鷺の停車場

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武田綾乃「君と漕ぐ4―ながとろ高校カヌー部の栄光―」を読む

武田綾乃さんの小説「君と漕ぐ4―ながとろ高校カヌー部の栄光―」を読みました。

以前に読んだ「君と漕ぐ3―ながとろ高校カヌー部と孤高の女王—」の続編となる作品で、新潮社の隔月刊の電子版雑誌「yom yom」の2021年2月号(Vol.66)、2021年4月号(Vol.67)に連載されたものに書き下ろしを加えて文庫本化した作品。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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勝つぞ、ながとろ! 四人で目指す優勝

スター選手、蘭子にスカウトされてペアを組むことになった恵梨香。二人は圧倒的な記録を叩き出し、日本代表選手と目される。努力を重ねる希衣もまた、親友でライバルでもある千帆の実力に迫りつつあった。一方、初心者だった舞奈もいよいよ大会デビュー。ついにカヌー部女子四人揃ってフォア競技に挑むことに!新入生も加入、新たなステージを迎える熱く切ない青春部活小説第四弾。

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主な登場人物は、

  • 黒部舞奈:ながとろ高校カヌー部の1年生→2年生。中学時代は水泳部で、カヌーは初心者。

  • 鶴見希衣:ながとろ高校カヌー部の2年生→3年生。部長を務める。高みを目指す努力家。

  • 天神千帆:ながとろ高校カヌー部の2年生→3年生。副部長で、農園部と掛け持ちしている。希衣とは幼なじみ。

  • 湧別恵梨香:ながとろ高校カヌー部の1年生→2年生。天才カヌー少女。

  • 土器富歌:ながとろ高校カヌー部の新入生。初心者で運動は苦手。

  • 檜原ちゃん:ながとろ高校カヌー部の顧問。

  • 芦田:ながとろ高校カヌー部のコーチ。元オリンピック選手で、現在は長瀞で喫茶店「せせらぎ」を経営している。

  • 利根蘭子:東京・蛇崩高校の2年生。「孤高の女王」との異名を持ち、国内では敵なしの強さを誇るスター選手。

  • 宍戸亜美:埼玉・越井戸高校の2年生→3年生。

  • 神田:山梨・富士曙高校の3年生→墨田大学。

  • 堀:山梨・富士曙高校の3年生→墨田大学。

  • 大森姉妹:姉の椿、双子の楓と桜の3人姉妹。椿は大学生、楓と桜は千葉・小見山高校の2年生。

  • 奥山華恵:蛇崩学園の1年生。

  • 渡辺秋穂:舞奈のクラスメイト。

など。

 

本編は、プロローグと6章で構成されています。前巻「君と漕ぐ3―ながとろ高校カヌー部と孤高の女王―」と同様、舞奈と希衣の視点から描かれており、第一章・第三章・第五章の冒頭には「side 舞奈」、第二章・第四章・第六章の冒頭には「side 希衣」と記され、どちらの視点で描かれるのかを表しています。

あらすじを、各章ごとに簡単に紹介します。

プロローグ

8月、文部科学大臣杯 日本カヌースプリントジュニア選手権大会に、久しぶりに希衣とペアで出場する千帆は、これまで感じたことのなかった緊張を感じ、希衣が昔と変わったことに気づく。

第一章 一人より二人、二人より四人

舞奈が出場する新人大会まであと3日に迫り、練習に励む舞奈は、8月の文部科学大臣杯を思い出す。利根蘭子にスカウトされてペアで出場した恵梨香は、圧倒的なタイムを叩き出して、1位になっていた。希依と出場した千帆は、日頃は恵梨香とペアを組んでいる希衣に比べられるのが怖かったと複雑な思いを漏らす。フォアの練習をした帰り、恵梨香は9月の日本選手権に出ることになったと舞奈に話す。

第二章 ハロー、私の最大の敵

8月26日、新人大会を迎える。最初のフォアのレース、ながとろ高校は恵梨香のペースに舞奈がついていけず、バランスを崩して転覆してしまう。舞奈は落ち込むが、応援に来ていた姉・大久保愛奈が声を掛け、立ち直る。ペアでは、千帆と舞奈のペアは準決勝で敗退、シングルでは舞奈が転覆して失格となる。シングルの決勝、芦田の指導で力をつけた希衣だったが、僅差で千帆に敗れて4位となり、恵梨香の声に失望がにじみ出ているのを感じる。

