は2010年10月に単行本として刊行された作品、2013年1月に加筆改稿して文庫本化されています。
主人公である内科医が、不眠不休の病院で診療に追われる中、患者と向き合っていく物語。
背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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栗坂一止は、夏目漱石を敬愛する信州の内科医だ。「二十四時間、三百六十五日対応」を掲げる本庄病院で連日深夜不眠不休の診療を続けている。
四月、東京の大病院から新任の医師・進藤辰也がやってくる。一止と信濃大学の同級生だった進藤は、かつて”医学部の良心”と呼ばれたほどの男である。だが着任後の進藤に、病棟内で信じがたい悪評が立つ。失意する一止をさらなる試練が襲う。副部長先生の突然の発病――この病院で、再び奇跡は起きるのか?
史上初、シリーズ二年連続本屋大賞ノミネートの大ヒット作が映画化と共に待望の文庫化! 解説は田中芳樹さん。
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主な登場人物は、
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栗原一止:信濃大学医学部を卒業し、松本にある本庄病院の消化器内科に勤務する5年目の内科医。夏目漱石を敬愛し、その影響から古風な話し方をする少し変わった人間。
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栗原榛名:一止の妻。世界を飛び回る山岳写真家。一止とは3年前に知り合い、1年前に結婚。「ハル」、「イチさん」と呼び合う。
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古狐先生:本庄病院の消化器内科の副部長。本名は内藤鴨一。
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内藤千代:古狐先生の妻。
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大狸先生:本庄病院の消化器内科の部長。古狸先生とは医学部の1学年上で古くからの付き合い。
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進藤辰也:一止の大学の同期の血液内科医。松本城近くの老舗そば屋「蕎麦屋しんどう」の一人息子。医学部卒業後、東京の有名病院で研修医をしていたが、わけあって本庄病院に赴任してきた。
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進藤千夏:辰也の妻で帝都病院で働く小児科医。旧姓は如月。大学時代、一止、辰也とともに将棋部に入っていた。
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進藤せつ:辰也の母。夫が亡くなった後も、そば屋を続けている。
- 進藤夏菜:間もなく3歳になる辰也と千夏の一人娘。
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砂山次郎:大学病院の医局から本庄病院に派遣されている巨漢の外科医。一止とは医学部時代からの知り合い。
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東西直美:28歳で病棟の主任看護師になった優秀な看護師。
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水瀬陽子:病棟で働く2年目の看護師。砂山とは前年末から交際を始めたカップル。
- 御影深雪:4月に本庄病院に入った新人看護師。
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外村さん:救急部の看護師長。30代で独身、有能で美人の看護婦。
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留川トヨ:肺炎で入院している92歳の女性患者。栗原ファンクラブ最長老。
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留川孫七:トヨの夫。95歳。トヨと結婚して70年、「トヨさん」「マゴさん」と呼び合う仲睦まじい夫婦。
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四賀藍子:再生不良性貧血で入院する25歳の女性患者。
- 会田さん:糖尿病で教育入院してきた40歳の男性患者。四賀さんを気にかけている。
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乾先生:かつて本庄病院で外科部長や副院長を務め、今は郊外で「乾診療所」を営む外科医。
