鷺の停車場

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米澤穂信「遠回りする雛」

米澤穂信さんの小説「遠回りする雛」を読んでみました。 その紹介と感想です。

遠まわりする雛 (角川文庫)

遠まわりする雛 (角川文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: 文庫
 

テレビアニメ「氷菓」の原作となる〈古典部〉シリーズの第4作、第3作の「クドリャフカの順番」に続いて、読んでみました。

表紙には「Little birds can remember」という副題?が付いており、背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

折木奉太郎は〈古典部〉部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する―—。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか〈古典部〉を過ぎゆく1年を描いた全7編。〈古典部〉シリーズ第4弾!】

 

前3作は、全体で一つの謎を解いていく長編でしたが、本作は、入学してからの一年間の折々を描いた短編集になっており、次の7編で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじを紹介します。

やるべきことなら手短に

入学間もない4月の終わりごろ、奉太郎は、千反田が音楽室で起きた「月光を奏でるピアノ」の謎の話を持ち出さないよう、「女郎蜘蛛の会」なる未公認の部活が未公認の勧誘ポスターを毎年1枚貼り出している謎の話を持ちかけ、その謎を解く。それは、「やるべきことなら手短に」という奉太郎の省エネ主義から出たものだった。

テレビアニメ版「氷菓」の第1話「伝統ある古典部の再生」の後半部分の原作となっています。

大罪を犯す

ある日の授業中、隣のクラスで、教鞭を黒板に打ち付けて怒る教師に対し、激しい口調で声を荒げる千反田らしい声が聞こえる。その放課後、奉太郎は、千反田から何が起こって怒らなければならなかったのか、その謎を推理することになる。

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第6話「大罪を犯す」の原作となっています。

正体見たり

夏休み、「氷菓」事件が解決した古典部の4人は、伊原の親戚が営む民宿に合宿に行く。別館の一室に泊まる伊原と千反田は、夜中に起きたとき、向かいの本館の2階の一室に、首吊りの影を見る。奉太郎と千反田は、その謎を解くことになる。

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第7話「正体見たり」の原作となっています。

心あたりのある者は

ある放課後、古典部の部室で過ごす奉太郎は、千反田に自分が有能な人間ではないことを証明しようと、お題を出すよう求める。そして、たまたまそこに入った、駅前の店で買い物をした心あたりのある者に出頭を求める校内放送が、どういう意味で行われたのかを推理することになる。

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第19話「心あたりのある者は」の原作となっています。

あきましておめでとう

お正月、伊原が巫女のバイトをしている神社に千反田と初詣に訪れた奉太郎、社務所に挨拶に行った千反田が、頼まれた物を取りに蔵に行くのに付き添うが、あることから納屋に2人で閉じ込められてしまう。奉太郎は、何とかして伊原や、来ることになっている里志にメッセージを伝えて開けてもらおうと、頭を絞る。 

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第20話「あきましておめでとう」の原作となっています。

手作りチョコレート事件

ずっと里志が好きな伊原の思いを保留している里志。バレンタインデー、その日漫研で忙しい伊原は手作りチョコレートをやってくる里志に渡そうと古典部の部室に置き、千反田がそれを見届けようと部室で待っていたが、千反田がちょっと席を外した隙にチョコレートがなくなってしまう。奉太郎はその謎を解き明かそうとする。

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第21話「手作りチョコレート事件」の原作となっています。

遠回りする雛

春休み中、奉太郎は千反田の頼みで、千反田の地元で開かれる「生き雛まつり」に参加することになる。千反田たちが扮した「生き雛」が練り歩く祭りだが、連絡の手違いで通る予定だった橋が工事で通れなくなっていた、地元の名家である千反田の取り計らいで、一つ先の橋を渡って遠回りすることで無事に祭りは開催されるが、終わった後、千反田と奉太郎はそれがなぜ起きたかを推理する。

本編は、テレビアニメ版「氷菓」の第22話「遠まわりする雛」の原作となっています。 

(ここまで)

 

本作までの4巻が、テレビアニメ版「氷菓」の各話にほぼ対応する部分になっており、神山高校に入学した奉太郎たちの1年間を描いたことになります(唯一の例外は、テレビアニメ第18話「連峰は晴れているか」ですが、その原作となる短編は、シリーズ第6巻の「いまさら翼といわれても」に収載されているようです。)。 

本作は、長編だった前3巻とは違って短編集なので、大きな謎の仕掛けがあるわけではなく、各編がそれぞれ、奉太郎たちの日常の中で遭遇する小さな謎解きになっています。この中でやや異色なのは「あきましておめでとう」で、直接には、謎解きではなく、伊原や里志にどうメッセージを伝えれば鍵を開けに来てもらえるか頭を絞るという内容ですが、限られた手段で相手が解けるような謎を出すという面もあるので、全体の統一感は失われてはいません。テレビアニメ版でもそうでしたが、最後の「遠回りする雛」は印象的。描かれる謎解きは小さなものですが、地域の名家である千反田家の運命を受け入れる千反田えるの思いや振舞い、千反田への恋心に気付くが、しかしそれを口にするのを憚る奉太郎、その描写は心に残りました。