鷺の停車場

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東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

東野圭吾さんの小説「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を読みました。

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2014/11/22
  • メディア: 文庫
 

本作は、2013年3月に単行本で刊行された作品で、2014年11月に文庫本化されています。

2017年9月に実写化された映画が公開され、翌年10月には中国で映画化された「ナミヤ雑貨店の奇蹟―再生―」も公開されて、タイトルは知っていましたが、映画は観ていませんでした。映画化されるくらいなのでいい作品なのだろうと手に取ってみました。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか? 3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが……。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?

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作品は、次の5章から構成されています。各章の内容を簡単に紹介すると、次のような感じです。

第一章 回答は牛乳箱に

  1. 犯罪を働いて逃亡中の翔太、敦也、幸平の3人は、車が動かなくなり、近くの元雑貨屋らしきあばらやに逃げ込むと、そのシャッターの郵便受けから手紙が落ちてくる。それは、「月のウサギ」を名乗る女性からの、選手としてオリンピックを目指すか、余命少ない彼を看病するかどちらを選ぶべきか相談する手紙だった。
  2. 建物に残っていた雑誌の記事から、ここが悩み相談で有名になった「ナミヤ雑貨店」だったと知った3人。幸平は、彼を連れていくことを勧める返事を書き、記事にあったとおりに牛乳箱に入れると、すぐに次の手紙が落ちてくる。
  3. 2通目の手紙には、彼を連れていくのは病状から不可能と書かれていた。幸平は、テレビ電話ができるケータイを勧める返事を書き、牛乳箱に入れる。
  4. すぐに落ちてきた3通目の手紙には、ケータイが何か分からないと書いてあった。オリンピックの年のズレから、過去からの手紙だと推測した3人は、映画や音楽を話題にした返事を書き、その回答から、彼女が目指しているオリンピックが日本が出場をボイコットした1980年のモスクワオリンピックだと気付く。
  5. いくら頑張っても彼女はオリンピックには出場できないと知った3人は、言葉を選ばず、オリンピックは諦めて彼を選ぶことを勧める手紙を書く。
  6. その手紙を牛乳箱に入れてしばらくして、「月のウサギ」からお礼の手紙が届く。強烈な言葉でオリンピックを諦めること本気で勧める手紙によってで、本心ではオリンピックに執着している自分に気づき、悔いのない選択をしたのだった。思いもよらない手紙に力が抜ける3人だったが、一方で達成感も感じていた。そこに次の手紙が落ちてくる。

