米澤穂信さんの小説「愚者のエンドロール」を読んでみました。 その紹介と感想です。
京都アニメーション制作のテレビアニメ「氷菓」の原作となる〈古典部〉シリーズの第2作、第1作の「氷菓」に続いて、読んでみました。
表紙には「Why didn't she ask EBA?」という副題?が付いており、背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
【「わたし、気になります」 文化祭に出展するクラス制作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。その映画のラストでは、廃屋の鍵のかかった密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか? その方法は? だが、全てが明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。続きが気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出した!大人気青春ミステリ、〈古典部〉シリーズ第2弾!】
作品は、次の9章で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじを紹介します。
〇 アバンタイトル
パソコン通信のチャットで交わされる意味ありげな会話の形をとった導入部。ハンドルネームしか出てきませんが、この巻で中心人物となっている入須冬実が本郷真由、折木供恵、千反田えるの3人とそれぞれ交わした会話。
本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第8話「試写会に行こう!」のオープニング部分の原作となっています。
一 試写会に行こう!
千反田えるは、古典部の3人を連れて、2年F組が文化祭に向けて制作中の映画の試写会に行く。千反田を誘ったのは入須冬実で、クラスで撮影した映画について率直な意見を聞きたいという。それは、廃村の劇場で起きた殺人事件を描くミステリーだったが、トリックが明かされることなく途中で途切れていた。脚本を担当する本郷真由が倒れてしまい、後を継ぐ人が必要だという。入須から協力を求められた奉太郎たちは、オブザーバー的に協力することになる。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第8話「試写会に行こう!」の原作となっています。
二 『古丘廃村殺人事件』
古典部の4人は、2年F組の江波倉子に案内され、殺人事件のトリックを解き明かそうと、映画の助監督を担当する中城順哉から撮影時の事情や、殺人事件のトリックについての意見を聞くが、納得のできる内容ではなかった。奉太郎は江波に、撮影に使った脚本を見せてほしいとお願いする。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第9話「古丘廃村殺人事件」の前半部分の原作に当たりますが、アニメ版ではかなり圧縮されています。
三 『不可視の侵入』
翌日、奉太郎たちは、2年F組の教室で小道具班の羽場智博から話を聞く。羽場の推理も、納得できる内容ではなかったが、教室で見つけたシャーロック・ホームズの本の目次には、各編の題名の上に◎○△×の印が書き込まれていた。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第9話「古丘廃村殺人事件」の中間部分の原作に当たりますが、同様にかなり圧縮されています。
四 『Bloody Beast』
さらに翌日、奉太郎たちは、江波から撮影に使われた脚本を渡される。そして、広報班の沢木口美崎から話を聞き、映画の方向決めの際にクラスで行ったアンケート結果を見せてもらうが、彼女の推理はやはり納得できる内容ではなかった。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第9話「古丘廃村殺人事件」の後半部分の原作に当たりますが、同じくかなり圧縮されています。
五 味でしょう
沢木口から話を聞いた後、下校する奉太郎は、入須に誘われて茶店に行く。そこで3人から聞き取った推理について話す奉太郎は、入須に正解を見つけてほしいと頼まれる。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第10話「万人の死角」の前半部分の原作になっています。
六 『万人の死角』
これまでの情報を基に推理する奉太郎は、結論にたどり着く。それを入須に話すと、入須は晴れ晴れとした表情で、タイトルが付いていなかった映画のタイトルを付けないか、と奉太郎に話す。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第10話「万人の死角」の後半部分の原作になっています。
七 打ち上げには行かない
奉太郎の推理に沿って映画は完成するが、それを観た伊原、里志、千反田はそれぞれ、奉太郎が出した結論は、本郷の真意とは違うと指摘する。ダメージを受けた奉太郎は自室で考えをめぐらせる。翌日、偶然に入須と会った奉太郎は、今回の結論探しに隠された事情についての推理を入須に話す。奉太郎は入須にうまく利用されていたのだ。
本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第11話「愚者のエンドロール」の原作になっています。
八 エンドロール
冒頭の「アバンタイトル」と同様に、パソコン通信のチャットの会話。入須と本郷、入須と折木供恵、そして奉太郎と千反田の会話になっています。奉太郎は、本郷が意図していたであろうミステリーの真相を千反田に語る。
本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第11話「愚者のエンドロール」の後半部分の原作になっていますが、本編での奉太郎と千反田の会話は、アニメでは実際に会った時に話すことになっています。
(ここまで)
前作の「氷菓」は、30年前に起きた千反田の伯父・関谷純をめぐる真相を解き明かすという全体を貫くテーマを、奉太郎が高校生活で遭遇する小さな謎解きを織り交ぜながら描く形でしたが、本作では、少し違って、撮影途中の自主制作ミステリー映画を完成させるため、そのトリックと結末を解き明かすというメインテーマに絞った形で描かれています。
アバンタイトルとエンドロールに出てくるパソコン通信のチャットは、今であればLINEなどのSNSで交わされるはずで、18年前の作品という時代を感じますが、本編で描かれる謎解きは、そのような古さを感じることなく読むことができました。同じ謎解きで、最初に奉太郎が到達した結論も説得力があるのに、それを伊原、里志、千反田にそれぞれ違った根拠で否定されて、再び結論にたどり着く、二通りの結論を用意しているあたりは、とても鮮やかに感じました。
さらに続きを読んでみようと思います。