鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

スクリーンで観た映画を振り返る2021(実写映画)

アニメ映画に続いて、今年スクリーンで観た実写映画を、印象が強かった順に振り返ってみたいと思います。

◎ドライブ・マイ・カー

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村上春樹の短編小説を原作に、舞台俳優の男性の喪失からの再生を描いた作品。主人公たちのメインストーリーに、劇中劇の世界が交錯する巧みな構成で、本編179分という時間の長さを感じさせず、深い余韻の残る素晴らしい作品でした。(8月20日(金)公開)

ブータン 山の教室

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  • シェラップ・ドルジ
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電気も水道もない僻地の学校への赴任を命じられた若い教師が、親切な村人や純真な子どもたちに接する中で、少しずつ変わっていく姿を描いた作品。美しい風景と子どもたちの純朴さに心が洗われる映画でした。(4月3日(土)公開)

◎花束みたいな恋をした

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偶然に出会い、共通点の多さに互いに恋に落ちた大学生の2人が、大学を卒業し、社会人となっていく中ですれ違っていき、別れるまでの5年間を描いた作品。外見的に劇的な出来事が起きるわけではないのに、構成・展開が巧みで、世界に引き込まれ、最後まで見入ってしまういい作品でした。(1月29日(金)公開)

◎すばらしき世界

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殺人を犯し13年間の刑期を終えて出所した男が、かたぎとして生きていこうと努力する姿を描いた作品。元受刑者が社会復帰に苦労する姿が丁寧に描かれ、いろいろと考えさせられるいい映画でした。(2月11日(木)公開)

◎心の傷を癒すということ《劇場版》

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阪神・淡路大震災で被災した人々の心のケアに取り組んだ精神科医安克昌氏の著書を原案に、2020年にNHKで放送されたドラマを再編集し映画化した作品。心に傷を受けた人たちに寄り添おうとする姿勢、一見不謹慎な言動を発言を普通と違う視点から俯瞰して捉える洞察力など、普通の人間にはなかなかできないことで、そこに至るまでの主人公の歩み・成長の道のりも描くことで、説得力ある物語になっていました。(1月29日(金)公開)

◎そして、バトンは渡された

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血のつながらない親のもとで育った女性と、彼女を残して失踪した母親の物語、2組の血のつながらない親子の姿が交代しながら描かれますが、途中からその2組の親子の物語が結びついて、大きく物語が動いていきます。現実にはまず起こりえない、ある意味では夢のような設定なので、この設定にひっかかるかどうかで印象はだいぶ違ってくると思いますが、胸を打ついい作品でした。(10月29日(金)公開)

◎彼女が好きなものは

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思いがけず接近し普通の男女として付き合い出した、ゲイであることを隠して生きる男子高生と、BL好きであることを秘密にしているクラスメイトの女子高生を描いた物語。セクシャル・マイノリティの生きにくさや苦悩が正面から描かれていました。絶望の底に沈んでから、少しずつ癒えるように進んで希望を感じさせるエンディングに着地する後半の展開も良く、考えさせられる作品でした。(12月3日(金)公開)

◎マイ・ダディ

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妻に先立たれ、男手ひとつで娘を育ててきた牧師が、娘の難病発覚という事態に立ち向かう姿を描いた物語。構成も巧みで、父親の愛情、苦悩がうまく描かれ、じんわり心が温まるいい作品でした。(9月23日(木)公開)

◎偶然と想像

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偶然と想像をテーマに、3人の女性を描いた短編集。いずれも緻密に構成された会話劇で、脚本の巧みさが光っていました。特に第3話が印象的でした。(12月17日(金)公開)

◎MINAMATA―ミナマタ―

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写真家ユージン・スミスと当時の妻が水俣病を取材し1975年に発表した写真集「MINAMATA」を基に映画化したもので、報道カメラマンとして一時代を築いた主人公が、水俣病を世界に発信しようと水俣に向かい患者たちと向き合う物語。随所に挿入される当時の映像や写真も、作品の緊迫感を高めています。こうした悲劇を繰り返さないためにも、多くの人に観てほしい作品だと思います。(9月23日(木)公開)

◎ミュジコフィリア

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才能を持ちながらも父と兄へのコンプレックスから音楽を憎んできた主人公が、入学した芸術大学での出会いによって、才能が開花していく物語。現代においてクラシック音楽を創作する意味が何かを掴もうとする姿が描かれますが、中核は、音楽そのものというより、優れた才能を持つ異母兄弟が和解し、それまでの呪縛から解き放たれる過程を描いた物語と受け取りました。原作マンガの描写に引っ張られたのか、違和感が拭えないシーンもありましたが、印象に残るなかなか良い作品でした。(11月19日(金)公開)