第三章 そこにいるのは推しか、好敵手か

12月半ば、舞奈と一緒に掃除をする秋穂は、クラスメイトに日本選手権で優勝した子がいるなんて凄い、と話す。9月の日本選手権で、蘭子とペアで、大学生や社会人の選手たちに圧勝した恵梨香は、強化選手に選ばれ、休日に蛇崩学園で練習することも増えていた。部室で体づくりに取り組む舞奈は、一緒に練習する希衣から、千帆に勝てないのは精神的な問題だと思うと聞かされる。12月22日、関東高校カヌー部合同勉強会に参加した舞奈たちは、大森楓から、崇拝は体のいい嫉妬からの逃避行動、絶対に勝てないと思って最初から挑まないのは勿体ない、と言われ、舞奈の頭の中でその言葉が残響し続ける。

第四章 急募、バズる入部動機

4月8日、ながとろ高校の入学式の日、希衣は新入生への部活紹介をどうするか千帆と相談する。恵梨香は日本代表候補合宿に参加して不在で、千帆の意見で舞奈に紹介冊子の原稿を任せることにする。舞奈と一緒に登校した希衣は、「部活調査」をブログで紹介する新入生の土器富歌と出会う。体験期間中のカヌー部は盛況だったが、誰も入部者は現れず、最終日、土器富歌が、カヌーをやりたいというか、写真を撮りたい、と入部する。

第五章 だから私は私が好きだ

4月下旬、日本代表候補合宿から帰ってきた恵梨香が久しぶりに登校してくる。舞奈が富歌を紹介すると、富歌は恵梨香と一緒に写真を撮りたいと言い出すが、恵梨香はそれを拒む。舞奈は、入部してから1週間部室にこもっていた富歌を半ば強引にレジャー用のカヌーに乗せると、富歌は中学校の時に自分も不登校だったことを打ち明ける。それをきっかけに、富歌は部活になじむようになる。そして5月12日、インターハイや関東大会の予選となる埼玉県大会を迎え、舞奈はシングルの予選1組で4位に入り、初めて決勝進出を決める。

第六章 グッバイ、私の最大の敵

予選2組では恵梨香が1位、千帆が3位で決勝進出を決める。希衣も1組で去年より10秒以上記録を伸ばしていた。そして迎えたシングル決勝、希衣は千帆に勝てない理由を心のどこかで察していた。しかし、一瞬の躊躇いの後、希衣は一段とピッチを上げて、先行していた千帆を追い抜く。さらに先行する亜美と恵梨香を追う希衣は、ゴール前で亜美に追いつき、2位に入る。続くペア決勝では、恵梨香と希衣のペアが優勝するが、千帆と舞奈のペアは、4位で惜しくも関東大会を逃す。そしてフォア、転覆しないよう舞奈の体力を気遣いながらのレース、亜美たち越井戸高校と競る展開になるが、僅差で勝ち、ながとろ高校は全種目1位という成績を上げる。

 

(ここまで)

希衣と千帆が3年生として迎えた埼玉県大会で、ながとろ高校は、3種目とも1位という素晴らしい成績を上げ、インターハイ進出を決めたところで終わります。翌年は、希衣と千帆が抜けますし、加わるのが初心者の富歌だけですから、よほど優秀な新入生が加入でもしない限り、少なくともフォアで優勝することは無理です。「ながとろ高校カヌー部の栄光」という副題は、そうした意味で付けられたものだろうと思います。

新潮社から電子書籍の形で発行されていた「yomyom」は、2021年4月号(Vol.67)以降は発行されておらず、秋からウェブマガジンにリニューアルすることになったとアナウンスされていますが、現時点ではまだその詳細は不明です。本作も第2話で打ち止めとなった形で、そのため文庫本化に当たって書き下ろしが加えられたのでしょう。本巻では、第3巻までのペースとは変わって、一気に1年後の5月の埼玉県大会まで進んできましたが、千帆や希衣が高校を卒業するまでを描くだけでも、あと1~2巻は必要になるのだろうと思います。掲載誌の休刊が本作のこの後の進行にどう影響するのか気になりますが、続編も期待したいところです。