鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚」を読みました。

2019年1月に文庫本で刊行された作品。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 名家に生まれた美世は、実母が早くに儚くなり、継母と義母妹に虐げられて育った。嫁入りを命じられたと思えば、相手は冷酷無慈悲と噂の若き軍人、清霞。大勢の婚約候補者たちが三日と持たずに逃げ出したという悪評の主だった。
 斬り捨てられることを覚悟して久堂家の門を叩いた美世の前に現れたのは、色素の薄い美貌の男。
 初対面で辛く当たられた美世だけれど、実家に帰ることもできず日々料理を作るうちに、少しずつ清霞と心を通わせていく—―。
 これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。

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主な登場人物は、

  • 斎森美世:異能を受け継ぐ名家・斎森家の長女。19歳。異能・見鬼の才がなく、継母や義妹に虐げられ、使用人以下の扱いを受けてきた。縁談で清霞の家に行くことになる。

  • 久堂清霞: 異能を受け継ぎ、他家の追随を許さない名家・久堂家の当主。27歳。帝大を出て帝国陸軍に入り、少佐として異能者で構成される対異特務小隊を率いている。冷酷無慈悲な人物として有名。

  • ゆり江:清霞を幼い頃から親代わりに世話してきた使用人の老女。

  • 辰石幸次:異能を受け継ぐ辰石家の次男。美世に思いを寄せているが臆病。美世にとっては、唯一ちゃんと斎森家の娘として見てくれる、心を許せる人物。

  • 薄刃澄美:美世の実母。薄刃家から政略結婚で斎森家に嫁いで美世を生むが、美世が2歳のときに病気で亡くなった。

  • 斎森真一:斎森家の当主で美世の父。

  • 斎森香乃子:美世の継母。恋人だった真一との仲を政略結婚で引き裂かれた過去から、美世を恨んでいる。

  • 斎森香耶:真一と香乃子の間に生まれた美世の異母妹。器量が良く要領もいい上、見鬼の才を持っている。

  • 辰石実:辰石家の当主。薄刃家の血を引く美世を辰石家の長女の嫁にしようと狙っていた。

  • 辰石一志:辰石家の長男。

  • 五道:対異特務小隊で清霞の側近を務める隊員。

  • 花:美世が生まれたときから世話していた斎森家の元使用人。

というあたり。

本編は、序章・終章と5章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

斎森美世は、縁談の相手で冷酷無慈悲と噂される久堂清霞に会い、帰れる家も、頼れる場所も人もない、ここでやっていくしかないのだと深々と頭を下げる。

一章 出会いと涙と

異能を受け継ぎ繁栄してきた名家・斎森家。ともに異能を宿す父・真一と母・澄美はその特殊な血を保つため政略結婚し、美世はその長女として生まれたが、母が亡くなり、父がかつての恋人と再婚してから、継母や異母妹・香耶から虐げられ、使用人以下の扱いを受けていた。
ある日父に呼び出された美世は、辰石幸次を婿養子に迎えて香耶をその妻とし、美世は久堂家の当主・清霞に嫁ぐことを告げられ、幸次と結婚できるかもしれないという美世の淡い期待は打ち砕かれる。
翌日、美世は清霞が住む郊外にある一軒家を訪れる。清霞との顔合せで、深く頭を下げる美世は、ここでは私の言うことに絶対に従え、出てと言ったら出ていけ、死ねと言ったら死ね、と告げられる。その夜、美世はかつて継母・香乃子によって使用人以下の存在に転がり落されたときのことを夢に見る。
翌朝、美世はゆり江を手伝い朝食を作るが、毒殺を警戒する清霞は、それを食べずに出て行き、ゆり江にたしなめられる。
対異特務小隊で書類仕事をする清霞は、今まで縁談があった女性とはどこか違う美世のことが引っかかる。
二晩続けて悪夢を見た美世だったが、翌日、自分が作った朝食を食べて清霞が発した「美味い」との一言で、大粒の涙がこぼれ落ちる。その様子に、普通の名家の娘として育っていないと感じた清霞は、斎森家のことを調べることにする。
そのころ、斎森家を訪れた辰石家の当主・実は、美世を久堂家に嫁がせることにした真一に食ってかかる。女たちをすぐに追い出してきた清霞が美世を選ぶはずがないと考える2人は、美世が清霞に捨てられた暁には嫁に迎えることで話をつける。

二章 初めてのデエト

美世は、ゆり江に裁縫道具を借り、破れた着物を縫い繕う。そんな美世を、清霞は休日に外出に連れ出す。
自動車に乗って帝都に向かい、車を置きに清霞の仕事場に行った美世は、隊員の五道に会う。清霞は美世を大きな呉服店「すずしま屋」に連れていき、物を欲しがらない美世に、反物を何点か選び着物を注文する。
呉服店を出て甘味処に連れて行った清霞は、私たちはこのままいけば結婚する仲だ、素直な言葉を口にするほうがうれしい、と話し、美世は自分が異能を持たないことなどを知らないのだと思い固まるが、清霞の柔らかな微笑みに、もう少しだけこの幸せな時間を過ごしたいと思う。
数日後、清霞は、隊長室で情報屋から受け取った美世についての調査結果を読む。美世に負担を強いた家族に怒りが湧き、きつい言葉をぶつけた自分を悔やむ。地位や財産目当てでなく妻として家にいてくれる女性を望む清霞は、異能がないことを知っても美世を手放そうとは考えないが、母親の実家が薄刃家であることが気になり、不気味に感じる。
屯所を出て帰路に就いた清霞は、不穏な気配を感じる。異能者が清霞を探るために放った小さい紙を発見し、それらを燃やし尽くす。

