鷺の停車場

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美奈川護「星降プラネタリウム」

美奈川護さんの小説「星降プラネタリウム」を読みました。

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

  • 作者:美奈川 護
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫
 

たまたま図書館で手にした本。文庫本書き下ろしのようです。著者の美奈川護は1983年生まれで、第16回電撃小説大賞で金賞を受賞してデビューした作家さんだそうですが、私は初めて。 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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施設運営部プラネタリウム事業課天文係——それは、5月上旬に新入社員研修を終えた渡久地昴(とくじ すばる)が告げられた配属先だった。希望とは違う部署で働くことになった昴は、先輩である望月にプラネタリウムのコンソールボックスへ案内された。上映が始まると、指先一つで宇宙を操り、観客に星の解説をする仕事を目の当たりにする。「人は何のために星を見るのでしょうか」その答えを知るために、故郷を捨てた己と向き合っていく。

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作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

序章

星空が美しい離島の夜、少年・昴と少女はある約束をする。そして、少年は、少女が口にした疑問を考え続けていた。星はどんな音を出して生まれるのか、星はどこで生まれるのか。

春の章

大学を出て大手不動産管理会社に就職した渡久地昴は、なぜか希望してもいない会社が運営するプラネタリウム、コズミックホール渋谷に配属される。先輩の望月慧子に付いてプラネタリウムのコンソールボックスで上映を見た昴は、同僚から魔女と呼ばれる望月の操作や解説の上手さに驚く。昴は、綺麗な星空を売りに観光地として成功し、今は星降村と名を変えた離島の出身だったが、観光地化した故郷から目を逸らしていた。

夏の章

望月のスパルタ教育を受けて、7月上旬、昴は初めて解説台に立ち、少しずつ経験を積んでいく。そして、個人での貸切上映を申し込んだ音楽プロデューサーの浅海イチタカが宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に特別な思いを抱いていることを察した昴は、それをベースにした台本を書き、車椅子の母親を連れて来場した浅海に上映する。

秋の章

ある日、観客の女性からうお座近くの十等星が見たいと言われる。その後、昴は望月が館長の賀陽に掛け合うのを耳にする。その頃、昴は少年の時に約束をした2歳上の少女・速水天音と再会する。天音は一度は放棄した医者になる夢を叶えるため、医学部を目指していた。もし十等星を投影できるのなら自分が解説をしたいと言う昴に、望月と賀陽が真相を明かす。2年前に亡くなった賀陽の息子で望月の夫だった技術者・恒輝が独自に製作した十等星が投影できる恒星原版があるのだと。昴の熱意に、1日だけ、その恒星原版を投影することになる。それを夫婦で見に来た女性には気をその星に込めたある思いがあった。

冬の章

昴は館長の賀陽から、観光コンサルタントとタイアップして星降村で開かれる天体観測イベントで解説する話を持ち掛けられる。観光地化した故郷から目を逸らしてきた昴は逡巡するが、賀陽の命で数年ぶりに星降村に帰って星空を見上げ、また、天音から今になって医学部を目指しているわけを聞いたりする中で、その仕事を引き受けることを決め、天音をそのイベントに誘う。迎えたイベント当日、満天の星空の下、昴は自分の熱い思いも交えながら星空を解説する。解説を終えた昴に、天音は幼い頃の約束を守ってくれたと語る。

終章

春になり、就職して1年を迎えようとしていた昴は、望月のスパルタ教育の下、初めてコンソールボックスの操作盤デビューを果たす。そして、天音からは、医学部合格の知らせが届く。

 

(ここまで)

観光地化して変わってしまった故郷に屈折した思いを抱き、目を逸らしてきた昴が、就職して配属されたプラネタリウムで働き始め、解説員として少しずつ力をつけていく中で、故郷に向き合い、受け入れるようになっていく成長物語。天音との関係、望月の秘められた過去などの要素も織り込んで、爽やかな読後感が残る作品でした。