鷺の停車場

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河野裕「凶器は壊れた黒の叫び」

河野裕さんの小説「凶器は壊れた黒の叫び」を読みました。 

凶器は壊れた黒の叫び (新潮文庫nex)

凶器は壊れた黒の叫び (新潮文庫nex)

  • 作者:裕, 河野
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 文庫
 

「汚れた赤を恋と呼ぶんだ」に続く階段島シリーズの第4弾で、2016年10月に刊行された作品。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

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新聞部の創設。柏原第二高校に転校してきた安達は、島で唯一の小学生・相原大地のために部活動を始めることを提唱する。賛成するクラスメイトたちだったが、七草はそれが堀を追い込むために巧妙に仕組まれた罠であることに気づく。繙かれる階段島の歴史と、堀が追い求めた夢。歩み続けた7年間。その果てに彼女が見つけた幸福と、不幸とは……。心を穿つ青春ミステリ、第4弾。

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作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

プロローグ

階段島で、七草は同じ寮で暮らす小学2年生の相原大地を夕食後部屋に招いて彼の事情を聞く日々を送っていた。そんなある日、魔女から電話がかかってくる。魔女は、ここままだと階段島が崩壊する、ある少女が魔法を奪いにくる、と語る。

一話、ふたつの星

1 七草 三月四日(木曜日)

100万回生きた猫と話す七草は、彼に、堀と友達になって、自分には話せないという秘密を訊き出してほしいと頼む。

2 真辺 同日

真辺は、前の週に転校してきてクラスメイトになった少女・安達に声をかけられる。大地を紹介してほしいと頼む安達は、魔女の正体は七草が知っていると話す。

3 七草 同日

七草は、2月27日の土曜日に堀と会って、安達のことを話していた。堀は話したいことはいっぱいあるけど七草には話せないと言っていた。郵便局で時任から情報を得ようとするがはぐらかされる七草は、魔女に、階段島に込めた理想は何かを尋ねる手紙を出す。

4 真辺 三月五日(金曜日)

大地のために部活動を作りたいという安達の誘いで、真辺は放課後に教室に残り、安達と水谷、佐々岡、堀と話す。安達は新聞部を提案するが、その場で突然七草に、付き合ってと告白する。その帰り、真辺は七草に、最初に捨てられた君を拾ったのは私かもしれないと話すが、次の言葉を発しようとしたところで意識を失ってしまう。

5 七草 三月六日(土曜日)

七草は安達と会って話をする。魔女だが魔法は遣えない、その資格を奪い取らなければいけない、魔女は別の魔女に不幸を証明されるとその魔法を失う、私は七草の敵じゃない、本当の敵は堀だと話す安達。その夜、七草が堀に会いに行こうとすると、堀ではなくタクシーが待っていた。それに乗って灯台の逸失物係に行くと、そこにはもう1人の七草がいた。翌日の朝、堀から七草に届いた手紙には、なにも捨てないことです、とだけ書かれていた。

二話、空白の色

1 七草 三月八日(月曜日)

七草は新聞部設立のための企画書を学校に提出し、職員会議で新聞部が認められる。それを顧問となるトクメ先生から聞いた七草は、相原大地に引き合わせるためにトクメ先生を連れていく。

2 真辺 同日

放課後に安達から声を掛けられた真辺は、その日学校を休んだ堀の見舞いに行ってほしいと頼まれる。七草へ告白したらいい、と言われた真辺は、七草のことは好きだけど、優先順位が違うような気がすると答える。堀の見舞いに行ったものの堀に会うことを断られた真辺は、その後、七草に会い、その日の出来事を話す。七草に昔の僕のことを教えたほしいと頼まれた真辺は、小学2年生の時の思い出を話す。その頃の七草は、今の七草とは少し違っていた。

3 七草 三月九日(火曜日)

堀は2日続けて学校を休んでいた。新聞部の活動が始まり、安達の提案で、階段島の人たちの昨年のクリスマスプレゼントについて調査することになる。七草は、安達が堀が苦しむデータがほしいのだ、堀を追い詰めようとしているのだと考える。活動の後、七草はトクメ先生に会い、現実世界のトクメ先生に大地を助ける手助けをしてもらうため、一緒に階段を上る。

4 真辺 同日

新聞部の記事のテーマが決まった後、真辺は堀の見舞いに行っていた。堀は、私は幸福でなければならない、やっぱり真辺さんは危険だ、貴方はわたしの不幸を証明できる、とドア越しに話す。そこに一緒に来ていた安達のスマートフォンに電話がかかってくる。安達に促された真辺が電話に出ると、七草だった。その後、待ち構えて七草と会った真辺は、電話を掛けた七草が別の人間であると聞かされる。

三話、ただ純情で鋭利な声

1 七草 三月一〇日(水曜日)

七草が100万回生きた猫に会えると思って学校の屋上に行くと、そこにいたのはもう1人の自分だった。もう1人の七草が堀を呼ぶと、堀が姿を現し、七草の意識が途切れる。

2 七草 七年前

七草にもう1人の七草の記憶が移される。7年前、小学生だった七草は、魔女になる堀に協力して、ルールを作り、階段島を作ってきたのだった。

3 真辺 三月一〇日(水曜日)

真辺はもう1人の七草から声を掛けられる。連れられて保健室に行くと、そこには七草が横になっていた。もう1人の七草は真辺に、君はあの七草が好きなのか、どんな種類の好きなのかを尋ねる。その答えを聞いたもう1人の七草は、よくわかった、だから君はここにいるんだ、と言う。そこで目を覚ました七草は、真辺と向き合って、大好きだ、と言う。

4 七草 同日

もう1人の七草は、苦しみ続ける堀を見て、少女としての堀の幸せのために魔女としての堀の理想を否定しようとしていた。そのもう1人の自分を拾った七草は、堀のいる灯台に向かう。七草が、貴方は階段島が好きですか?との堀の質問に、もちろん、と答えると、堀は、なら、私は幸せです、と言う。そして、安達に、貴方は初めから魔法を否定しているから、魔女としては幸せではない、魔法の意味を信じている自分の方が絶対に幸せ、と躊躇わずに告げる。安達は、私が魔法を奪ったら、真辺さんを魔女にすると宣言する。

エピローグ

安達が立ち去った後、灯台を出た七草は、真辺と並んで話しながら歩く。やっぱり私は階段島が嫌い、魔女になろうと思う、と言う真辺に七草は、なら僕は、君の敵になろう、と答えるのだった。

 

(ここまで)

前巻までの謎めいた雰囲気は残っていますが、階段島ができた経緯、郵便局員の時任と魔女との関係など、これまでの巻でくすぶっていた疑問が解けていく部分が多く、消化不良感なく読むことができました。

魔法を奪い取ろうとする安達の企ては、七草によってひとまず失敗しますが、階段島は、真辺の登場をきっかけに少しずつ変わり始めているので、このまま安泰ということにはならないのでしょう。