鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部 女神の化身Ⅴ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅴ」を読みました。

ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の第5巻で、2021年5月に刊行されています。第4巻に続いて読んでみました。

 

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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緑萌ゆる春。ローゼマインは領主会議に呼ばれた。星結びの儀式で神殿長役を務め、地下書庫では書写とお喋りに癒される。ところが、次期ツェント候補を巡る動きが活発化したことで、ローゼマインはフェルディナンドの連座回避を目指すことに。王族に強要されたのは、森の中の「祠巡り」。そこで触れる世界の深淵――祠に並ぶ神々の像、黄色の石板、謎の言葉、巨大な魔法陣。グリトリスハイトを手に入れたい王族に立ち向かう中、ついに迎える王子との前哨戦。

いざ、交渉へ!
平民育ちの商人聖女が見せる秘策とは!?「取れる時に、取れるところから、取れるだけ、取っておくもの……だよね!」

書下ろし短編×2本、椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた14節からなり、巻末に番外編の書き下ろし短編が2編、著者によるあとがきの後にはイラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

プロローグ

昼食時にジルヴェスター(順位8位の中領地・エーレンフェストの領主でローゼマインの養父)を訪れたボニファティウス(ジルヴェスターの伯父・カルステッドの父で、貴族としてのローゼマインの祖父)は、リヒャルダ(ローゼマインの筆頭側仕えだった上級貴族で、自ら望んでジルヴェスターの側仕えに戻った)の給仕、カルステッド(エーレンフェストの騎士団長で貴族としてのローゼマインの父)の護衛で一緒に食事をとる。ローゼマイン(主人公。エーレンフェストの領主候補生3年生で神殿長)を溺愛するボニファティウスは、祈念式でライゼガング系貴族(ローゼマインを次期領主に望む貴族たち)慇懃無礼な扱いを受けて態度が悪化したヴィルフリート(ジルヴェスターの息子・ローゼマインの義兄のエーレンフェストの領主候補生3年生でローゼマインの婚約者)を厳しく非難し、ブリュンヒルデ(ローゼマインの側近だった上級側仕え見習い5年生で、ジルヴェスターの第二夫人として婚約)たちが懐妊したフロレンツィア(ジルヴェスターの第一夫人で、貴族としてのローゼマインの養母)を支えている現状はまずいと注意する。さらに、ローゼマインの妙な噂が広まっていると話すと、ジルヴェスターは誰が噂を広めているのか情報を集めることにする。ボニファティウスは、神殿にこもって社交をせず、新しいことを次々に打ち出すローゼマインを心配する。

青色見習いと孤児院の子供達

祈念式が終わった春の半ば、神殿では、子供部屋にいた子供たちを青色見習いとして迎える。ローゼマインは神殿の生活について説明した後、ハルトムート(ローゼマインの側近の上級文官で神官長)たち側近から領主会議の星結びの儀式(結婚の儀式)の準備などの状況について報告を受け、メルヒオール(ジルヴェスターの次男でローゼマインの義弟。ローゼマインの成人後は神殿長職を引き継ぐことになっている)と孤児院に向かい、ヴィルマ(神殿でのローゼマインの側仕えで、孤児院担当)から最近の孤児院の様子を聞く。魔術具がないため貴族になれる道がなくやる気がなくなった子がいると聞いたローゼマインは、派閥などに関係なく孤児院で一定以上の魔力と成績を収めた者を救おうと思いつく。

養父様とおじい様の再取得

再取得の儀式にやってきたジルヴェスターとボニファティウスを迎えたローゼマインは、ボニファティウスから前ギーベ(地方の領主)・ゲルラッハ(企てを起こした貴族で逃走中)の館の捜索結果などについて話を聞くローゼマインは、マティアス(ギーベ・ゲルラッハの息子で、ローゼマインに名を捧げた側近の中級騎士見習い5年生)たちを救うのに名捧げを使ったことで、名捧げの意味が変わってしまう危険性を指摘される。
儀式を終えたジルヴェスターは、フェルディナンド(ジルヴェスターの異母弟で元神官長。ローゼマインの後見人だったが、王命により、順位6位の大領地・アーレンスバッハの領主候補生ディートリンデの婚約者となった)との関係について噂があることをローゼマインに話し、成長して周囲の見る目も変わってきている、フェルディナンドはもうローゼマインの後見人ではなく他領の者、すがって甘えていてはならない時がきている、これからの生を共にしていくヴィルフリートと支え合えるようにならなければならないと諭す。ローゼマインは孤児院の子を救う思いつきをジルヴェスターに提案するが、却下される。

