める。

第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房

栞子が持っている太宰治の『晩年』は、祖父・父と受け継いできた、初版本、署名入りのアンカット本で、とても貴重なものだった。それを知られた大庭葉蔵と名乗る男からその本を譲るようしつこく迫られ、ついに、石段から突き落とされたのだいう。
栞子は大輔にレプリカを使って犯人をおびき出そうと言い出す。店頭に展示したレプリカが偽物であることに気付いた大庭こと笠井に、大輔は『晩年』が病院にあることを話してしまう。
大庭は病院の屋上に栞子を追い詰めるが、栞子は『晩年』を燃やし捨て、錯乱する大庭は大輔が取り押さえられ、逮捕される。
栞子から、自分をも騙していたのは、大切な本をどうしても手元に置きたい気持ちを分かってくれないかもしれないからと告白され、自分が信頼されていないと悟った大輔は、衝動的に、店を辞めると言って出ていく。

エピローグ

再び無職に戻り、就職面接に励む大輔に、栞子の妹の文香から、大輔が辞めてから、姉が元気をなくしているので見舞いに行ってほしいと電話がかかってくる。迷っている大輔だったが、就職活動の帰りに、歩道のベンチにいる栞子に呼び止められる。今日退院したと言う栞子は、一番大事にしてきた『晩年』の初版本を渡して預かってくれと差し出す。受け取れないと返す大輔に表情が凍る栞子だったが、続けて、『晩年』の事件が解決したらその内容を話すという約束を果たしてほしいと言われ、栞子は嬉しそうに体を寄せて話し出す。

 

このエピローグ、大輔は本のことになると途端に生き生きする栞子の性格の現れで他意はないと思っているようですが、自意識なく大輔に恋しているように思えてなりません。大輔が栞子を異性として気にしているのは高校時代を描いたプロローグから明らかで、巻が進めば、いずれこの二人は恋愛関係になるのでしょう。

続きも読んでみたい気持ちになりました。