鷺の停車場

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山内マリコ「あのこは貴族」

山内マリコさんの小説「あのこは貴族」を読みました。

本作を原作にした本年2月公開の岨手由貴子監督・脚本の映画「あのこは貴族」は、公開の少し後にスクリーンで観ていました。図書館で目にして、原作も読んでみようと手にしてみました。

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もとは、「小説すばる」2015年10月号~2016年7月号に連載され、加筆・修正を加えて2016年11月に単行本として出版された作品。文庫本版は、2019年5月に刊行されています。 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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東京生まれの箱入り娘・華子は、結婚を焦ってお見合いを重ね、ついにハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出会う。一方、地方生まれの上京組・美紀は、猛勉強の末に慶応大学に入るも金欠で中退。現在はIT企業に勤めながら、腐れ縁の「幸一郎」との関係に悩み中。境遇の全く違う二人が、やがて同じ男をきっかけに巡り合い―—。”上級階級”を舞台に、アラサー女子たちの葛藤と解放を描く傑作長編。

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主な登場人物は、

  • 榛原華子:榛原家の三女で27歳。小学校から大学までカトリック系の名門私立女子高に通い、父親のコネで大手化粧品メーカーに就職したが、退職。

  • 時岡美紀:県内トップの進学校から慶應義塾大学文学部に進んだが、父の失職で金欠となり、夜の店で働き始めるが、大学を辞める。今はITベンチャーに勤める32歳。

  • 青木幸一郎:小学校から大学まで慶應義塾に通った慶應ボーイ。経済界では名が通った倉庫会社の経営者一族で、真が勤める商社の顧問弁護士を務める。

  • 宗郎:華子の父。松濤で整形外科医院を代々経営する開業医。

  • 京子:華子の母。

  • 麻友子:華子の10歳年上の次女。30歳を過ぎて結婚したがすぐ離婚。今は赤坂で美容皮膚科医をしている。

  • 香津子:榛原家の長女で42歳。

  • 岡上真:香津子の夫。商社に勤める。

  • 晃太:香津子と真の息子。慶應義塾中等部の3年生。

  • 西田燿子:華子が月2回の頻度で通う青山のネイリスト。

  • 相楽逸子:小中高と同じ学校だった友人。大学からドイツに音楽留学し、今は日本とドイツに半々ほどで暮らしている。

  • 茂田井美帆:華子が着付けの学校で一緒になった自由が丘在住の新婚の女性。

  • 時岡大輔:美紀の弟。地元の食品加工工場で働く。

  • 平田佳代:美紀と同じ高校から慶應義塾大学に進んだ友人。

 

作品は、次の4章からなっています。各章のおおまかなあらすじ・概要を紹介すると、次のようなもの。

第一章 東京(とりわけその中心の、とある階層)

元日、華子はタクシーで帝国ホテルに向かい、ホテル内のお店で家族と会食する。着き合っている3歳年上のボーイフレンドを連れていくことになっていたが、その日に別れを切り出されていた。別れたことを話すと、両親はお見合いの話をもちかける。

会社を辞めて暇になった華子は、友人の相楽と会い、その勧めで、父経由のお見合いと並行して相楽の友達とも会うことにし、着付け教室に通いはじめる。

父が持ってきたお見合い相手や、着付け教室で知り合った美帆の友達と会う華子だったが、うまくいかず、結婚相手探しは振り出しに戻る。

お見合いがことごとく空振りに終わり、麻友子の紹介で絵に描いたような慶應ボーイとお見合いするが、あまりに男性的な人間で、華子はひどく消耗する。

義兄の真の紹介で弁護士の青木幸一郎と会った華子は、初対面で恋に落ちる。毎週のようにデートしてくれるが、つかみどころのない幸一郎に戸惑いも感じる。

幸一郎に誘われて軽井沢の別荘に行き、はじめて同じベッドに入った華子は、幸一郎のスマホに時岡美紀からLINEのスタンプが送られてきたことに気づく。翌日、幸一郎から結婚を申し込まれ、喜んで受け入れる。

結婚が決まったことを相楽に話す華子は、ネットで検索した相楽から、青木家が廻船問屋をルーツに持つ名家で、歴代当主が政治家となっていることを知らされる。

翌年の元日、青木家の自宅に招かれて挨拶をする華子は、幸一郎の祖父から結婚を許されるが、興信所で調べられていたことを聞かされ、内心ショックを受ける。正月休み、興奮した相楽から電話がかかってきて、ヴァイオリンのアルバイトで出たパーティで幸一郎が時岡美紀と恋人同士のように一緒にいたと聞かされる。