領主会議での星結び

城に戻ったローゼマインは、領主会議に向かう準備状況を確認する。出発の日、ヴィルフリートと会話を交わすローゼマインは、その予想外の反応に引っかかるものを感じる。貴族院に着いたローゼマインは、エルヴィーラ(カルステッドの第一夫人で貴族としてのローゼマインの母。印刷関係事業を文官として取り仕切っている)たちと他領との取引について話をした後、領主夫妻を出迎える。
翌日、ローゼマインは、神殿長の儀式用衣装に着替えて星結びの儀式に臨む。イマヌエル(中央神殿の神官長)が、神事に必要な神具の闇のマントと光の冠がないことを非難すると、ローゼマインは、シュタープ(自分の魔力を効率よく使うための道具)を使って神具を作り、古い儀式のやり方が掛かれた文献に目を通す。王族が入場し、ジギスヴァルト(中央の第一王子)とアドルフィー(順位3位の大領地・ドレヴェンヒェルの領主一族でジギスヴァルドの婚約者の星結びの儀式を行い、2人に祝福を与える。
儀式を終えたローゼマインは、ハルトムートの誘導に従って早々に退場する。中央神殿に取り込もうとするイマヌエルは待ち伏せして声を掛けるが、振り切って帰る。

地下書庫での作業

ローゼマインは、儀式の後に他領の貴族から質問攻めにあったジルヴェスターから呼び出しを受ける。ローゼマインは経緯を説明し、ハルトムートはイマヌエルは神殿に残る古い儀式を蘇らせる魔力を持つローゼマインを狙っていると警戒を促す。
翌日、ローゼマインは、オティーリエ(ローゼマインの筆頭側仕え)、リーゼレータ(ローゼマインの側近の中級側仕え)、アンゲリカ(ローゼマインの側近の中級護衛騎士でリーゼレータの姉)、レオノーレ(ローゼマインの側近の上級護衛騎士)コルネリウス貴族としてのローゼマインの兄で、側近の上級護衛騎士。レオノーレの婚約者)ダームエル(ローゼマインの側近の下級護衛騎士)を連れて貴族院の図書館に向かう。
シュバルツとヴァイス(図書館の管理を手伝う魔術具)が出迎え、執務室に入ると、アナスタージウス(中央の第二王子)、エグランティー(アナスタージウスの第一夫人で貴族院の教師。順位1位の大領地・クラッセンブルクの元領主一族ヒルデブラント(中央の第三王子)、ハンネローネ(ローゼマインの図書委員仲間で、順位2位の大領地・ダンケルフェルガーの領主候補生3年生)のほか、初めて会うマグダレーナヒルデブラントの母で中央の王の第三夫人。ダンケルフェルガー出身)がいた。挨拶を終え、地下書庫に向かった一行は、アナスタージウスの号令によって、古い文献を現代語に訳しながら書き写す。
昼食のとき、ローゼマインは、星結びの儀式の際に、ジギスヴァルトとアドルフィーネが立っていた舞台に魔法陣が浮かび上がっていたことを聞かされる。
午後も作業を続けていると、ディートリンデが図書館にやってきたとの知らせが入る。