三章 旦那さまへ贈り物

清霞を見送った美世は、高価な櫛をもらったお返しに何か贈り物をしたいとゆり江に相談する。組み紐を編んで髪紐を作ることにした美世は、ゆり江と糸を買いに出かけることにすると、清霞は肌身離さず持っていろとお守りを渡して出勤していく。
一方、辰石家では、思うように物事が進まない当主・実の機嫌が悪く、美世に惹かれていた幸次は、美世を粗雑に扱って捨てた斎森家も、美世を道具のように兄に嫁がせるつもりでいた辰石家も忌々しく思いながら、美世に害が及ばないよう好青年を演じていた。
買い物に出た美世は、香耶と幸次にばったり会ってしまい、居丈高な態度で暴言を吐く香耶に、沈み込んだ気持ちで家に帰る。
美世が家に帰りつくころ、清霞は、斎森家を訪れ、美世に心から謝罪するなら結納金を多めに用意しよう、と切り出し、真一は考えさせてほしいと答える。
忌々しく思いながら帰宅した香耶は、客間から出てきた軍服を着た清霞の美貌にぼうっとする。
帰宅した清霞は、美世の様子がおかしいことに気づき、ゆり江から昼間の出来事を聞いて自分の無力さを実感する。
美世と顔を合わせることが極端に減って一週間ほどが経ち、清霞は五道に手伝わせて、元使用人の花を美世に会わせる。花に元気づけられた美世は、清霞にでき上がった髪紐を渡し、自分に異能がないことなどを告白し、清霞の判断を仰ぐが、返ってきた答えは、正式に婚約しようと思っている、という思いがけないものだった。
回復した美世は、五道を家に招いてもてなし、花のことをお礼する。その様子を見て感慨に浸かった清霞だが、五道が帰った後、美世は悪夢にうなされ、清霞は異能の気配に、薄刃家の者が関わっているのではないかと考える。

四章 決意の反抗

辰石実は、日課のようになっていた清霞の監視で、表情も着物も雰囲気も驚くほど変わった美世の姿を見て、沸騰しそうなほどの怒りに襲われる。実はそれを香耶に話し、香耶が式を放つと、可憐な貴婦人となった美世と清霞の仲睦まじい恋人姿に、自分が下になってはいけないと、婚約者を取り替えろと願うが真一や幸次は取り合わず、香耶は辰石実に話すことにする。
美世は仕事で屯所に泊まり込んだ清霞に差し入れを持っていくが、清霞に渡されたお守りを忘れ、帰り途中に誘拐されてしまう。
ゆり江からそれを聞いた清霞は、犯人の決め手がほしいと歯痒く思う。そこに、辰石幸次が美世の助けを求めてやってくる。香耶の話に乗る父に歯向かった幸次は父の異能にねじ伏せられ、遊び人といった派手な風貌の兄に助けられてやってきたのだ。
美世は縄で縛られて斎森家の蔵に閉じ込められ、継母と香耶から暴力を振るわれ婚約者を降りるよう迫られるが美世は真っ向から拒絶する。
斎森家に着いた清霞は家に入っていく。真一と実は結界で行く手を阻もうとするが、清霞はその術を破って進んでいく。実は異能の炎で襲うが、清霞は結界でそれを遮り、その炎は斎森家の屋敷に燃え移る。
清霞は美世を助けて抱き抱え、自分は間違ってないと主張する香耶を振り払い、蔵を出ていく。幸次はうんざりしながらも、美世のことを思って、香耶と香乃子を連れて屋敷を脱出する。

五章 旅立つ人

久堂家の自宅で意識を取り戻した美世は、数日の安静を命ぜられ、実家のその後の話を聞く。両親は没落して地方の別邸に移り香耶は厳格な家に奉公に出され、辰石家は当主を長男の一志に譲り、事実上久堂家の麾下になる。
美世は清霞に頼んで後片付けが始まる前に斎森家にやってくる。美世が母が嫁いだときに植えられた桜の木の切り株に手を伸ばすと、一瞬鋭い衝撃が美世の頭の中を過る。道に出ると、幸次が待っていた。助けてくれたお礼を言う美世に、旧都で異能者として修業することにした幸次は自分の決意を語り、別れの言葉を交わす。

終章

美世と清霞は正式な婚約の手続きを終える。美世は縁談が清霞の父である先代当主から持ち込まれたことを知る。斎森夫妻が地方の別邸に移り、香耶が奉公先に向かう日、美世と清霞は将来の約束を交わし、自分たちの家に帰るため歩きだす。

 

(ここまで)

 

優れた異能を受け継ぐ一族に生まれながら、異能が発現しないがために虐げられ、自己を卑下するようになっていた女性が、強力な異能を持ち美男子だが冷徹無慈悲で女性に苦手意識を持つ男性に愛されることで、少しずつ変わっていきます。大正~昭和初期を思わせる帝都を舞台にして、「異能」というSF要素も盛り込んだ和風シンデレラストーリーという感じ。文庫本としても分量は少なめで、物語の奥行きはあまりありませんが、すっと読める物語でした。
こういうタイトルですから、この先、紆余曲折はあっても、最後はハッピーエンドに至るのでしょう。