第二章 夜更けにハーモニカを

  1. クリスマスイブに児童養護施設「丸光園」に慰安演奏に訪れた松岡克郎。ギターでクリスマスソングなどを歌った後、ハーモニカでオリジナル曲「再生」を吹くと、セリと呼ばれている少女は、その曲を気に入り、プロにならないんですか、その曲は売れると思うと克郎に言葉をかける。
  2. その8年前、克郎は祖母が亡くなった知らせを聞いて帰郷しようとしていた。大学に入った克郎だったが、好きだった音楽に打ち込むようになり、大学を辞めて音楽の道を目指す。家業を継ぐものだと思っていた両親は一度は説得に上京するものの諦めて帰っていったが、それから3年経っても芽が出ないままだった。
  3. 翌日、実家に帰った克郎は、妹の栄美子から、祖父が開業した魚屋「魚松」を営む父・健夫が少し前に心臓発作で倒れていたことを聞かされる。
  4. 通夜が終わって親戚たちが飲む通夜ぶるまいの場で、一人息子を東京で好き勝手させているのを責める叔父に健夫は反論し、言い争いになる。その後、克郎は、棺の前で魚屋を自分の代で閉めることになるのを詫びるような健夫の振舞いを見る。
  5. 父に申し訳ない気持ちになった克郎は、音楽を辞めて魚屋を継ぐことも考え始める。子どもの頃に爺さんに悩みを相談したナミヤ雑貨店に足を向けた克郎は、その前で、お礼の手紙を入れる女性を見掛ける。実家に戻った克郎は手紙を書き始める。
  6. 翌日、葬儀が終わった後ナミヤ雑貨店の牛乳箱を開けると、返事が入っていた。罵詈雑言を浴びせるように現実を見ることを勧めるその手紙を読んで怒りに震える克郎だったが、考え直し、少し丁寧に状況を説明する手紙を書く。
  7. 葬儀の翌日、再びズケズケと厳しい言葉で家業を継ぐことを勧める返事が来るが、不思議と怒りはなく、納得する気持ちも抱いた克郎は、これを書いたのが誰なのか、会いたいと手紙を書く。克郎はそれを郵便口に半分押し込んで、ハーモニカで「再生」を吹いた後に郵便口に落とす。
  8. 翌朝、克郎は父が市場で倒れたとたたき起こされる。健夫に店の手伝いを申し出る克郎だったが、健夫は負け戦でも自分の足跡を残すまでは帰ってくるなと克郎を東京に送り出す。克郎が東京に帰る前にナミヤ雑貨店の牛乳箱を見ると、返事が入っていた。これまでの違って丁寧な言葉で、音楽の道に進むことを見抜き、それを励ますような内容に、克郎は勇気づけられる。
  9. 再び上京して、音楽に打ち込み、長い道のりを経て、CDを出すまでになった克郎に、慰安演奏の誘いが入り、全国の施設を回るようになっていた。しかし、演奏に訪れた丸光園で火事が起きる。セリの弟を救い出すために建物に戻り、弟を助け出したものの煙で意識が薄れる中、克郎の脳裏にナミヤ雑貨店からの最後の手紙の言葉が蘇る。
  10. 超満員のアリーナ、稀代の天才女性アーティストは、アンコールの最後に、弟の命の恩人が作った曲、と紹介すると、「再生」のイントロが流れ始める。

第三章 シビックで朝まで

  1. 都内で妻子と3人で暮らす浪矢貴之は、父・雄治が営むナミヤ雑貨店を訪れる。悩み相談が新たな生きがいになっていた雄治は、妻帯者の男性との子を産むかどうか悩む女性からの手紙に返事を書いていた。貴之は店を畳んで自分たちと同居することを勧めるが、雄治はにべもなく断る。
  2. それから2年後、姉の頼子から一週間店を閉めていると聞いた貴之が仕事帰りにナミヤ雑貨店を訪れると、雄治は潮時だと語り、引っ越して貴之と同居することになる。同居して間もなく雄治が末期の肝臓癌であることが判明し入院することになるが、雄治は貴之に、一晩だけ店で一人で過ごしたいと頼む。
  3. 貴之は雄治を連れて病院から抜け出し、車で店に向かう。その途中で雄治は頼みのわけを話し、33回忌の午前零時から夜明けまで相談窓口を再開すると世間に告知してほしいと手紙を託す。雄治は自分が相談に乗った女性が車で海に転落し子どもを残して死んだことを知って、相談をやめることにしたのだった。
  4. 車の中で待っていた貴之は、夜明け近くになって、店の雄治に顔を出すと、夜の間に10数通の手紙が届いていた。それは未来から届いた感謝の手紙だった。
  5. 雄治は手紙を貴之に託し、店を出ようとするとき、何も書かれていない一枚の便箋が届く。貴之を外に出して、雄治はその返事を書き、牛乳箱に入れ、店を後にする。
  6. 一年後、雄治が死んだ後にナミヤ雑貨店を訪れた貴之は、去年の11月にアドバイスをもらったというスポーツウェア姿の女性に出会う。雄治が入院していたはずの時期、何かの間違いだろうと思う貴之は、牛乳箱を見てみると、一年前に雄治が書いた返事はなくなっていた。
  7. 2012年9月、貴之の孫の浪矢駿吾は、前年に胃癌で死んだ祖父から託された、ナミヤ雑貨店復活の告知をするためパソコンに向かう。

