鷺の停車場

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小説「九月の恋と出会うまで」を読む

松尾由美さんの小説「九月の恋と出会うまで」を読みました。

九月の恋と出会うまで (双葉文庫)

九月の恋と出会うまで (双葉文庫)

 

今年、3月15日(金)に公開された実写版の映画をスクリーンで観ていました。たまたま原作本を見掛けたので、読んでみることに。


映画を観たのは8か月ほど前なので、細部までは覚えていませんが、原作本を読んで、基本的なあらすじ・展開には映画との違いは感じることはなく、原作にけっこう忠実に映画化したのだと今更ながら思いました。

ある女性と、偶然と女性への恋心から、過去を変えて、変える前の世界と変えた後の世界の間にパラドックスが生じるのを回避しようとする男性との間の恋愛物語。

部屋の壁に開けられたエアコン用の穴が時間を超えて未来とつながっていて、未来にいる人と話ができるというのが、本作の展開の前提となる大きな仕掛けになっているのですが、その部屋のその穴がなぜ未来とつながっているのかは、偶然、という以上の説明はありません。志織が買ったクマのぬいぐるみがある期間だけ志織に話し出すようになるのも、その期間の意味は分かりますが、ちょっと謎ではあります。そのあたりがちょっと腑に落ちず、個人的な感銘度は今一つでしたが、恋愛ものとしてはよくできた話だと思いました。


小説に章立てはなく、数字の見出しで6つの部分に区切られています。

多少ネタバレになりますが、ごく簡単にそれぞれの部分の概略を紹介すると、次のような感じです。




1.旅行代理店に勤め、写真が趣味のOL・北村志織は、あるトラブルから、2階建て・4室の小さな賃貸マンションに引っ越してくる。その部屋のエアコン用の穴から声が聞こえてくる。

2.その声は、自分は同じマンションに住む男性・平野で、1年後の時間に属していると説明し、それを納得させるため、翌日以降の新聞の見出しを話しメモさせる。その内容はすべて正確だった。未来の平野(シラノ)は、志織の勤務先の定休日の水曜に、現在の平野を尾行してほしいと依頼する。

3.次の水曜、志織は平野を尾行し、その結果をシラノに報告する。その翌週も尾行した志織は、事情を話すようシラノに迫ると、翌週が重要、それが過ぎたら話すという。

4.その翌週の9月29日、体調が優れない中、三度平野を尾行する志織だったが、途中で平野を見失ってしまう。帰宅すると、家が空き巣に入られていた。ちょっとしたきっかけで、志織は平野と話をするようになるが、その声はシラノの声とは違っていた。志織がこれまでの不思議な出来事を話すと、小説家志望でミステリーを書く平野は、シラノは1年後の同じ部屋から語りかけ、志織に起こった不幸な過去を変えるために空き巣が入った時に志織が外出しているよう仕向けたと推理する。

5.空き巣が入った日から、エアコン用の穴からシラノが語りかけることはなくなり、クマのぬいぐるみが志織に話しかけるようになっていた。志織がそれを平野に話すと、タイムパラドックスについて説明する。過去が変わればシラノが志織に働きかける必要がなくなるが、それでは過去と未来のつじつまが合わなくなる。2人は、過去が変わってもシラノが過去の志織に語りかけ、平野を尾行するよう仕向けるようにしなければならないとの結論に至る。

6.志織は、平野の求めでシラノの候補者をリストアップし、近々戻ってくる予定のマンションのオーナーの孫だと結論付ける。彼は小学生の時数ヶ月だけ志織のクラスメートだったことがあった。そんな中、志織は職場で転勤を打診され、平野の反対を聞かずマンションから引っ越す。そして、4月に入って、志織の携帯にシラノの声で電話が掛かってくる。待ち合わせてシラノに会う志織は、その真実を知る。(ここまで)



本作は、「書店員が選んだもう一度読みたい文庫」の恋愛部門で第1位に選ばれた作品なのだそうです。確かに恋愛小説としては、特に終盤の展開など、なかなか良かったと思いますが、それほどの作品かなあというのが個人的な印象。作者も主人公も女性なので、女性の方だともっと響く作品なのかもしれません。