次期ツェント候補

ソランジュ貴族院の図書館の司書の中級貴族)の勧めで、ローゼマインたちは閉架書庫に隠れる。図書館への入館登録を終えたディートリンデが閉架書庫に入ってくる。真のツェント(中央の王)になるのは自分だと高笑いをし、アウブ(各領の領主)になる前にグルトリスハイト(本来はツェントになるために必要とされる古の聖典を手に入れられるはずと自信満々に語るディートリンデの様子に、ローゼマインはフェルディナンドが不敬罪連座になるのではと心配になる。オルタンシア貴族院の図書館の司書。クラッセンブルクから中央に移った上級貴族)は、その高笑いを遮り、シュラートラウムの花は今年も美しく咲くのでしょうかと尋ね、アーレンスバッハでしか手に入らない夫が好きな花だそうだ、ゲオルギーネ(アーレンスバッハの第一夫人でジルヴェスターの姉)に伺ってみては、とローゼマインたちに利かせるように話す。
ディートリンデが閉架書庫を出た後、ローゼマインたちは、ソランジュの案内で非常口のようなところから図書館の裏側に出る。誰かに見つからないよう森に向かうと、祠のような小さい白い建物を見つける。
魔力を使って建物を綺麗にし、扉の前に座って休憩しようとしたローゼマインが扉に触れると、閉まっているはずの扉に吸い込まれる。それは火の神ライデンシャフトを祀った祠だった。ローゼマインが祈りを捧げると、魔力がライデンシャフトの持つ青い石板に吸い込まれ、メスティオノーラ(英知の女神)の書を手に入れるための言葉「クレフタルク」を得る。
次の瞬間、ローゼマインは祠の外に戻っており、全く時間が過ぎていないようだった。ローゼマインは、メスティオノーラの書がグルトリスハイトだった場合、手に入れるのは非常にまずいと考えるが、相談できる人が思い浮かばない。

祠の場所

地下書庫に戻り、マグダレーナに祠があったことを報告すると、他にも祠があるかもしれないと話す。ディートリンデの様子を尋ねられて詳しい話を避けるマグダレーナの様子に、ディートリンデの不敬が過ぎてフェルディナンドが連座になる可能性が高いと不安になったローゼマインは、メスティオノーラの書をこっそり探そうと、祠の位置を記した地図がないかシュバルツに尋ね、シュバルツが出してきた地図を書き写す。
ジルヴェスターの迎えで図書館を出たローゼマインは、ディートリンデが来たことや会話の内容を報告し、ゲオルギーネとラオブルート(中央の騎士団長で、オルタンシアの夫)の間に何らかの関わりがありそうなことを話す。
寮に戻ったローゼマインは、本棚にある地図と書き写した地図を突き合わせてみると、ほぼ等間隔で円周上にあることがわかり、翌日、図書館に行った際、それをアナスタージウスに報告する。

相談

アナスタージウスたちと祠を見に行ったエグランティーヌが戻ってくると、ローゼマインに相談したいことがあると言い出す。同席を求めるアナスタージウスとそれを拒むエグランティーヌで言い合いになるが、マグダレーナが仲裁に入り、その場を収める。
寮に戻ったローゼマインは、迅速に祠を回れるよう、アンゲリカとダームエルに地図をもとに祠の場所を探してもらうようお願いする。
2日後、エグランティーヌとのお茶会に向かったローゼマインに、エグランティーヌは、祠に行き、その扉に触れた途端、祠の中に引き込まれたこと、魔力を奉納したが魔力が尽きて、魔石にはまだ祈りが足りぬと刻まれていたこと、アナスタージウスは中に入れなかったらしいことなどを話し、次期ツェント候補が祈りを捧げる祠ではないかと語る。加護の再取得を行ったことでアナスタージウスも全属性となったのに、自分と何が違うのか疑問に思うエグランティーヌに、ローゼマインは、シュタープを得るときに属性が足りなかったためだと説明し、シュタープの取得時期を以前のように卒業前に戻して、ヒルデブラントが属性を増やしていけば次期ツェント候補になれると思うと話す。ジギスヴァルトが次期ツェントと発表されており、自分やヒルデブラントが候補となれば、また国が荒れるとエグランティーヌは心配するが、ローゼマインは、グルトリスハイトがないこと自体が国が荒れている原因、王族以外の者が得ることに比べれば、王族が手にした方が混乱は少ないと話す。多分自分が一番グルトリスハイトに近いところにいると思うローゼマインは、余計なことは何も言わない方がいいと考える。

