鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

山本文緖「絶対泣かない」

山本文緖さんの小説「絶対泣かない」を読みました。

絶対泣かない (角川文庫)

絶対泣かない (角川文庫)

  • 作者:山本 文緒
  • 発売日: 1998/11/19
  • メディア: 文庫
 

1995年5月に大和書房から出版された作品で、1998年11月に文庫本化され角川文庫から刊行されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 ----------

あなたの夢はなんですか?
仕事に満足してますか?
仕事に誇り、もってますか?
お金のためでもあり、お金以外のためにも、ひとは働く。
職場におこるさまざまな人間関係とハプニング、プライドにもまれて、ときには泣きたいこともある――。
専業主婦から看護婦、秘書、エステティシャンまで、あなたに向いている15の職業のなかで、自立と夢を追い求める女たちの人知れぬ心のたたかいを描いた、元気の出る小説集。

---------- 

作品は、上の紹介文にあるとおり、15の職業に就く女性の姿をそれぞれ描いた短編集。フラワーデザイナー、体育教師、デパート店員、漫画家、営業部員、専業主婦、派遣社員、看護師、女優、テレビのタイムキーパー、銀行員、水泳インストラクター、秘書、養護教諭エステティシャンの15人が描かれています。

 

各編のおおまかな内容を紹介すると、

 

花のような人………フラワーデザイナー

損保会社に同期入社した女性6人の1人でフラワーデザイナーになるため退職した薔子。2年後に会った時は疲れているように見えたが、その1年後に再会すると全く違っていた。

ものすごく見栄っぱり………体育教師

生徒からは「アケボノ」と呼ばれる大柄な体育教師・上田アキミが、お見合いに臨むと、その相手は水泳の授業を休んで厳しく叱った生徒の兄だった。

今年はじめての半袖………デパート店員

社内恋愛が破局して会社を辞めて、デパートの契約社員となりがむしゃらに働く女性。ミスをしたアルバイトを叱りつける自分は恐れられていると思っていたが、意外なことがきっかけで、それが思い込みだったことが分かる。

愛でしょ、愛………漫画家

東京に出た娘・千恵子がレディースコミックを描く漫画家になっていると知った母親が、いてもたってもいられず上京する。最初は娘と言い争う母親だったが、娘を先生と慕う若いアシスタントの話を聞いて考えを改める。

話を聞かせて………営業部員

希望して営業に配属になった衿子、あるお店だけは何度足を運んでも店主に冷たい対応をされる。恋人のアドバイスでいつもと違う時間に訪問すると、店主の対応は全く違った。それには、意外な理由があった。

愛の奇跡………専業主婦

10代の頃から憧れていた脚本家・朝比奈光一郎。10年越しの片思いが成就してその妻となった女性が、回想しながら自分の幸せを噛みしめる。

アフターファイブ………派遣・ファイリング

派遣社員としてバリバリ仕事をして定時に帰る加納。仕事ができない正社員の緑川ゆう子のやっかみを受け反発するが、職場で存在感のなかった窓際族の男性に諭される。

天使をなめるな………看護婦

恋人ができても、数ヶ月経つとふられてしまう看護婦。入院患者と付き合うのが原因なのだとわかっていても、悲しい気持ちに襲われながら、夜勤のため病院に向かう途中、突然男性から声を掛けられる。

女神の職業………女優

たまたま見た芝居に出ていた女優に釘付けとなり、大道具の研修生としてその劇団に入った中学3年生の鈴木正彦。稽古中に演劇指導の主宰者と喧嘩になり、稽古場を出ていったその女優を追っていくと、彼女の素顔は舞台で見る印象とは全く違うものだった。

気持ちを計る………タイムキーパー

地方都市のテレビ局でタイムキーパーとして働く北島の職場に、東京のテレビ局での経験もある女性プロデューサー・成瀬が入社してくる。我が物顔で接する成瀬は周囲の反発を招き、番組中にトラブルが起きてしまう。

真面目であればあるほど………銀行員

銀行員の大久保は、ボーナス時期のノルマになっている定期預金の獲得のため、大学時代の恋人だった滝本に声をかけ、久しぶりに会う。

もういちど夢を見よう………水泳インストラクター

選手の道を諦め、スイミングスクールでインストラクターのバイトをしている22歳の美咲が受け持つ平日午後のクラスに、全く泳げない中年男性・鳴門が入ってくる。その姿に生理的に嫌悪感を感じる美咲だったが、ある出来事から、彼が水泳を始めた理由を知る。

絶対、泣かない………秘書

小さな会社の社長秘書となった女性。面接で自分を選んだのにもかかわらず何かと厳しく接する社長・太田信子に、仕事を辞めることも考えるが、社長の態度には意外な事情があった。

卒業式まで………養護教諭

養護教諭になって3年目の女性、秘かに保健室の常連で不良少年の健司に恋心を抱き、健司を好きらしい美衣子の若さに嫉妬している。しかし、健司はやはり保健室の常連の水橋早苗が好き。3人の常連たちと保健室の先生の何気ない日常。

女に生まれてきたからには………エステティシャン

永久脱毛の施術をするエステティシャン、そのお客・猪俣の姿にかつての自分を重ね合わせる。痛みに耐える猪俣が漏らした愚痴に、つい反応してしまった彼女は、トラブルを起こしてしまう。

(ここまで)

 

どれも、読後に温かい気持ちになって、少し前向きになる、ちょっといい話でした。(「アフターファイブ」はやや違うかもしれません)個人的には、デパートの契約社員を描いた「今年はじめての半袖」が一番印象に残りました。

それぞれの職業は、よく知らないものが多いので、どのくらいリアルに描かれているのかは判断つきませんが、一線で働く女性であれば、もっと真に迫って映るのだろうと読みながら思いました。