◎映画 太陽の子

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太平洋戦争末期の「F研究」と呼ばれた日本の原爆開発の事実を基に、時代に翻弄されながら全力で駆け抜けた若者たちの姿を描いた青春群像物語で、2020年8月にNHKで放送されたドラマを基に、異なる視点から描いた作品。戦争末期、追い込まれた戦況で、戦争の先の未来を見通すことができない状況の中で、もがいていく若者たちの姿が心に迫る作品でした。これが最後の映画出演となった三浦春馬が役柄と重なって見えて、それが更に涙を誘うところもありました。(8月6日(金)公開)

◎浜の朝日の嘘つきどもと

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恩師との約束を果たそうと、東京からやってきた女性が南相馬にある古くからの映画館「朝日座」を立て直そうと奔走する姿を描いた作品。ところどころにクスっとさせる演出、現在の描写と回想シーンを交えながら、心地よい後味が残る作品に仕上がっていました。(9月10日(金)公開)

◎スパゲティコード・ラブ

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フードデリバリー配達員、シンガーソングライター、広告クリエイター、カメラマンなど、東京でもがく13人の若者たちの常を追った群像劇。さり気なく主要登場人物が交錯したり、脇役が複数の人物に関係していたりと、ディテールの作り込みが巧みで、焦点が当たる人物の移り変わりにも違和感を感じさせられることなく、予想以上にうまく作られている作品でした。(11月29日(金)公開)

子供はわかってあげない

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女子高生が、夏休みに幼い頃に別れた実の父親に会いに行く、ひと夏の冒険と成長、そして恋の物語。小ネタもいろいろ盛り込まれ主人公のマイペースっぷりは微笑ましく、やや冗長に感じる部分もありましたが、ホロッとするシーンもあり、爽やかな印象が残る作品でした。牛尾憲輔の音楽も印象的でした。(8月20日(金)公開)

◎BLUE/ブルー

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ボクシングを愛し努力を重ねるものの才能がなく試合に勝てない男、才能とセンスで日本チャンピオンを狙うまでに成長するが秘かにパンチドランカーに苦しむその後輩、恋する女性に好かれようと軽い気持ちでボクシングを始めた男性の3人を中心に、ボクシングに打ち込む若者の姿を描いた映画。平凡と非凡、憧れと嫉妬、友情と恋、それらが絡み合った複雑な想い、そして決して甘くはない現実に立ち向かう男たちの姿が巧みに描かれ、心に残りました。主演の松山ケンイチをはじめ俳優陣も好演でした。(4月9日(金)公開)

◎サマーフィルムにのって

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撮りたい時代劇を撮れずにくすぶる映画部の女子高生が、主役にぴったりの男性との運命的な出会いをきっかけに、映画制作に挑んでいく姿を、タイムリープの要素も加えて描いた作品。個々のシーンはややデフォルメ気味、展開もベタな感じですが、終盤になるにつれて次第にいい感じになってきて、予想外に涙腺が緩むシーンもあり、爽やかな後味が残る佳作でした。(8月6日(金)公開)

◎ひらいて

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成績も良く明るい、ある意味模範的な女子高生が、片思いの相手に既に恋人がいることを知って、意外な行動をとるようになっていく物語。ピンと張り詰めた雰囲気の中で、繊細である意味暴力的な思春期の少女の姿がうまく描かれた作品でした。山田杏奈と芋生悠の正反対な佇まいも印象的でした。(10月22日(金)公開)

夏への扉—キミのいる未来へ―

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1995年の東京でロボット開発に打ち込んでいたが、共同契約者と婚約者に裏切られ、30年間の眠りにつかされた科学者が、目覚めた2025年、奪われた人生を取り戻そうとする姿を描いた物語。いわゆるタイムリープものですが、よく構成された作品でした。冒頭から出てくる「ピートは夏への扉を探している」の意味は最後までよく理解できませんでしたが、前半部の舞台となる1995年の空気感も巧みに表現されていて、終盤に伏線が回収されていく部分も鮮やかでした。(6月25日(金)公開)