祠巡り

アンゲリカとダームエルから地図にある祠の位置を調べ終わったと報告を受けたローゼマインだが、祠に行く時間がない。しかし、いつものように図書館に向かったローゼマインに、エグランティーヌがアナスタージウスと一緒に祠に行こうと声をかける。王族の監視下で確実に自分が祠に入る状況を作るつもりだと直感したローゼマインは重い気分になり、2人と一緒に図書館を出る。向かった祠は闇の神シックザントラハトを祀った祠で、祈りを捧げたローゼマインは「ヴィレデアール」の文字を得る。
次の祠に向かう途中、アナスタージウスからジギスヴァルトの第三夫人になってもらうと宣言されるが、エーレンフェストのことを考えない2人の態度にローゼマインは反発する。フェルディナンドの連座を回避させようとするローゼマインに、それを利用することを躊躇わないアナスタージウスは、星結びの儀式が延期された1年以内にグルトリスハイトを手に入れろと告げる。
ローゼマインは、次々と祠を回り、風の女神シュツェーリアを祀った祠で「タイディヒンダ」の文字、命の神エーヴィリーベと土の女神ゲドゥルリーヒを祀った祠で「ナイグンシュ」「トレラカイト」の文字、光の女神フェアシュプレーディを祀った祠で「アオストラーク」の文字、水の女神フリュートレーネを祀った祠で「ロームベクーア」の文字を得る。
全ての祠を巡り終わり、「メスティオノーラの書に手を伸ばせ」という言葉まで得たローゼマインは、シュタープが成長していることを感じる。図書館に戻るローゼマインは、祠と祠を結ぶ光の線が巨大な魔法陣を描き出しているのを見て、とんでもないことが起こっていると嫌な予感がする。

地下書庫の更に奥

図書館に戻ると、アナスタージウスは父や兄に報告しなければならないと忙しなく戻る準備を進める。そこにヴァイスがやってきて、ローゼマインを地下書庫のさらに奥に連れていく。
シュバルツが案内したのは、複雑な魔法陣が浮かび上がっている扉だった。シュバルツたちに言われて魔法陣に触れるが、バチっと音がして弾かれる。王族登録がないと入れないとのシュバルツたちはの言葉を聞き、1年以内にグルトリスハイトを手に入れる確実な方法が消えたと目の前が真っ暗になるローゼマインは、力任せに扉を叩くが、危険と判断したシュバルツたちに止められて戻る。
王族でなければグルトリスハイトが手に入れられないと知ったアナスタージウスは、第三夫人にするという発言を撤回する。

お手紙とお話

ローゼマインがジルヴェスターと寮に戻ると、ヒルシュール貴族院の教師でエーレンフェストの寮監)がフェルディナンドの手紙を持って来ていた。手紙が入った箱には、図書館の魔術具の研究資料が入っていたが、ヒルシュールに取り上げられてしまう。夕食後、自分宛ての手紙を隠し部屋で読むローゼマイン。手紙には、来年の領主会議までに最高品質の魔紙をできるだけ数多く用意してほしいと書かれていた。土産として魚を準備するとの言葉に、ローゼマインは俄然やる気になる。しかし、その後に書かれていた内容は、古い儀式をよみがえらせたい中央神殿がローゼマインを神殿長に入れたがっていること、それにアーレンスバッハが加勢し、ゲオルギーネが他領の領主夫妻を煽っており、エーレンフェストの旗色が悪くなっていること、王命でヴィルフリートとの婚約解消は可能だが、中央に移動させるために必要なジルヴェスターとの養子縁組の解消は王命だけではできないことなど、憂鬱になる現状報告と、王族からの申し出は基本的には断るのではなく、時間を稼ぐようにとの忠告だった。
ジルヴェスターは、王族からの要求は断っており、ツェントは言い分を認めてくれたが、2日後にはまた王族に呼ばれていることをローゼマインに話す。ローゼマインは、これから先は断るのが難しくなるかもしれないと、自分が次期ツェント候補に最も近いこと、婚約解消を申し渡されるのが確実であろうことをジルヴェスターとフロレンツィアに打ち明け、王族はエーレンフェストの利益を考えないので、利益を得るため交渉条件を決めるべきと話す。

