鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

河野裕「夜空の呪いに色はない」

河野裕さんの小説「夜空の呪いに色はない」を読みました。

夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)

夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)

  • 作者:裕, 河野
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
 

「狂気は壊れた黒の叫び」に続く階段島シリーズの第5弾で、2018年3月に刊行された作品。 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

----------

郵便配達人・時任は、階段島での生活を気に入っていた。手紙を受け取り、カブに乗って、届ける。七草や堀を応援しつつも、積極的に島の問題には関わらない。だが一方で、彼女は心の奥底に、ある傷を抱えていた……。大地を現実に戻すべく、決意を固める真辺。突き刺さるトクメ先生の言葉。魔女の呪いとは何か。大人になる中で僕らは何を失うのか。心を穿つ青春ミステリ、第5弾。

----------

 

作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

プロローグ

真辺由宇が、安達の誘いで魔女になることを決めたことで、それを阻止しようとする七草は、毎晩、堀と電話で話すようになっていた。本当に危険なのは真辺だ、だって、貴方がそれを求めているから、という堀の言葉に、内心その通りだと思う七草。

一話、夜がくるたび悩みなさい

1 七草 三月一八日(木曜日)

七草は、7年前に階段島に捨てた自分を拾ってから、真辺をずっと見つめてきた自分に、堀に恋していたもう1人の自分の記憶と感情が入り込んで、苛立つ感情を抱くようになっていた。安達の目的を探ろうと、先代の魔女だった郵便局員の時任に話を聞きに行くが、君はもう何も捨ててはいけない、その試験で気に入る結果を出したら、知りたいことを教えてあげる、と言われる。一方、七草は、相原大地の問題を解決しようと、堀に頼んで、現実の自分と真辺、トクメ先生に手紙を出してもらう。

2 真辺 同日

真辺は階段島を改善するための言葉を探すが、思考が逸れて、七草のことを考えていた。そして、自分は現実に何を求めているのか、そもそも階段島と現実を切り離して考えている理由は何か考える真辺は七草に電話をかけるが、話し中だった。

3 七草 三月一九日(金曜日)

放課後、七草はトクメ先生と真辺と一緒に現実の自分たちに会うたちに階段を上ることになっていた。やってきた真辺は、堀に言うべき言葉を見つけた、あの子の魔法をきちんと否定できる言葉を、と七草に話す。このタイミングで堀を動揺させたくない七草は、その話は次の日にしてもらう。そして、階段を上るとき、トクメ先生は、正しく大人になるためには、ひとつひとつ誠実に夜を超える必要があると語る。階段を上り、現実の自分と会った七草は、現実のトクメ先生をサポートするよう頼むが、真辺の話をする現実の七草は、君を拾う、僕の言葉で君を否定する、と告げる。

4 時任 同日

七草が消えて、頭から毛布をかぶって泣く堀に声をかける時任。堀は、私が取り返しにいく、七草くんと約束したと語る。

二話、必ずどちらかを捨てなければならない

1 七草 現実

もう1人の自分を拾った七草は、真辺と届いた手紙に書いてあった先生に会いに行き、先生、産休に入ったばかりだという大江さんと大地のことについて相談する。その帰り、階段島の七草と大地について話した内容を反芻する七草は、大地が本心を隠し、自分たちが母親との問題に関わることを避けたがっているのではないかと考える。そこに、1人の少女が声をかける。魔女だと直感する七草。魔女は、自分は貴方に協力できる、かわりに貴方の一部を貸してください、と言う。

2 真辺由宇 階段島

七草が消えて、悲しくて泣く真辺に、安達が声をかける。七草を歪んだ完璧主義者だと言う安達は、堀から魔法を奪おうと真辺に語る。真辺は堀と話そうと安達と一緒に会いに行くが、堀は不在で会うことができず、安達の勧めで時任に会いに郵便局に行く。時任は、魔女は幸せによって呪われている、理想の幸せとは何か、魔法をどう使えばいいか、決断を迫られることが魔女にとっての不幸だと語る。そして、魔女に会いたいと言う真辺たちを灯台の遺失物係に連れていく。堀と大地のこと、階段島のことを話す真辺だが、議論は噛み合わない。

3 時任 階段島

時任の高校時代、「先輩」と呼ばれていた若い女性美術教師が気に入っていた。卒業後、街中で泣いているのを見た時任は、魔法を使うことにしたのだった。時任が階段島の高校の美術室に向かうと、そこには堀がいた。もともと人前に現れない魔女だった堀は、七草が来た前年夏に高校生になったが、七草が消えて再び姿を消そうとしていた。

4 七草 現実

七草に声をかけた魔女は、どんな協力をすればいいか尋ねる。大地の日常が知りたいと言う七草に、魔女は、大地の記憶から再現できる、今夜眠ればわかると言う。その夜、眠りに落ちた七草は自宅での大地と母親の日常を見る。母親は大地をいないものとして扱っているかのようだった。それが消えると、七草は階段に立っていて、階段の上には魔女がいた。話している2人のところに、髪の長い女性が階段を上がってくる。女性は魔女を抱きしめ、よく頑張ったね、今はもう、私の方が幸せ、と声をかける。