◎ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~

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1998年に開かれた長野オリンピックでのスキージャンプ団体の金メダルを陰で支えた25人のテストジャンパーたちの実話を基に映画化した作品。23年前の長野オリンピックをリアルタイムで体験したこともあるのだと思いますが、涙腺が緩むシーンもあり、感動するいい映画でした。(6月18日(金)公開)

◎おもいで写眞

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嘘が嫌いで頑固な若い女性が、お年寄りの思い出の場所で写真を撮る「おもいで写眞」を通じて、お年寄りたちに、忘れていた素晴らしい思い出との再会の機会を生み出し、笑顔を取り戻す手助けをする中で、自らも成長していく姿を描いた作品。突っ込みどころはありますが、富山の美しい風景も相まって、心が暖まり、心地よい余韻が残る映画でした。(1月29日(金)公開)

◎あのこは貴族

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東京の裕福な家のお嬢様と地方出身の女性が、出会いをきっかけに、なんとなく生きてきたそれまでの自分から、一歩踏み出して心が自由になっていく過程を描いた物語。理解が難しいところもありましたが、描写の対比も鮮やかで、なかなかいい作品だと思いました。(2月26日(金)公開)

◎街の上で

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古着屋で働く27歳の青年・荒川青の日常生活に起きる出会いや別れを描いた作品。前半は緩いテンポで進みますが、自主映画の話が出てから物語が動き始め、イハとの出会い、雪との復縁など描きながら、それまでの伏線を回収して見事に着地します。深く心に刺さるような物語ではありませんが、ベタなお笑いも交え、漂う雰囲気が心地よい佳作でした。(4月9日(金)公開)

犬部!

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行き場を失った犬と猫を保護し、草の根運動で里親募集や譲渡会を行っていた獣医学部の学生たちの実話を基に、獣医学部を出て獣医となった主人公が、劣悪な環境に置かれている犬たちを救おうとする姿を、学生時代の回想シーンを随所にはさみながら描いています。前半の展開はクサい感じもあり自分にはちょっと辛いところがありましたが、後半は良い感じになり、涙腺が緩むシーンもあり、全体としては、まあまあ良かった。(7月22日(木)公開) 

◎草の響き

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メンタルにダメージを負った主人公が走り続ける中で少しずつ癒えていく物語。ちょっと中途半端な印象を受けましたが、作品の雰囲気は良く、東出昌大奈緒などの佇まい、演技は印象的で、余韻が残る作品でした。(10月8日(金)公開)

◎うみべの女の子

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海辺の街で暮らす中学生の少女と少年が体だけの関係を続ける中で、互いの心情・関係が変化していく物語。2人の心情の移り変わりは、ちょっと分かりにくいところもあり、個人的にバイオレンス系の描写は苦手で観るのが辛い部分もありましたが、全体的な印象は悪くなかったです。(8月20日(金)公開) 

◎ハチとパルマの物語

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孤独だった少年と飼い主に空港に置き去りにされた犬との間に芽生える絆を描いた物語。お涙頂戴ものの典型的な展開だったようなところもあって、私自身は、涙するほどには感動しませんでしたが、いいお話でした。犬のパルマの演技も見事。(5月28日(金)公開)

◎恋する寄生虫

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極度の潔癖症の男と視線恐怖症の女子高生、社会に溶け込めない若い2人が寄生虫のせいで互いに惹かれ合っていく物語。CGも使った刺激的な映像、落ち着かない音楽で、尖った雰囲気のシーンが多く、うまく現実離れした作品の世界に引き込まれました。ところどころ腑に落ちない展開もありましたが、小松菜奈林遣都の演技の上手さもあって、最後まで一気に観させられました。(11月12日(金)公開)

◎しあわせのマスカット

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岡山県で高級ぶどう「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を使った果物和菓子に出会った女子高生が、自分のデザインした和菓子を作るという夢を叶えようと、和菓子会社に就職して奮闘していく姿を描く物語。物語の骨格自体は悪くないと思いますが、細部の展開や描写が安易な感じで、底が浅く感じられてしまい、心に響きませんでした。(5月14日(金)公開)

 

この一年でスクリーンで観た実写映画は合計29本でした。昨年よりも少し本数は減ったかもしれませんが、足を運んだのは最後の一本くらいで、いい映画を多く観ることができました。

昨年に続いて、公開延期などコロナ禍の影響が大きく出た一年でしたが、ワクチン接種が進んだりして、映画館での営業制限は以前ほどは厳しくなくなってきています。来年も素晴らしい作品に出会えるといいなと思います。