第四章 黙禱はビートルズ

  1. 和久浩介は、自分の運命に大きくかかわったナミヤ雑貨店に向かっていた。時間をつぶすために近くのバーに入ると、そこはビートルズ専門の音楽バーだった。浩介は、酒を飲みながら、手紙を書き始める。
  2. 浩介は裕福な家で育ち、事故死した従兄が集めていたビートルズのレコードを引き取り夢中になって聞いていたが、やがて父の事業が傾き、ついには両親と3人で夜逃げすることになる。
  3. 父が信用できず、夜逃げを避けたい浩介は、ナミヤ雑貨店に相談の手紙を入れる。その返事は、夜逃げは良いことではないが、家族がばらばらになってしまうのが一番の不幸、一緒に同じ船に乗っていれば正しい道に戻ることもできる、と親と同行することを勧める内容だった。
  4. 夜逃げを翌日に控えた浩介は、ビートルズ好きの友人の勧めで、公開されていた映画「レット・イット・ビー」を観に行くことにする。
  5. 映画を観て、ライブを行うメンバー4人の心が離れていると感じた浩介は、映画の後、友人に電話をかけ、持っていた50枚ほどのビートルズのレコードをすべて売る。
  6. その夜、両親と車で出発した浩介だったが、休憩に入った高速道路のサービス映リアで、両親とつながる気持ちの糸が切れた浩介は、トイレから出ると、自分たちの車から離れたトラックの荷台に乗り込み、親と決別する。
  7. 持ち金で東京駅から新幹線に乗ろうとした浩介だったが、そこで警察に保護されてしまう。身元を黙秘して偽名を名乗った浩介は、児童養護施設「丸光園」で育つことになる。
  8. 丸光園で木彫刻の腕前を認められた浩介は、偽名の「藤川博」の戸籍を手に入れ、中学を卒業後、埼玉の木彫刻職人に弟子入りする。
  9. 根はいい親方の元で経験を積み、充実した毎日を送るようになっていた浩介だったが、丸光園が火事になったとのニュースを聞いて、高校卒業以来10数年ぶりに丸光園を訪れる。そこで施設で一緒で浩介から木彫刻をもらったことがあるという会社経営者の武藤晴美に出会う。武藤が雑貨屋で良いアドバイスをもらったおかげと語った言葉で、浩介はナミヤ雑貨店に足を向けてみると、そこに息子の貴之がいた。貴之は、夜逃げについて相談した人からも感謝の手紙が届いたと語る。
  10. ナミヤ雑貨店のアドバイスに従わなくて正解だったと手紙を書いた浩介だが、バーの主人がかつてレコードを譲った友人の妹で、自分の両親が夜逃げから2日後に息子も殺したことにして心中していたことを知る。後悔と呵責の念に襲われた浩介は、書いた手紙を破り、アドバイスに感謝する手紙を書き直して投函する。

