鷺の停車場

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映画「栄光のマイヨジョーヌ」

ドキュメンタリー映画「栄光のマイヨジョーヌ」(2月28日(金)公開)を観に行きました。

以前にツール・ド・フランス(フランス一周レース)などのテレビ番組を見ていたこともあって、自転車ロードレースチームのドキュメンタリーということで気になっていたのですが、公開時の上映館は新宿となんばのたった2館でした。好評だったのか、3/13から上映館が拡大された(といってもまだ全国6館ですが…)と知って、観に行くことにしました。

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行ったのはMOVIX柏の葉新型コロナウイルスの影響か、ロビーは閑散としていました。

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この日の上映スケジュール。レイトショーは中止で、18:15~の上映が最終回となっていました。

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上映は105席のシアター5。入ってみるとお客さんは15人ほど。

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オーストラリア初のプロ・サイクリング・ロードレースチーム、オリカ・グリーンエッジの発足した2012年から5年にわたって、チームの内部からその活動・闘いを追ったスポーツ・ノンフィクション映画。

原題の「ALL FOR ONE」は、日本語に訳せば「みんなは1つの目的のために」といった意味でしょう。邦題の「栄光のマイヨジョーヌ」は、本編中にも出てくる世界最高峰のロードレース「ツール・ド・フランス」でその時点の総合トップの選手だけが着ることができる「マイヨジョーヌ」(黄色いジャージ)を使ったもの。

映画の監督はオーストラリア人のダン・ジョーンズ。ツール・ド・フランス関係の番組作成にも関わっていた経験を買われ、グリーンエッジ設立に際して、チームオーナーからチームの活動を映画化する依頼があり、専属のビデオグラファーとしてチームに密着し、普段の生活も含め選手たちの様子を撮影してきた方だそうです。

本編中にも、レースに臨む選手たちのほか、ミュージックビデオの口パクや料理動画などもネット配信する「バックステージ・パス」が人気を博した話題が出てきますが、新しいチームが知名度や人気を高めるための取組だったのでしょう。

 

映画は、2010年のツール・ド・フランスで各出場チームのサポートカーに国旗をペイントされているのを見たオーストラリア人の実業家のジェリー・ライアンが、ここにオーストラリアの国旗を、とロードレースチームを作ることを思い立つところから始まります。

そして、チームマネージャーにシェイン・バナンを起用し、オーストラリア人を主体に、それぞれの個性やチームに溶け込めるかどうかも考慮して選手を選び、約30人の選手でチームを結成、2012年のシーズンからレースツアーに参加することになります。

最初のシーズン、序盤のクラシック・レースであるミラノ〜サンレモでエースのサイモン・ゲランスが優勝するも、ツール・ド・フランスでは目標のステージ勝利を得ることができません。

翌2013年、ステージ勝利を目指しツールに臨んだグリーンエッジ、初日のステージでゴールバナーにチームバスが接触しあわやゴール地点変更する騒動を起こしてしまいますが、その後のチームタイムトライアルで勝利し、エースのゲランスはマイヨジョーヌを獲得します。その翌日のステージで、ゲランスはチームに貢献する南アフリカ人のダリル・インピーにあえてマイヨジョーヌを譲ります。そのシーズンオフ、事故で重傷を負って選手生命を諦めかけていたが、グリーンエッジが声を掛け、リハビリに励んできたコロンビア人のエステバン・チャベスがチームに加入します。

2015年のシーズン、ベテランのマシュー・ヘイマンは過酷な石畳コースで有名なクラシック・レースのパリ~ルーベで優勝を目指すと宣言し、チームもそれをサポートしますが、優勝を逃し、ヘイマンは下位に沈んでしまいます。しかし、シーズン終盤の三大ツール(グランツール)の1つであるブエルタエスパーニャ(スペイン一周レース)で、怪我のため若手のサポートに回ったゲランスのアドバイスで、チャベスは山岳コースでアタックを仕掛け、見事ステージ勝利を果たします。

2016年のシーズン、ヘイマンがパリ〜ルーベの6週間前に腕を骨折してしまいますが、トレーニングを続けてパリ~ルーベに挑み、ゴールでのスプリント勝負を制して前年の雪辱を果たしたところで、映画は終わります。

 

世界最高峰のレースで戦うために新設されたチームが成長していく過程を、レースに挑む選手の映像はもちろん、レース中に無線で選手たちに指示を出すチームカーの車内の様子、選手やスタッフなどのコメント、レースを離れた選手たちの普段の姿などを交えながら描いています。レースシーンだけでは伺い知れないチーム・選手たちの実像を浮き彫りにしているのは、チーム創設時から専属ビデオグラファーとして撮影してきたからこそ可能だったのだろうと思います。個人的には、怪我からの復帰に苦しんだチャベスブエルタでのステージ勝利、ヘイマンのパリ~ルーベの優勝シーンは涙腺が緩みました。

本編中には、美しいシーンばかりではなく、目を背けたくなるような痛々しい落車の映像など、過酷なレースの実態も描かれます。パリ~ルーベが石畳の過酷なレースであることは知っていましたが、凄惨なクラッシュシーンも含め、選手の間近で撮られた実際の生々しい映像を見て、こんなに過酷な、でも特別なレースなのだとわかりました。

選手たちは、エースを勝たせるといったその日のレースのチームの作戦を成功させるため、刻々と変化する展開に応じて出される監督の指示に従い、自分の成績は二の次で、自分が風避けになってエースを引っ張るといったアシストに徹します。自転車ロードレース特有のチームプレイですが、組織の目標のために自己犠牲を厭わないアシストの行動は、日本社会の組織原理に近いような気もします。昨年のラグビーワールドカップで「ONE TEAM」が流行語になりましたが、チームを構築し支えるスタッフの努力、選手同士の信頼関係など、まさに「ONE TEAM」というべきチームの一体感を感じました。

自転車のロードレースチームを題材にしていますが、一般の組織にも通ずる、優れたヒューマン・ドキュメンタリーになっていて、自転車レースになじみのない人でも、きっと感じるものがあるだろうと思います。

今はまだ6館ほどの上映ですが、3月末から4月にかけて、イオンシネマを中心にさらに上映館が増えるようです。こんな状況ではありますが、機会があればぜひ(マスクをしながらでも)観てほしい作品だと思います。