鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第3巻、「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜」を読みました。

やはり、このシリーズは面白いです。前巻に引き続いて一気読みでした。家を出ていった栞子の母・智恵子をめぐる謎も、少しずつその片鱗が見えてきます。いずれ、メインストーリーにも姿を見せるようになるのでしょうか。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、ごく簡単なあらすじ、各編の概略を紹介します。

プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅰ

パソコンに向かって自分や姉の篠川栞子、姉が店主のビブリア古書堂で働く五浦大輔の近況を記す文香。文香は大輔が栞子が好きなことに気付いていて、古本屋巡りから帰ってきた2人の様子から、大輔は侍従っぽい性格と評する。以前にお店が放火されそうになってからは、言ってはまずそうなことを言わないように気を付けている文香は、川原の穴に向かって「王さまのみみはロバのみみ」と叫んだ床屋に、周囲には言えないことをパソコンに記す自分を重ねる。

第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫

年末、栞子と大輔は、店の品揃えを良くするため、古本業者が集まる古本交換会に参加する。会場には、栞子の母親・智恵子との確執から栞子も嫌っている「ヒトリ書房」の井上太一郎、栞子が古くから付き合いのある「滝野ブックス」の滝野蓮杖も参加していた。大輔たちは滝野が出品していた絶版文庫に入札するが、僅差で井上が落札する。
翌日、滝野から、井上が落札した絶版文庫からロバート・F・ヤングたんぽぽ娘』が盗まれていたと電話が入り、直後に井上がやってくる。たまたま店のカウンターにあった『たんぽぽ娘』が盗んまれたものだと決めつける井上は、大輔の反論に一応は納得するが、栞子たちが真犯人を探し出すまでは預かると『たんぽぽ娘』を持ち去っていく。
その晩、栞子に誘われて2人で居酒屋に行った大輔は、栞子から短編の『たんぽぽ娘』を読むことを勧められる。亡くなった父も『たんぽぽ娘』を時々見ていたという。
翌日、犯人を特定した栞子は滝野も呼んで店に犯人を呼び出す手はずを整えていた。栞子は訪れた犯人に推理を明かし、犯人も犯行を認めて、事件は解決した。
次の日の夕方、大輔が店の『たんぽぽ娘』を取り返すため「ヒトリ書房」を訪れると、井上から智恵子から届いたクリスマスカードを見せられる。智恵子は大輔が店で働いていることも知っていた。大輔は、智恵子と栞子には気をつけろと忠告される。

第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』

年が明けた1月4日、大輔は横須賀線で坂口しのぶに出会い、子どもの頃に読んだ本を探してほしいと頼まれる。しかし、本のタイトルや著者などは分からず、得られた情報は、タヌキとワニと犬が出てくる絵本みたいなので、たぶん西洋が舞台、というくらいだった。大輔はしのぶに実家を探すこと勧めると、しのぶは五浦たちも一緒に来てほしいと言う。
翌日、大輔が栞子に相談していると、しのぶの夫の昌司が店を訪れる。しのぶの本当の目的は関係がうまくいっていない両親に会いに行くことで、内心は和解を望んでいると語る昌司は、自分は実家に出入りを禁じられており、どうか協力してほしいと頭を下げる。
大輔たちがしのぶの実家に行くと、古いが手入れされている「なかよしの家」と書かれた犬小屋が残っていた。昔、しのぶが飼っていた犬はトービクという名前で、それは本に出てくる犬の名前だという。しのぶの部屋で本を探したが、目当ての本はなかったが、しのぶはまだ探す時間があるからと話す。しのぶの母親はバカと娘に冷たい言葉を投げ、最後には3人を追い出してしまう。
帰宅後、文香のカバンに付けられていたアクセサリーのキャラクターが海外のアニメに出てくる「トービク」という名前だったことがきっかけで、その本が何かが判明する。
しのぶに本を渡す日、店にしのぶの父親も訪れる。しのぶと父親はその本を開きながら、しのぶが少女時代に抱いていた思い、母親や父親が抱いていた思いを互いに話す。代金を払おうとするしのぶに、栞子は、お祝いに差し上げますと受け取らない。栞子は、最近のしのぶの変化から、今になってこの本を探すことにした理由も推理したのだった。

第三話 宮澤賢治春と修羅』(關根書店)

大輔は、栞子の母親の智恵子の話を聞くために滝野に会った際、タチの良くない依頼が来る可能性があるかもしれないから注意しろと忠告され、かつて滝野が撮った栞子たちの家族写真を渡される。
栞子は母の智恵子の同級生という玉岡聡子という女性から呼び出され、栞子と大輔が聡子の家を訪ねると、盗まれた宮澤賢治の『春と修羅』の初版本を取り返してほしいと頼まれる。聡子の亡き父親はビブリア古書堂から買った『春と修羅』の初版本を2冊持っており、盗まれた本は、後に買い求めた状態の悪い方の本だという。なぜそれを買ったのかという疑問に聡子は、予備に持っておきたいと思ったのか、働き始めた智恵子を応援したい気持ちもあったのかもしれないと語る。
父親は、蔵書の処分について、コレクションの半分は父親の出身大学に寄贈し、もう半分はビブリオ古書堂に引き取ってもらうように指示していたが、兄夫婦が残りも古本屋に売って代金を山分けしようと言ってきたために争いとなったという。
栞子と大輔は、聡子の兄夫婦にそれぞれ会って話を聞く。栞子は兄夫婦の息子にも話を聞き、犯人を特定する。そして、犯人から盗んだ理由を聞いた栞子は聡子に、状態の悪い本を大事にした理由、聡子が隠していたこと、亡き父親がそこに込めた思いを語り、亡き父が望んでいたとおりにするように勧め、蔵書の処分をめぐるトラブルを解決する。
聡子から栞子の父が栞子が『クラクラ日記』を売ろうとしていると苦笑いしていたと聞かされる。帰宅した栞子は父の遺品を探すが、『クラクラ日記』を見つけることはできなかった。

エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅱ

父の部屋で探しものをする栞子と大輔を見て、秘密がバレるかもしれないと思っ栞子は、これが最後になるかもしれないと思い、これまでの日記のような形ではなく、お便りっぽい文体でメールを書く。そして、亡き父から、いつか機会があれば姉に渡してほしいと頼まれた『クラクラ日記』の見返しに記されたメールアドレス宛てのメールを送信するのだった。

 

文香がパソコンに向かって記していたのは、彼女と栞子の母親の智恵子宛てのメールであることが、このエピローグで、明言こそされないものの、ほとんど明かさたような感じになります。この感じだと、第4巻以降は、本編でも、智恵子本人が、より重要な存在として登場することになるのでしょう。
一方で、大輔と栞子の恋模様は、あまり展開がないまま次巻に続くことになります。こちらの方の展開も気になります。