鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

マリス・ヤンソンスの訃報に接し

ラトヴィア出身の指揮者、マリス・ヤンソンス(1943年~)が76歳で亡くなられたことを先日新聞記事で知りました。

旧ソ連時代、レニングラード・フィルの副指揮者としてムラヴィンスキーの薫陶を受け、その後は2003年からバイエルン放送交響楽団、2004年からはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(~2015年)の首席指揮者を務めるなど、世界的な第一人者として活躍されてきました。

私自身は、もう20年以上前になりますが、サンクト・ペテルブルクフィルハーモニー管弦楽団の来日公演で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とショスタコーヴィチ交響曲第5番を聴いたのが、生でヤンソンスが振る演奏に接した唯一の経験でした。演奏の印象はもはや残っていませんが、これが本場の演奏なんだ、と感激したことは覚えています。

私は一時期ショスタコーヴィチにかなりハマっていたので、ショスタコーヴィチ交響曲などでヤンソンスの演奏をCDなどでけっこう聞いていました。その後は、NHKで放送されるコンサートの録画を見聞きするくらいで、最近のCDを買うことはほとんどなくなってしまったので、ヤンソンスがコンセルトヘボウやバイエルン放送響の首席指揮者に就任してからの演奏はほとんど聴くことがありませんでした。

ということで、私が知っているヤンソンスのCDは、20年以上前の録音ばかりなのですが、印象に残っているものをいくつか挙げてみたいと思います。 

f:id:Reiherbahnhof:20191202235451j:plain

Symphony 1 " Winter Dreams "

Symphony 1 " Winter Dreams "

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Chandos
  • 発売日: 1992/10/28
  • メディア: CD
 

チャイコフスキー交響曲第1番 ト短調 op.13「冬の日の幻想」
マリス・ヤンソンス指揮オスロフィルハーモニー管弦楽団
(録音:1985年4月25~30日、オスロ、フィルハーモニック・コンサート・ホール)

ヤンソンスが新進気鋭の指揮者として活躍していた時期、1979年から2000年まで首席指揮者を務めていたオスロ・フィルとのチャイコフスキー交響曲全集からの1枚。若々しさを感じさせる演奏は、この曲の雰囲気によく合っています。

f:id:Reiherbahnhof:20191202235755j:plain

Symphony 5

Symphony 5

 

プロコフィエフ交響曲第5番 変ロ長調 op.100
マリス・ヤンソンス指揮レニングラードフィルハーモニー管弦楽団
(録音:1987年10月15日、ダブリン、ナショナル・コンサート・ホール)

おそらくレニングラード・フィルの演奏旅行中に録音された1枚。1988年1月に亡くなったムラヴィンスキー時代のレニングラード・フィルを知ることができる録音としても貴重な1枚。残響が多めの響きで、レニングラードの本拠地で録られたライヴ録音とは、かなり雰囲気が違います。この曲のベスト盤かというとまた違いますが、オケの高い実力がうかがえるいい演奏。

f:id:Reiherbahnhof:20191203000054j:plain

ショスタコーヴィチ:交響曲第7番

ショスタコーヴィチ:交響曲第7番

 

ショスタコーヴィチ交響曲第7番 ハ長調 op.60「レニングラード
マリス・ヤンソンス指揮レニングラードフィルハーモニー管弦楽団
(録音:1988年4月22~23日、オスロ、コンサート・ホール)

このディスクは以前の記事でも紹介したことがあります。ムラヴィンスキーが亡くなった直後、これもおそらく演奏旅行中に録音された1枚。ケレン味なく、真っ向から作品に向き合った演奏。1楽章も、テンポはスコアに比較的忠実で、重戦車が進んでいくような重厚さはありませんが、奇をてらわない演奏によって、図らずも戦争の狂気のようなものが表出されているように思います。2楽章中間部の突き抜けたような表現や3楽章の叙情的な表現も素晴らしい演奏です。

f:id:Reiherbahnhof:20191203000409j:plain

ラフマニノフ交響曲第2番 op.27/スケルツォ ニ短調/ヴォカリーズ op.34-14
マリス・ヤンソンス指揮サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1993年9月、サンクト・ペテルブルク、フィルハーモニー・ホール)

上の2枚と同じコンビですが、ソ連崩壊を経て、楽団名が変わった後の録音。ソ連時代は国内トップクラスのオケだったわけですが、ソ連崩壊を経て、様々な混乱があったのだろうと思います。待遇面の事情などから、他のオケに移った団員もいたと聞いたことがあります。そういう影響なのか、ホールなど録音の問題なのか、上の2枚と比べると、ややくすんだ響きで切れ味の鋭さも薄まっている感じがありますが、ヤンソンスの身振りの大きな指揮で表現の幅の広い演奏になっている印象。 

f:id:Reiherbahnhof:20191203001022j:plain

ショスタコーヴィチ:交響曲第10番

ショスタコーヴィチ:交響曲第10番

 

ショスタコーヴィチ交響曲第10番 op.93
ムソルグスキー:死の歌と踊り
マリス・ヤンソンス指揮フィラデルフィア管弦楽団、ロバート・ロイド(バス)
(録音:1994年3月、フィラデルフィア、メモリアル・ホール) 

上の「レニングラード」の後、様々なオケを振ってEMIに録音されたショスタコーヴィチ交響曲全集からの1枚。個人的にショスタコーヴィチ交響曲の中で1~2を争う大好きな曲、聴いたことのあるどの演奏も一長一短あるのですが、その中でも総合的にはかなり優れた演奏。どっしり腰を据えた感じが印象的です。 

f:id:Reiherbahnhof:20191203001046j:plain 

ショスタコーヴィチ交響曲第5番 ニ短調 op.47/室内交響曲 op.110a
マリス・ヤンソンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1997年1月、ウィーン、ムジークフェラインザール) 

これもショスタコーヴィチ交響曲全集からの1枚。ウィーン・フィルショスタコーヴィチはかなり珍しいと思います。交響曲第5番も悪くない演奏ですが、弦楽四重奏曲第8番を弦楽合奏に編曲した室内交響曲は、ウィーン・フィルの弦の良さが発揮されたいい演奏だと思います。

 

改めてご冥福をお祈りします。