5 真辺 階段島

大地と話をする真辺。大地が最後まで我慢するつもりなのを知った真辺は、大地の母親に会うために魔女に会おうと向かうと、魔女に戻った時任が現れる。時任は、最後まで何も捨てずにいられたら、魔法を貸してあげると言う。

6 七草 現実

七草と真辺は大地と遊ぶが、七草は大地が2人との関係を踏み込まないようにしていると感じる。大地のことについて真辺と話をした七草は、真辺に何を求めているのか改めて考える。そこに、魔女になった時任が現れ、明日の夜、君の一部を奪うと告げる。

7 真辺由宇 階段島

時任が姿を消すと、階段でもう1人の自分がいた。現実の自分と話する真辺は、自分と彼女が違っていると感じる。彼女が姿を消すと再び時任が現れる。時任の問に、いつだって何かを捨てているから、何も捨てずにいることはできないと答えると、時任はまだ魔法は貸してあげないと言って姿を消す。

8 七草 現実

3月22日、魔女が自分の一部を奪いに来る日、七草は真辺のマンションで、自分の真辺への気持ちを整理しようと、真辺と話をする。その夜、やってきた魔女に、七草は、僕は勝手に幸せになるから、君も勝手に幸せになってくれ、ともう1人の自分への伝言を魔女に託す。

三話、なんて深く呪いに沈んだ世界

1 七草 三月二二日(月曜日)

階段島に戻ってきた七草は階段に立っていた。そこに時任が姿を現す。堀に会わせてほしいと言う七草に、時任は8年前の昔話を始める。

2 時任 八年前

先輩が泣いているのを見た時任は、魔法で彼女の頭の中を覗く。先輩には結婚を約束した恋人がいたが重い病気にかかっていた。彼女の中学生の時の同級生で医師になっていた中田が結婚を前提にしたお付き合いを申し込んだのをきっかけに事態が変化し始める。恋人の頭の中を覗いた時任は、生きることを諦めている彼からの、諦めを奪う。病状は好転するが、2か月後、彼は事故死してしまう。自分が原因で自殺したのだと考えた時任は、先輩の頭の中を覗いてそれを先輩に話し、苦しいと訴える先輩の願いで、愛情を奪い取ったのだった。そして彼女は、相原美絵、大地の母親だった。

3 七草 三月二二日(月曜日)

時任が言うとおりに階段を上がる七草は、階段島に来たばかりの頃に出会った中田さんのことを回想し、彼も先輩やその恋人の死で傷ついたのだろうと考える。そして山頂の手前で泣いていた堀に出会った七草は、僕たちの理想の魔法を作ろう、まずは時任さんから魔法を返してもらおうと手を差し出す。

4 真辺 三月二三日(火曜日)

学校の図書室で、真辺が魔法についての自分の考えをまとめようとしていると、そこに安達がやってくる。七草が戻ってきたと聞いた真辺は、学校を駆け出し、海壁の上で大地と並んで座っている七草を見つける。

5 七草 同日

七草は大地と、大地は何を捨てたのかを話していた。大人になりたいと思う大地に七草は、魔法では大人になれない、ひとつひとつ積み重ねていかなければ大人になれない、だから子どものまま母親と仲良くなる方法を考えようと語る。大地を寮に送った後、七草と真辺は、時任から魔法を奪うために郵便局に向かう。そこに安達もやってくる。2人と話しながら後悔しない選択肢はどこにあるのか考える七草は、堀を愛し、真辺を信仰する自分の感情に従おうと思う。

6 時任 同日

時任はやってきた七草たちと話す。七草は、時任の不幸を証明しようと意図して挑発的な言葉を投げかけ、時任が魔女のまま、堀に魔法を貸してほしいと提案する。それを聞いた真辺と安達も魔法を貸してほしいと声を上げる。だめだ、魔法は持ち主を傷つける、と時任が断ると、堀が口を開き、魔法についての自分の思いを語る。時任は、魔法を奪われると覚悟するが、堀は決定的な言葉は口にせず、魔法を貸してくださいと頭を下げる。いつでも魔法を奪うことができると堀に証明されてしまったと感じた時任は、考えてみるからちょっと時間をちょうだい、と答える。

エピローグ

郵便局から真辺と一緒に帰る七草。2人は、一緒にこっちにいる大地のお母さんに会いに行こうと話すのだった。

 

(ここまで)

前巻までと比べて、物語が大きく動いた印象を受けました。

かつて魔法で先輩の恋人から魔法でその一部を奪ったことにより、結果として不幸な結末に至ってしまったことが、魔女としての時任の大きなトラウマになり、小学生だった堀に魔法を譲るきっかけになったことが明らかになります。そのほかにも、第1巻「いなくなれ、群青」の変電所の場面で出ていたきりになっていた中田さんが意外なつながりをしていたり、これまでの伏線がいろいろ回収されています。

魔法に失望し、魔法から背を向けながらも、時任は魔女として苦しむ堀を見て、魔法を奪いますが、それでも、魔法が綺麗に使えると信じ、魔法を好きになろうとする堀に、背後から銃口を押し当てられているような感覚を抱きます。本巻の物語はここで終わりますが、完結編になっているらしい次の巻で、さらに物語が動いていくのでしょう。