第二章 外部(ある地方都市と女子の運命)

18歳の時岡美紀は、慶應義塾大学に入学し、内部生の青木幸一郎と知り合う。

32歳になった美紀は、年末、東京駅から新幹線に乗り、在来線に乗り換えて、実家がある漁港で知られた小さな街に向かう。駅まで迎えにきてくれた弟の大輔の車で実家に着いた美紀は、部屋着に着替え、食卓につく。

大学1年の夏休みに帰省した美紀は、父が勤めていた工場が閉鎖されたことを聞かされ、アルバイトを始めるが、夜の仕事中心の生活となって大学から足が遠のく。条件がいいお店に移っていき、高級ラウンジで働きはじめた美紀は、そこで客としてやってきた幸一郎に再会する。

1月3日に開かれた高校の同窓会に出席した美紀は、久しぶりに平田に再会する。大学卒業後、地元の旅行会社に就職して働いているという平田は、そのうち独立してもっと地元を盛り上げる仕事をしたいと語る。そこに幸一郎から翌日の夜開かれるパーティに誘う連絡が入る。

25歳という年齢をきっかけに、夜の世界から足を洗う決心を固めた美紀は、ラウンジの常連客のITベンチャーのCEOを名乗る男にお願いして採用が決まる。司法試験の勉強に励んでいた幸一郎から誘われ、恋人のような間柄となる。体よく遊ばれているのはわかっていたが、その関係を清算できずにいた。
東京に戻って幸一郎とパーティーに出席した美紀は、ヴァイオリンを弾いていた女の子から声をかけられ、LINEを交換し、今度ごはんに行かない、会わせたい子がいると誘われる。

第三章 邂逅(女同士の義理、結婚、連鎖)

青木家と榛原家は帝国ホテルの茶室で結納を交わし、華子と幸一郎は正式に婚約する。豊洲タワーマンションで暮らすことも決まり、華子は様々な準備に追われる。

相楽は、日本橋のホテルのラウンジに美紀を誘う。やってきた美紀に、幸一郎が華子と婚約していることを話し、美紀と幸一郎の関係を尋ねる相楽だったが、話していくうちに意気投合していく。

そのラウンジに、同じく相楽が呼んだ華子がやってくる。美紀は華子を祝福し、その場で、潔く幸一郎と縁を切ることを宣言する。

帝国ホテルで行われた華子と幸一郎の結婚披露宴に、美紀は華子の友人として出席し、相楽の隣に座る。一方的に縁を切られた幸一郎が執着してくるのに辟易した美紀が、平田と話して思いついた、幸一郎を諦めさせるための方法だった。

披露宴で招待客を見渡す華子は、美紀と話した日のことを思い出す。お色直しの後、華子と幸一郎は、キャンドルサービスで各テーブルを回る。相楽と美紀が座るテーブルに来て美紀の姿を捉えた幸一郎の目は、虚を突かれたようにうろたえる。

結婚しても幸一郎との心理的な距離が縮まらず、1週間に一度の割合で諍いが起こる状況に悩む華子は、美紀と会う約束を取り付け、相談をする。美紀は、ちゃんと自分の気持ちを話すようアドバイスする。

幸一郎の祖父が亡くなり、弁護士の知識を頼りにされる幸一郎は実家の相続に奔走するが、華子は蚊帳の外に置かれる。さらに、弁護士事務所を辞めて、国会議員の伯父の私設秘書となって週のほとんどを選挙区のある地方で過ごすようになった幸一郎との時間はほんのわずかなものになり、孤立していった華子は、半年後、幸一郎に離婚届を突きつけ、榛原家が慰謝料を払う形で、華子は離婚する。

終章 一年後

1年後、逸子のマネージャー的な立場で逸子が出演する音楽フェスの会場を訪れた華子は、その地が選挙区で地元を回っている幸一郎と再会し、初めて対等に話をする。一方、美紀は、地元に戻って平田と会社を始め、東京と行ったり来たりの生活を送る。

 

(ここまで)

 

映画版では、

  • 第一章 東京(とりわけその中心の、とある階層)
  • 第二章 外部(ある地方都市と女子の運命)
  • 第三章 邂逅
  • 第四章 結婚
  • 第五章 彷徨

の5章に分けて描写されていました。本作での第三章が、邂逅、結婚、彷徨の3章に分けて描写されていたことになります。映画では心情の移ろいが分かりにくいところもありましたが、本作ではすっと入ってくる感じがありました。