第五章 空の上から祈りを

  1. ナミヤ雑貨店の翔太たち3人は、松岡克郎からの手紙を待っていた。丸光園で育った3人は郵便口から聞こえたハーモニカを聞いて、水原セリが歌う「再生」を作った人だと気づき、励ましの返事を書いたのだ。ネットのナミヤ雑貨店の復活の告知を見つけ、それがまさにこの日であることを知り、だから特別に過去とつながっているのだと考える。そこに、新たな相談の手紙が落ちてくる。
  2. それは、昼はOL、夜はホステスとして働き、お金を稼ぐためにホステスに専念することを考えている19歳の女性からの手紙だった。3人は遠慮のない言葉でOLを選ぶことを勧める返事を書くが、ホステスに専念するのは人に頼らず生きていくための経済力を手に入れるためで、ホステスを辞めるつもりはないと2通目の手紙が届く。
  3. 3人は、女性がどのくらい具体的な計画を考えているのか確める返事を書くと、それに対して届いた手紙には、女性が丸光園で育ち、その後親戚に引き取られたが、その親戚も高齢で蓄えがわずかなことが経済力を求める理由であること、高い手当で愛人契約に誘う男性がいることが書かれていた。
  4. 武藤晴美はナミヤ雑貨店に3回目の返事を取りに行く。晴美が相談したのは、帰省した際、近所に住み、姉のように慕っている静子から、オリンピックを目指す自分の迷いをナミヤ雑貨店が取り去ってくれたと聞いたからだった。2回の返事は晴美を苛立たせるものだったが、3回目の返事は、それまでと違い、その男性は本当に信用できるか、経済力を得られるなら他の方法でもいいのかなどを尋ねるものだった。
  5. ホステスに戻った晴美は、男性の対応に疑問を消すことができず、夢を叶えることができるなら愛人契約など結ばないし、ホステスを辞めてもいいと手紙を出す。それに対する返事は、勉強と貯金をして、不動産などの投資で稼ぐことなどを勧める予想外のものだった。未来を予言するような内容に悩む晴美は、その根拠を尋ねる手紙を書くが、ナミヤ雑貨店に来て、もう相談できないと直感する。晴美はその後、ナミヤ雑貨店の主人が亡くなっていたと静子から知らされる。
  6. 1988年12月、晴美はナミヤ雑貨店のアドバイスに従って努力を重ね、投資などで事業を成功させていた。
  7. クリスマスの後、晴美は丸光園が家事になったことを知る。見舞いと差し入れに園を訪れた晴美に館長は、園は亡くなった姉が恵まれない子どもたちの力になろうと作った、姉は結婚しなかったが若い頃に掛け落ちまで画策したが別れさせられた男性がいたと語り、別れた後男性が姉に書き、姉が大事に取っていた手紙を見せる。晴美は差出人の名前が浪矢であることに引っ掛かりを感じる。
  8. それから20年あまり、手紙のアドバイスに従って、投資から手を引き、ITやコンサルタントの事業でさらに成功を収めていた晴美は、丸光園の経営が破綻寸前の状況であることを知り、自分が救わなければと考えて動き出す。
  9. 偶然にナミヤ雑貨店復活の告知を知った晴美は、手紙を書くが、それを出しに行く前に、3人組の泥棒に襲われ、手足を縛られ、手紙を入れたハンドバッグを奪われてしまう。
  10. ナミヤ雑貨店の3人、敦也は過去と現在が本当につながっているのか確かめようと、外に出てシャッターの外側から郵便口に白紙の便箋を投入すると、中にはその便箋は落ちていなかった。32年前とつながっていると確信する3人。丸光園の出身と知って女性にアドバイスした3人は、その後が気になる。丸光園がどこかの女社長に買い叩かれると噂を聞いた3人は、その女社長のめったに使われていない別宅に泥棒に入ることにしたのだが、運悪く、女社長に出くわしてしまったのだ。
  11. ハンドバッグに手紙が入っているのに気づいた3人は、それを読み、さっき襲った女社長が自分たちがアドバイスした女性の成功した姿だと知って、彼女を解放し、自首することを決意する。外に出た3人が最後に牛乳箱を開けると、1通の手紙が入っていた。それは、さっき敦也が投函した白紙の便箋への浪矢雄治からの返事だった。可能性は無限に広がっていると励ます手紙を読んだ3人の目は輝く。

 (ここまで)

 

東野圭吾さんの小説を読むのは初めてでしたが、上手い作家さんなのだと思いました。巧みな展開に、途中で止めることができず、一気に読み通してしまいました。ここまで引き込まれる作品を読んだのは、久しぶりです。

過去と現在が交錯するという設定自体は、それほど珍しいものではないのかもしれませんが、30数年前の過去と、ナミヤ雑貨店のシャッターの郵便口と牛乳箱でつながっていて、かつて本当の主人・浪矢雄治に相談した人のエピソードと、たまたま雑貨店に入り込んだ3人が過去からの相談にアドバイスするエピソードが絡み合い、ちょっとした出来事が後の大きな伏線になっていく展開・構成は見事で、ところどころホロッとするシーンもあって、心地よい読後感が残る作品でした。