鷺の停車場

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村山早紀「花咲家の旅」

村山早紀さんの小説「花咲家の旅」を読みました。

花咲家の旅 (徳間文庫)

花咲家の旅 (徳間文庫)

  • 作者:村山 早紀
  • 発売日: 2015/08/07
  • メディア: 文庫
 

「花咲家の休日」に続くシリーズ第3巻、前巻に続いて読んでみました。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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 つかの間千草苑を離れ、亡き妻との思い出のある地へと旅立つ祖父の木太郎。黄昏時、波打ち際に佇む彼に囁きかけるものは(「浜辺にて」)。若さ故の迷いから、将来を見失ったりら子が、古い楠の群れに守られた山で、奇妙な運命を辿った親戚と出会う(「鎮守の森」)。ひとと花、植物たちの思いが交錯する物語。花咲家のひとびとが存在するとき、そこに優しい奇跡が起きる。書下し連作短編全六話。

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上の紹介文にあるとおり、植物と友達で会話ができる特殊能力を持つ花咲家が舞台になっています。

作品は、プロローグ、エピローグと5章で構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

Introduction

花咲家の人々が暮らす、カフェを併設した花屋の千草苑の紹介。

第一話 浜辺にて

花咲家のおじいちゃんで、千草苑で造園と庭の手入れを担当している木太郎は、6月のある日、お店の冷蔵庫が故障してしまったのを機に、家族の勧めで、修理が終わるまでの間、休みを取って、10数年前に亡くした妻・琴絵と新婚旅行で訪れた南九州の海辺の街を訪れ、琴絵のことを思い出し、涙を流す。

第二話 茸の家

12月、花咲家の末っ子の中学生・桂に子猫時代に助けられ、桂が大好きな猫・小雪は、デッキの手すりに飛び移ろうとして足を滑らせてトラックの荷台に落ち、走り出したトラックから降りられず、知らない場所に来てしまう。花咲家に帰ろうと夜の森を進む小雪は、おばあさんの家に住む年を取った猫・丸子と出会う。

第三話 潮騒浪漫

1月のある夜、花咲家の父親・草太郎は、次女のりら子と桂に、大学4年でフィールドワークで行った北欧の国でバイキングに出会った話をする。ボートで川を下って難破して怪我をした草太郎は、海辺で女神フレイヤのような女性とそのきょうだいに助けられるが、彼らは人里離れた場所でひそかに大麻を育てマリファナを作って生活していた。翌日、逃げ出した草太郎はきょうだいに追われるが、昆布に助けられる。

第四話 鎮守の森

冬のある日、2年前の春に大学受験に失敗して、自分の将来を見失ったりら子は、遠い遠い親戚がいるかもしれないと聞いた山を訪れる。楠の森でりら子が呼びかけると、その親戚・花咲楠夫が現れる。楠夫はもう何十年も人間としてではなく、楠の妖精を見守るように、鎮守の森で生きていた。りら子と打ち解けていった楠夫は、そうなったわけを話す。大雨で土砂崩れになるとの楠の声を聞いた楠夫は、山の下にある町に住む妻と子どもを守るため、楠に力を貸し、姿を変えたのだった。楠夫と別れたりら子は、楠夫の家族に会えないかとその町を訪れる。

第五話 空を行く羽根

4月の日曜日、りら子と桂の姉・茉莉亜は、経営するカフェで耳を澄ますと、華やかで澄んだ歌声を耳にする。それは近所のレストランでアルバイトをしているゆすらという名の少女が花に歌いかける声だった。そのレストランを経営する轟は、レベルの高い劇団を主宰する演劇家で、その歌声を聴いてゆすらを次の劇に抜擢しようとしていたが、ゆすらは歌える自信がないと茉莉亜に話す。心配する茉莉亜は熱を出して仕事を休んだゆすらに植物の想いを見舞いの手紙に書く。

第六話 Good Luck

5月の連休の中日、木太郎の幼なじみで自分たちを可愛がってくれている磯谷唄子が沖縄旅行から帰ってくるのを空港に迎えに行った桂は、植物たちの話で、電動車椅子に乗る「先生」を知る。「先生」がひそかにSOSを出しているのに気付いた桂が駆け寄ると、「先生」は女の子が母親に虐待されていると意外なことを桂に話す。

(ここまで)

 

植物たちが起こす小さな奇跡が心温まるこのシリーズ、前巻の「花咲家の休日」では高校生だったりら子が2年前に大学受験に失敗しており、小学6年生だった桂が中学生になっているので、時間的には、2~3年後の時期の出来事を描いています。各話の時期的な前後関係ははっきりしませんが、前2巻は時系列順に並んでいるように思えたので、同様だとすれば、第6話での桂は、もう中学3年生になっているはずで、植物と語らうことができる能力の2人の姉を上回ろうかという成長ぶりも、それにふさわしいものになっています。

前巻よりも、花咲家の家族それぞれの心情に焦点が当たった描写は、私には好ましく写りました。今のところ、次巻がシリーズ最終巻のようですので、それも読んでみようと思います。