鷺の停車場

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田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」

田辺聖子ジョゼと虎と魚たち」を読みました。 

昨年末に、アニメ映画化された「ジョゼと虎と魚たち」を観て、原作も読んでみようと手にした本。1985年3月に単行本で出版された短編集で、1987年1月に文庫本化されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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足の悪いジョゼは車椅子がないと動けない。ほとんど外出したことのない、市松人形のようなジョゼと、管理人として同棲中の、大学をでたばかりの恒夫。どこかあやうくて、不思議にエロティックな男女の関係を描く表題作「ジョゼと虎と魚たち」、他に、仕事をもったオトナの女を主人公にさまざまな愛と別れを描いて、素敵に胸おどる短篇、八篇を収録した珠玉の作品集。解説・山田詠美

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作品は、紹介文にあるとおり、8編の短編小説が収載されています。

各編を簡単に紹介すると、次のとおりです。

お茶が熱くてのめません

シナリオライターで32歳の高尾あぐりが、かつて別れた36歳の吉岡に誘われて7年ぶりに会う。吉岡は中小企業の社長の息子だったが、計画詐欺にあって会社が倒産した、これはドラマにならないだろうかと話を持ちかける。

うすうす知っていた

万年筆の卸し問屋で事務員として働く28歳の梢。母と大阪のデパートで高級婦人服のデザイナーをしている26歳の妹・碧と3人暮らし。いつか結婚したいと漠然と考えながらふわふわと年を重ねてきた梢だったが、仕事ひとすじと宣言していた碧が突然結婚することになる。

恋の棺

インテリア関係の店に勤める29歳の宇禰。リゾートホテルで遅い夏休みを過ごす宇禰のところに、腹違いの長姉の息子で可愛がっている19歳の有二がやってくる。宇禰は有二を誘って関係を持ち、悦楽を感じるが、それを尖鋭化するために、二度と有二と関係を持たないと決意する。

それだけのこと

造花の仕事をする香織は、作品を受け取りにやってくる24歳の堀サンが好きになる。夫がいる香織だったが、小豚の指人形・チキを介して、堀サンとどんどん親密になっていく。

荷造りはもうすませて

PR雑誌を作る仕事をしている42歳の・えり子。44歳の夫・秀夫は再婚で、義母と前妻・京子との間に生まれた3人の子が暮らす家に時々帰っているが、その家に京子も戻ってくる。えり子は、秀夫との時間は充実しているが、どこかこの結婚が非現実的なものに思えてくる。

いけどられて

婦人服の製造販売会社に勤める35歳の梨枝は、23歳の女性・大原比呂子と不倫をした3歳下の夫・稔と離婚することになる。その最後の日、比呂子の実家の岡山に向かうはずの稔は、未練がましい様子でなかなか出て行こうとしない。

ジョゼと虎と魚たち

脳性麻痺で下肢が動かない25歳のジョゼことクミと同棲する2歳下の恒夫。大学生のとき、坂道を転げるジョゼが乗った車椅子を停めたことで知り合った恒夫は、時折車椅子を押すようになるが、なかなか就職が決まらず顔が出せず、小さい市役所に就職が決まった恒夫が久しぶりに顔を出すと、ジョゼを世話していた祖母は亡くなっていた。誘われるがままにジョゼと交わりを持ち、一緒に暮らすことになる。

男たちはマフィンが嫌い

ファッション関係の記事やイラストを書いている31歳のミミ、恋人である服飾会社の社長をしている42歳の鳥井連と彼の別荘で休暇を過ごすはずだったが、仕事で来ることができない連は、甥で大学生の志門を代わりに別荘に向かわせる。

雪の降るまで

服地問屋で経理事務の仕事をしている46歳の以和子。1年半ほど前から付き合っている材木業者で妻もいる51歳の大庭と会う。以和子は、かつて付き合っていた久野のことや、大庭との関係に思いをめぐらせる。

(ここまで)

収録されている短編は、基本的に、少し歳を重ねた女性の視点から、上に紹介した表面的な出来事を額縁のように描きながら、主人公の、恋愛というより男女の性愛の関係について思いをめぐらす描写が中心になっています。表題作の「ジョゼと虎と魚たち」だけは、最初の方は恒夫の視点での描写で始まりますが、最後はやはり女性のジョゼの胸中を描いています。

アニメ映画版の「ジョゼと虎と魚たち」では、恒夫がジョゼと初めて会ってから互いに告白して両想いになるまでの青春恋愛物語にアレンジされて描かれていましたが、原作となる本作の表題作では、恒夫はジョゼと一緒に住み、事実婚のような暮らしを送っていますが、ジョゼは、いつか恒夫が自分のもとを去ってしまう儚い予感を抱いています。確かにアニメ映画版はこの原作からはかなりアレンジされていて、原作から入った人がアニメ映画版に違和感を抱くのは、自然な反応なのかもしれないと思いました。