住野よるさんの小説「よるのばけもの」を読みました。その紹介と感想です。
- 僕/俺(安達):主人公で、夜になると目が8つ足が6つ尾が4つのばけものに変身する男子高生。クラスの友人にはあっちーと呼ばれている。
- 矢野さつき:安達と同じクラスの女子高生。クラスでイジメられ全員から無視されている。夜の教室に「夜休み」と称して姿を現す。
- 緑川双葉:同じクラスの女子高生。図書館で過ごす物静かな子だが、クラスでは矢野と対照的な扱いを受けている。
- 笠井:同じクラスの男子高生。クラスの中心となっている。
- 井口:同じクラスの女子高生。心優しい性格で、矢野が落とした消しゴムを反射的に拾ったせいでイジメの標的になりかける。
- 中川:同じクラスの女子高生。矢野のイジメに積極的に加わっている。
- 元田:同じクラスの男子高生で野球部。イジメに積極的に加わっている。ばけものを捕まえようと夜の学校に侵入する。
- 能登先生:保健室の女性教師。イジメに気づいており、矢野にアドバイスはするが、積極的には介入しない。
というあたり。
本編に章立てなどはありませんが、時間の推移を示す形で、〈火・夜〉から〈火・昼〉まで、土日を除く2週間の平日の夜と昼を示す見出しで区切られています。
大まかなあらすじは、
忘れ物を取りに、ばけものの姿で夜の教室に行った安達は、「夜休み」と称して教室に来た矢野と鉢合わせする。矢野に昼間の安達だとバレてしまい、それを隠す代わりに翌日も来るように言われる。昼の学校で、矢野はあいさつをしても全員に無視され、様々な嫌がらせを受けるが、イジメられても矢野はにんまり笑うのだった。矢野が落とした消しゴムを反射的に拾ってしまったことで、井口がイジメの標的になったことを知った矢野は、井口を突然ビンタして自分が身代わりになる。夜の教室で話しているうちに、矢野が笑うのは怖いときの癖であることを知った安達は、朝登校してきた矢野のあいさつに「おはよう」と返事するのだった。
・・・というもの。
前2作と比べて、自己の内部に沈潜して、自らを見つめる要素が強く出ています。表面的には、大きな出来事といえば、矢野が井口にビンタする、元田がばけものを捕まえようと夜の学校に侵入して返り討ちに遭う、といったくらい。
なぜ、安達が夜にばけものの姿に変身するのか、矢野が「夜休み」と称して毎晩学校に来るのか、といった本作の基本的な設定については、ほとんど説明はありません。的外れかもしれませんが、教室という同じ場所での夜と昼を描くことで、その対比を尖鋭化させようとするのが狙いで、夜にばけものの姿に変身し、眠ることができない安達の姿は、自分がイジメの標的にならないようにするために、消極的にイジメに加担している自分の心の暗部を象徴する比喩的な表現なのだろうと思って読みましたが、私にはそれほどには響きませんでした。