鷺の停車場

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武田綾乃「君と漕ぐ3―ながとろ高校カヌー部と孤高の女王―」を読む

武田綾乃さんの小説「君と漕ぐ3―ながとろ高校カヌー部と孤高の女王―」を読みました。

以前に読んだ「君と漕ぐ2―ながとろ高校カヌー部と強敵たち—」の続編となる作品で、新潮社の隔月刊の電子版雑誌「yom yom」の2020年2月号(Vol.60)から2020年6月号(Vol.62)まで連載されたもの。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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ついに決戦の夏が来た。インハイ優勝は誰の手に。

うちとペアを組んで、オリンピック目指さへん? 突如ながとろ高校にやってきた、孤高の女王こと蘭子の誘いに戸惑う恵梨香。パートナーの希衣の思いも複雑だ。葛藤を抱えた彼女は一人、コーチの芦田のもとを訪れる。そしていよいよ八月。インターハイ会場・長良川にやってきたカヌー部四人。恵梨香はシングルで蘭子に勝てるのか。そして希衣とのペアで、優勝をもぎ取れるのか―—。

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全体は次のような構成になっています。ごく簡単にあらすじを紹介します。

プロローグ

恵梨香はスマートフォンで利根蘭子を検索し、一年前のインタビューを見る。高校1年生の時から敵なしだった蘭子は、昨年は全種目に出場し好成績を上げたが、今年はシングルに絞り、「孤高の女王」との異名を持つようになっていた。

第一章 ようこそスーパースター

夏休みを目前に終業式を終えたながとろ高校カヌー部。初心者の1年生・黒部舞奈は、2年生の天神千帆の指導で初めてペア挺に乗る。先輩を巻き込んで落水させてしまうのを申し訳なく思う舞奈は、翌日朝早く学校に行き、舞奈に合わせて早く来た2年生の部長・鶴見希衣と一緒にペア挺に乗って練習するが、そこに突然東京の蛇崩高校2年のスーパースター・利根蘭子がやってくる。

第二章 少女よ、大志を抱け

蘭子は、インターハイ後に開かれる、違う学校の選手と組んで出場できる文部科学大臣杯にペアで出場し、オリンピック出場を目指そうと恵梨香を誘う。気持ちが割り切れない希衣は、舞奈の勧めで、2日後のオフの日に、コーチをお願いしている元オリンピック選手の芦田に相談に行く。自分の能力に見切りをつけるのが早すぎる、他人に掛けるのと同じくらいの期待を自分に掛けたらどうか、と助言された希衣は、芦田に個人レッスンの約束を取りつける。

第三章 エビフライのしっぽを食べるか、食べないか

一週間もしないうちに、誘いの返事を聞きに蘭子が再びやってくる。一緒に練習し、蘭子とペア挺に乗った恵梨香は、希衣と乗るのとは違う感覚を感じ、蘭子と組むことを決める。それを聞いた千帆は、希衣には直接伝えるよう恵梨香に話し、練習後、舞奈を寄居の蕎麦屋に連れていく。恵梨香が蘭子と組んでいる間は、希衣と組めばいいと提案する舞奈に、千帆は、希衣は体育大学に進むみたいだけど、自分は家業の和菓子店を継がなきゃいけないし、製菓の専門学校に行こうと思っている、と話す。カヌー部で過ごす時間が好きと話す千帆に、舞奈はカヌー部でやってみたいことを尋ねる。千帆はフォアをやってみたいと答え、2人は意気投合する。

第四章 その場所はまだ空席

一方の恵梨香は、練習後、話があると希衣を誘う。文部科学大臣杯に蘭子とペアを組みたいと打ち明けた恵梨香に、希衣は応援するとそれを後押しする。希衣があっさりと背中を押してやることができたのは、芦田に相談したからだった。希衣はその時のことを思い返す。帰宅後ベッドでくつろぐ希衣に、千帆から電話がかかってくる。互いに恵梨香、舞奈と話したことを伝え、希衣は文部科学大臣杯で千帆と出ること、来年はフォアでも出ることを受け入れる。そして岐阜県で開かれるインターハイを迎えたながとろ高校カヌー部は、会場入りする。

第五章 万全を期した、その結末に至るまで

開会式を迎えた舞奈は、大学への勧誘を兼ねて来ていた墨田大学1年の久慈美晴に声をかけられる。久慈は蛇崩高校の出身で、前年は蘭子とペアを組んでいた。宿泊施設に戻ってそれを恵梨香たちに伝えると、希衣からインターハイ前から蘭子がペアはやりたくないと揉めていたらしいと聞かされる。翌日のレース1日目、恵梨香が出場するシングル、希衣・恵梨香が出場するペアともに、順当に予選を通過する。

第六章 この手に掴めたもの、それが努力の結果

翌日のレース2日目、シングル、ペアともに準決勝を通過したながとろ高校カヌー部。シングルの決勝、恵梨香は蘭子と競り合うが、わずかの差で敗れる。午後のペア決勝、希衣・恵梨香ペアは首位を争うが、山梨・富士曙高校の神田・堀ペアに敗れる。初めての優勝に歓喜する神田・堀ペアを見ながら、希衣と恵梨香は来年もここに来ようと気持ちを新たにする。

 

「君と漕ぐ」シリーズのこれまでの巻と同じく、ながとろ高校カヌー部の4人の部員、舞奈、恵梨香、希衣、天神千帆を中心に描いた青春小説ですが、本巻では、舞奈と希衣の視点で物語が進んでいきます。第一章・第三章・第五章の冒頭には「side 舞奈」、第二章・第四章・第六章の冒頭には「side 希衣」と記され、どちらの視点で描かれるのかを表しています。

 

ところで、本巻で描かれているのは、日付は明示されていませんが一学期の終業式から、8月4日のインターハイのレース2日目までの3週間足らずの間のこと。ここまでのシリーズ計3巻でも、4か月ほどしか進んでいないことになります。

高校の吹奏楽部を舞台にした同じ著者による「響け!ユーフォニアム」シリーズでは、第1巻で入学から8月上旬の県大会まで、第2巻で8月末の関西大会まで、第3巻で10月下旬の全国大会まで、そして3月の3年生の卒業式と、3巻で1年間を描いていたので、それよりもゆったりとしたペースになっています。大人数の吹奏楽部とは異なり部員わずか4人のカヌー部を舞台としており、人間関係や内面もより濃密に描かれていることが、ペースの違いにつながっているのだろうと思います。

 

yomyomでは、2021年2月号(Vol.66)から続編となる「君と漕ぐ4」の連載が開始されています。こちらも、文庫本が出たら読んでみたいと思います。