鷺の停車場

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映画「風の電話」

先日、「風の電話」(1月24日(金)公開)を観に行きました。

諏訪敦彦監督が、大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが自宅の庭に設置した〈風の電話〉をモチーフにして制作した作品とのことで、全国99館で公開されています。諏訪監督は、即興的な演出手法で知られる監督さんだそうですが、私は初めて。

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行ったのはMOVIX柏の葉

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この週の上映スケジュール。「風の電話」は公開2週目ですが、早くも朝1回だけの上映になっています。初週の週末の入りがあまり良くなかったのでしょう。

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上映は105席のシアター4。

入ってみると、お客さんは20人ちょっとという感じ。思ったより入っていました。

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(チラシの表裏)

公式サイトのストーリーによれば、

17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか―。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある<風の電話>へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に―。

というあらすじ。

ドキュメンタリータッチなロードムービー。間が長めなので、テンポのいい展開に慣れている人には退屈に感じるかもしれませんが、心に刺さる作品。こんなに涙するとは思ってなかった。

 

ネタバレですし、勘違いもあるかもしれませんが、記憶の範囲で、もう少し詳しく書き起こしてみます。

 

東日本大震災津波で両親と弟を失った女子高生ハル(春香)【モトーラ世理奈】は、震災後大槌を離れ、呉で暮らす伯母の広子【渡辺真起子】と2人で暮らしていた。
ある日ハルが帰宅すると、広子はヤカンに火を付けたまま、台所で倒れていた。広子の急な入院に不安に駆られたハルは、西日本大豪雨の土砂崩れで関係者以外立入禁止となっている場所に歩いていき、心の内を大声で叫ぶ。そのまま倒れ込んでしまったハルを、通りがかった公平【三浦友和】が助けてくれる。公平はボケが進む実母【別府康子】との2人暮らし、ハルを見た実母は、亡くなった公平の妹と勘違いして温かい言葉をかける。
公平に駅まで送ってもらったハルは、衝動的に、制服姿のまま、ヒッチハイクで故郷の大槌に向かおうとする。最初に乗せてくれたのはシングルマザーになろうとする臨月が近い姉【山本未來】とその弟の2人連れ。その夜、ヤンキーにからまれて連れていかれそうになったところを助けて車に乗せてくれたのは森島【西島秀俊】だった。
森島は、ハルを乗せて埼玉に向かい、震災時のボランティアでお世話になったクルド人を探すが、彼は入管に収容されていると知る。2人はその家族を訪ねた後、森島が震災前に住んでいた福島に向かう。森島は福島で原発の作業員をしていたが、妻と娘を津波で失い、原発の事故で住めなくなった自宅を離れ、車で寝泊まりする生活を続けていた。
久しぶりに自宅に戻って風を通す森島。ハルの心中に両親と弟と過ごしていたころの風景が蘇る。近くに住む今田【西田敏行】の家で夕食をごちそうになる2人。今田はハルに震災で被災したときの話を聞かせる。
福島を出て、ハルの故郷の大槌に着いた2人。ハルは震災のとき一緒にいたが避難時にバラバラになってしまい亡くなった友人の母親【占部房子】にばったり会う。母親はハルと話しているうちにこらえきれなくなり涙を流す。彼女に謝るハルだったが、彼女はハルを温かく抱きしめる。そして、自宅の跡を訪ねたハル。土台だけが残っている自宅跡で何度も「ただいま」と声を掛けるが、返事が返ってこないことに、心の内を叫び、倒れ込む。森島はハルを優しく抱き起こして駅まで送り、「ちゃんと帰るんだぞ」と帰りの交通費を渡して別れる。
ホームで列車を待つハルは、死者と話ができるという「風の電話」に行くという少年に出会い、一緒に「風の電話」に行くことにする。着いてみると、「風の電話」は丘の上にポツンとたたずむ電話ボックスだった。少年が1年前に交通事故で亡くした父親と話をした後、ハルは「風の電話」に入り、両親や弟に自分の心境を語り、涙する。電話を終えたハルは、しばしたたずんだ後、再び歩き出す・・・

 

途中で出会う森島は、最初は適当なところで下ろそうとしますが、自分と同じく家族を津波で失ったハルに近いものを感じ、親身に彼女を大槌まで送ることになります。普通なら、ヒッチハイクで広島から岩手に行くには、何台もの車に拾ってもらい乗り継いでいかなければならないわけで、果たして大槌までたどり着けたかどうかも分かりません。被災地から遠く離れた広島近辺で、森島のような人に出会えたのは奇跡的な偶然。

一点、森島がクルド人を訪ねるシーンは、どこまで必要だったのかよく分かりませんでした。もちろん監督には一定の意図があったのでしょうけど、本筋とは直接には関係しないエピソードで、本編139分という長さを考えると、この部分をカットしてまとめた方が、より求心力が高まったような気がしました。

ただ、それが致命的な問題と感じることはなく、それぞれのシーンを経るごとに、心の中に悲しみが降り積もっていくような感じがあって、福島から大槌に向かう車中、森島が、お前が死んだら、お前の家族を思い出してくれる人は誰もいなくなってしまうんだ、とハルに語るシーンで涙してからは、大槌での友人の母親との再会、自宅跡の訪問、風の電話での家族との「会話」と、涙腺が緩んでばかりでした。

主演のモトーラ世理奈の演技は、他の女優さんだったらこの映画が成り立ったのだろうかと思うほど、いい意味で強烈な印象で、脇を固める俳優陣の演技も良かったと思います。

重たいテーマで好き嫌いが分かれるでしょうし、先に書いたようにドキュメンタリータッチで間が長めなので、人によっては退屈に感じるかもしれませんが、私にとってはとてもいい映画でした。