- 本庄忠一:本庄病院の5代目の院長で62歳。
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男爵:下宿「御嶽荘」で一止たちが住む「桜の間」の真下、1階奥の「桔梗の間」の住人で、40歳前後と思われる正体不明の絵描き。
というあたり。
本編は3章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。
プロローグ
3月初旬、2日の休みをもらった一止は、榛名の誘いで美ヶ原高原に向かう。スノーシューで雪原を歩き、王ヶ鼻から北アルプスの絶景に臨む。一止は夏が来たら一緒に御嶽山に上ろうと誘う。
第一話 紅梅記
4月になって、本庄病院に東京の有名病院・帝都大学記念病院にいた進藤辰也が赴任してくる。一止の大学時代の友人で模範的医学生だった辰也だが、夕方になるとすぐ帰ってしまい、休日や平日の夜に電話がつながらないことが多く、看護師たちの評判はすぐに悪くなる。砂山次郎が詰め寄っても、辰也は僕には僕なりのやり方があると聞く耳を持たない。インフォームド・コンセントを求める水無と辰也が言い争いになっているのを見た一止は、辰也に看護婦に事情を説明するか患者に顔を出すかどちらかをするよう求め、辰也は1時間以上かけてインフォームド・コンセントをして帰っていく。それに付き添った新人看護婦の御影は、辰也のことを誤解していた、もっとわかるよう努力すると話す。
第二話 桜の咲く町で
5月の連休中、一止は撮影から帰ってきた榛名と出掛けた松本の街中で古狐先生とその夫人にばったり会うが、呼び出しが入って病棟に向かう。同じく呼び出されてやってきた辰也と鉢合わせし、医局の将棋盤で一局指すことにする。一止は大学時代の将棋部で辰也と将棋を指したことを思い出す。辰也の妻の千夏は、一止の誘いで将棋部に入り、ひそかに一止に好意を持っていたが、それに微塵も気づかない一止に、辰也は千夏が好きだと一止に打ち明け、結婚した過去があった。次郎からは、帝都大学病院の小児科で千夏が何日も泊り込んだりして猛烈に働いているらしいと聞かされる。辰也と話をしようと思ったところに、辰也の母・せつが娘・夏菜を連れてやってくる。夏菜がパパに会いたいと聞かないという。その帰り、辰也は一止に、自分が松本に帰ってきた事情を説明する。
第三話 花桃の季節
会田さんの血糖値が500を越えたと呼び出されて病院に向かった一止は、デイルームで会田さんがほとんど食事が進まない四賀さんに、その一般食を少し食べて見せて食べるよう励ましているのを見る。死んだ嫁に似ていてほっとけないと語る会田さんに、一止は食事制限と運動を増やすよう告げる。辰也の担当である四賀さんのカルテを見る一止に古狐先生が声を掛け、辰也のカルテは優れものだと語るが、突然倒れてしまう。入院した古狐先生の血液検査の結果を確認した一止はCT撮影を行い、全身に転移した悪性リンパ腫を発見する。CTフィルムを大狸先生に見せると、古狐先生の病室に行き、それを本人に見せる。大狸先生から古狐先生夫婦に子どもがいないわけを聞かされた一止は、この町の医療を変えようと尽力してきた2人の強い思いに打たれる。そんな中、栗原ファンクラブの最長老だった留川トヨさんが亡くなり、それを見取った夫のマゴさんも数時間後に息を引き取る。5月末、夏菜の3歳の誕生日に呼ばれて、一止と榛名は辰也の実家の「蕎麦屋しんどう」を訪ねてお祝いする。そこにケーキが届く。それは千夏から贈られたものだった。古狐先生は、受け持ち患者33人の病歴などを書いた申し送り事項をまとめて一止たちに渡し、化学治療に入っていく。
第四話 花水木
胃カメラを頼まれて乾診療所に行った一止は、古狐先生が倒れたと呼び出しを受ける。その経過を聞いた辰也は、ひとつだけ重要なことを見落としていたかもしれないと、髄液検査を行い、悪性リンパ腫の中枢神経浸潤と診断される。治療内容を変更するものの、古狐先生の病状は悪化していく。大狸先生は一止に、古狐先生に何がしたいか聞いたら妻と一緒に(なれそめの場所である)常念に上りたいと言いやがったと話し、テーブルに拳を打ち付けて泣く。帰宅した一止は、榛名を連れて行きつけの居酒屋「九兵衛」に行き、その話をすると、北アルプスの上から眺める星空は最高だと話し、ある提案をする。一止は院内の関係者に根回しして、2日後の深夜、病院のテレポートに古狐先生と夫人を連れていき、病院の照明を一瞬消して、美しい星空を2人に見せる。古狐先生が亡くなったのは、それから1週間後のことだった。葬儀を終え、初七日に一止たちが古狐先生の家を訪れると、夫人は結婚した時に古狐先生の母からもらった松本紬を榛名に着てほしいと手渡すのだった。
エピローグ
6月半ば、一止と榛名は、ロープウェイに乗って御嶽山に向かい、飯森高原駅で下りて山頂を目指して歩き出す。
(ここまで)
前巻と同様に、心温まる物語。患者の命を預かる医師の、今風に言えばワークライフバランスが、作品の一つのテーマになっています。絶対の正解はないのかもしれませんが、重たい問題。個人的には、前巻よりも心に沁みる物語でした。