商人聖女

熱を出したため、1日図書館に行くのを休んだローゼマインは、ジルヴェスターたちが王族の呼び出しを受けた日、図書館に行く。ヒルデブラントは、ハンネローネやマグダレーナがいない間に、私は貴女を助けたい、とローゼマインに話すが、ヒルデブラントがローゼマインに接触しないよう監視するマグダレーナに見とがめられる。地下書庫で作業を進めていると、ローゼマインが次期ツェント候補と知ったジギスヴァルトが話をしたいとやってくる。グルトリスハイトを手に入れるのはエグランティーヌにお願いしてほしいと話すローゼマインに、王族にはその余裕がないと、魔力が足りず魔術具の1つが先日崩壊したことなどを話し、早急にローゼマインを王族に取り込んでグルトリスハイトを手に入れ、魔力と貴族たちを従える権力が必要だと訴える。ローゼマインはエーレンフェストの事情を話し、魔力は何とかするので1年分の時間がほしいと申し出る。自分の勝利条件を考えるローゼマインは、領主会議の最終日に奉納式を行い、アウブたちから魔力を得ることを提案し、ジギスヴァルトを追い込んで認めさせる。

王の養女になる条件

奉納式の話の後、ローゼマインは印刷や神殿で自分が責任者として仕事をしているため、引き継ぎと準備のために時間が必要であることをジギスヴァルトに理解させ、1年の準備期間だけでは自分を失うエーレンフェストの損失を埋めることはできない、利益を載せていただかなくてはとても対応できない、と話し、決定権はアウブにあると予防線を張った上で、王の養女になるための自分の条件として、フェルディナンドの婚約を解消しエーレンフェストに返してもらうことを提案するが、今アーレンスバッハを潰すことはできない、と断られ、フェルディナンドの連座回避と待遇向上、エーレンフェストと他領との婚姻は、エーレンフェストに入れる者に限ることなどの条件を上げて認められるが、自分の図書館がほしいとの要望には難色を示される。

得られた条件

ジギスヴァルトとの話を終えたローゼマインは、その内容をジルヴェスターに説明する。その2日後、再び王族から呼び出されて話し合いに向かったジルヴェスターは、怒った顔で戻ってくる。ジギスヴァルトへの不敬を責めた後、ジルヴェスターは会合の様子を説明し、アナスタージウスはローゼマインに政治ができるはずがない、できるだけ早くグルトリスハイトを取り上げるべきなどと主張して、ツェント・トラオクヴァールに怒られ、ローゼマインとの接触を禁止されたこと、図書館設置以外の条件はほとんど受け入れられたことなどを話す。図書館が認められず一気に気分が沈むローゼマイン。
さらにジルヴェスターは、提案どおり奉納式を行った後、1年かけてトラオクヴァール王とジギスヴァルドがグルトリスハイトを手に入れることができないか挑戦し、できなければローゼマインを予定どおり養女にすること、来年の領主会議の頃にエーレンフェストの養子縁組の解消と王との養子縁組を行うまでの間、表向きは現状維持とすることを告げる。
後日、王族から招待状が届き、領主会議の最終日に王族主催で奉納式を行うことが告げられる。

領主会議の奉納式

寮にやってきたヒルシュールは、王族の意見で貴族院の講義が見直され、シュタープの取得が3年生に戻されたこと、貴族院の講義に奉納式が取り入れられないか打診があったが、教師陣にノウハウがないため数年間はエーレンフェストとクラッセンブルクの共同研究として奉納式を行い、いずれ講義に組み込むことになったことなどを話す。
領主会議の最終日の奉納式を迎える。控え室で待ち構えていたイマヌエルは、近いうちに中央神殿の神殿長にお迎えできそうで非常に嬉しいと話すが、ハルトムートは領主一族が中央に移動できるのは婚姻によってのみで、結婚した者は神殿長になれない、中央に移動することがあっても、ローゼマインが神殿に入ることはあり得ないと指摘すると、イマヌエルは衝撃を受けた顔になる。
儀式の時間になり、神殿長の服装をしたローゼマインは会場の講堂に入場する。ローゼマインが祈りを捧げ、参加者が復唱していくと、中央の聖杯に赤い光の魔力が流れ込んでいく。ローゼマインは魔力を取り過ぎない程度で儀式を切り上げるが、魔力が少ない中央神殿の青色神官や青色巫女は倒れて意識を失う。ローゼマインが奉納式の意義を説明し、回復薬を作るために必要な採集場所を回復させる祈りの言葉を教える。

