鷺の停車場

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村山早紀「花咲家の人々」

村山早紀さんの小説「花咲家の人々」を読みました。

花咲家の人々 (徳間文庫)

花咲家の人々 (徳間文庫)

  • 作者:村山早紀
  • 発売日: 2012/12/07
  • メディア: 文庫
 

たまたま手にしてみた作品。文庫本のために書き下ろされ、2012年12月に刊行されています。著者は児童文学作家ということですが、これは大人向けの作品なのだろうと思います。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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 風早の街で戦前から続く老舗の花屋「千草苑」。経営者一族の花咲家は、先祖代々植物と会話ができる魔法のような力を持っている。併設されたカフェで働く美人の長姉、茉莉亜、能力の存在は認めるも現実主義な次姉、りら子、魔法は使えないけれども読書好きで夢見がちな末弟、桂。三人はそれぞれに悩みつつも周囲の優しさに包まれ成長していく。心にぬくもりが芽生える新シリーズの開幕!

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上の紹介文にあるとおり、植物と友達で会話ができる特殊能力を持つ花咲家が舞台になっています。

主な登場人物は、

  • 花咲りら子:神様やサンタクロースは信じない理系・現実主義的な高校生。
  • 花咲茉莉亜:りら子の10歳上の美人の姉。カフェを経営し、毎週木曜日の夕方、地元のFM風早にメインパーソナリティーとして出演している。
  • 花咲桂:りら子の5歳下の小学5年生の弟。本が好き。
  • 花咲草太郎:りら子たちの父。植物学の博士号を持ち、私立の風早植物園の広報部長をしている。
  • 花咲優音:りら子たちの母。結婚前はこども図書館で司書をしていた。10年前に亡くなっている。
  • 花咲木太郎:りら子たちの祖父。一流の庭師で、若い頃はプランツハンターをしていた。
  • 磯谷唄子:木太郎の幼なじみの随筆家。今は旅行で各地を飛び回っている。木太郎は若い頃秘かに恋心を寄せていたが、今は友人。
  • 磯谷皓志:木太郎の幼なじみで唄子の夫。大学で植物学を研究していたが、5年前に亡くなっている。
  • 野々原桜子:FM風早のアナウンサーで、ディレクターなども兼任している。
  • 有城竹友:茉莉亜が出演する番組で共演している、この街在住の新人少年漫画家
  • 真丘野乃実:りら子のクラスメートで幼い頃からの親友。実家は古くからの文房具屋。
  • 三角屋玩具店のおじいさん:若い頃は怪盗をしていたらしいおじいさん。
  • 十六夜美世子:この街に住む有名なイラストレーター。三角屋玩具店のおじいさんが若い頃手に入れた絵を返しに行く。
  • 秋生:桂のクラスメートの転校生。
  • 鈴木翼:桂のクラスメート。
  • 佐藤リリカ:桂のクラスメート。
  • 石田先生:桂の担任の先生。りら子が小学5・6年生の時の担任でもあった。
  • お兄さん:桂が出会った中学生。母親と二人暮らしだったが、母親は家出している。

というあたり。

作品は、次の4章で構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

黄昏時に花束を

花咲家の朝。りら子は庭に亡き母親が準備していたロックガーデンを見て、母・優音のことを思い出す。りら子と桂が学校に行き、夕方、ふらりと帰ってきた磯谷唄子を杢太郎は家に迎え、疲れている唄子を布団に寝かせる。茉莉亜は、出演したFM風早の番組で母親との思い出を語った後、話しかければ花にも言葉が届くと信じたい、と言い、ちょっと咲いてみましょうか?とマイクに向かって声を掛ける。すると、横になっている唄子の目の前の庭の桜が満開となり、かつての愛犬ポチと、亡き夫晧志の姿を見る。

夏の怪盗

りら子は野乃実にある夏の夜に会った怪盗の話をする。塾に行く途中、公園のベンチで泣くOLらしいかわいらしい女性を見かけたりら子は、ベンチの脇の薔薇に自分の思いを伝えると、女性のまわりの薔薇の木が次々と蕾をつけ、咲いていく。女性は顔を輝かせ、その薔薇を手に取ってその香りを吸い込む。薔薇の花はやがて消えてしまうが、女性は少し元気になる。そこにマントをつけ、シルクハットをかぶった怪盗が声を掛ける。それは三角屋玩具店のおじいさんだった。女性が帰った後、りら子が聞くと、おじいさんは若い頃手に入れた絵を怪盗として返しに行くという。その絵は、この街に住むイラストレーターの十六夜美世子が若い頃に母を想って描いた油絵だった。

草のたてがみ

桂が給食後の昼休みに「ライオンと魔女」を読んでいると、転校生の秋生が悪口を言ってくる。同級生の鈴木翼と佐藤リリカが止めに入るが、ちょっとしたトラブルになり、放課後に先生に呼び出されてしまう。早く帰りたい桂は、秋生は悪くないと嘘をつき、翼やリリカもそれに話を合わせてくれて、職員室を出る。それがきっかけで秋生と一緒に歩いていると、川に子猫が3匹入った箱が流れているのを見つける。助けようとする桂たちは川に落ちてしまうが、中学生くらいのお兄さんが子猫を助けてくれ、ひとまず家で預かってくれることになる。家に帰った桂は子猫のうち1匹を飼いたいとお願いすると、自分で面倒を見るなら、と許してくれる。その夜、部屋のコスモスが「火事、燃えるよ」と言っているように感じた桂は、お兄さんの家が火事だと直感して、家を出て、お兄さんの家に走る。キャンドルが倒れ、カラーボックスやカーテンが燃えていたが、桂の心の叫びに反応した観葉植物たちが蔓や葉を伸ばして火を消し止める。

十年めのクリスマスローズ

クリスマスイブの日、FM風早の番組に出演する植物園の広報部長の草太郎は、10年前に亡くなった妻・優音のことを回想する。茉莉亜やりら子は千草苑でお店で売る花束や花かごを作り、桂は子猫と優音が造りはじめ、木太郎が完成させた庭のロックガーデンを眺める。閉店後、カフェの片付けをする茉莉亜の前に、母の優音が姿を現し、言葉を交わす。こたつでうたた寝をする桂、花束の配達から帰ったりら子、FM番組の出演から帰宅した草太郎の前にも優音が現れ、つかの間に言葉を交わす。そして、居間に集まった花咲家の人たちがごちそうを食べながら不思議な訪問者の話をしていると、雪降る庭のロックガーデンに白いクリスマスローズが咲き誇り、優音が再び姿を現して微笑む。優音が歩み去った後、ロックガーデンの花々が枯れているのを見たりら子は、花たちの10年分の祈りが起こした奇跡だと悟る。

(ここまで)

 

花咲家の特殊な能力には個人差があって、草太郎は、植物たちの声は聞こえますが、木太郎やりら子のように、植物たちに語りかけ、不思議な力で動かすまでの能力はありません。桂も、最初はその能力がありませんでしたが、「草のたてがみ」で描かれたエピソードで、初めて植物たちの声を聞くことになります。

植物と心を通わせることができる特殊な能力で、ホロッとするエピソードが紡がれる優しく詩的な物語で、心温まる作品でした。続巻も読んでみようと思いました。