エピローグ

領主会議が終わった日の夕食で、ヒルデブラントは、マグダレーナから奉納式の様子を教えてもらう。楽しそうに話をするマグダレーナを見て、未成年で神事に参加できなかったことを悔しく思うヒルデブラント。ローゼマインは中央に迎えるべき人材だと話すマグダレーナは、ローゼマインを中央神殿の神殿長にとの要望に、若い文官が、王族の管轄である中央神殿には王族が就くのが筋だと、ヒルデブラントを成人までの間神殿長に就ける代替案を提案したが、そのような状況にはさせないこと、ヒルデブラントがアーレンスバッハに婿入りするまでには必ずディートリンデを排除することを話す。ヒルデブラントは自分がツェントになってローゼマインを助けたいと話すが、マグダレーナはそれを諫める。
様々な不満を溜め込んだヒルデブラントは、ラオブルートと剣の稽古を行う。ヒルデブラントが悩んでいる様子なのを察したラオブルートが尋ねるが、それに触れてほしくないヒルデブラントは、話題を変えるために、図書館でオルタンシアがディートリンデに尋ねていたシュラートラウムの花の話をする。ラオブルートは驚愕して一瞬沈黙するが、動揺を隠す笑みを浮かべ、花について説明した後、話題を元に戻す。何か答えなければいけない気がしたヒルデブラントは、貴族院のカリキュラム変更に対する文句を口にするが、ラオブルートは、少しでも良いシュタープを得ることができるようにとの親心だと諭し、ヒルデブラントは、少しでも早くシュタープを得るため、魔力圧縮と属性の増加に励むことを心に決める。

 

さらに、番外編の書き下ろしが2編収められています。

望まぬ結婚

ジギスヴァルトの第一夫人として、望まぬ結婚をすることが決まっているアドルフィーネは、貴族院の卒業式の数日後、ディートリンデの奉納舞で一瞬浮かび上がった魔法陣について、エーレンフェストから情報収集をしたオルトヴィーン(ドレヴァンヒェルの領主候補生3年生で、アドルフィーネの弟)から話を聞く。魔法陣が浮かんだだけでは次期ツェントにはなれないとの話に、婚約を解消できる絶好の機会を逃したと落胆する。
季節が過ぎ、領主会議を数日後に控えた春の終わり、アドルフィーネはジギスヴァルトからの呼び出しを受けると、ナーエラッヒェ(ジギスヴァルトの第二夫人)の出産のため、夫婦生活はしばらく延期するが、星結びの儀式は延期せずに強行することを告げられる。屈辱を感じて怒りを覚え、心が一気に冷めたアドルフィーネは、夫婦生活のない花嫁として周囲に軽んじられることは看過できないと、両親たちに直接王族側の事情を説明することを求め、席を立つ。
星結びの儀式の当日、ドレヴァンヒェルを離れる寂寥感と全く希望を抱けない結婚への不安を吞み込んで、儀式に臨む。領主会議の最終日になって、アドルフィーネは、ジギスヴァルトから、ローゼマインを王の養女にし、成人後は自分の第三夫人として迎い入れると聞かされる。話を聞くうちに、自分に対する扱いとの違いを感じて別れの女神に祈るアドルフィーネだった。

シュラートラウムの花

貴族院図書館の司書の仕事にやりがいを感じるようになっていたオルタンシアは、帰宅した途端、ラオブルートから内密の話があると呼ばれる。ラオブルートは、魔力供給を止めていた王宮にある古い魔術具が崩壊し、同じような危険がないか王宮が大慌てになっていると話し、オルタンシアは、翌日から領主会議まで司書寮に泊まり込んで貴族院の図書館や文官棟にも同じような魔術具がないか調べることになる。
司書寮への移動中、オルタンシアは、偶然見かけた中央騎士団の副団長のロヤリテートから、中央神殿の中が、貴族に役目を奪われてはならないとする神殿長派と貴族を利用して古い儀式を再現して神殿の威光を取り戻そうとする神官長派に分かれていること、ラオブルートが騎士団に連絡なしで単独行動することを増えていることなどを話した後、中央騎士団が魔獣討伐に協力した際、ゲオルギーネがシュラートラウムの花が美しく咲いていると女性を必要とする騎士をある場所に案内したが、ラオブルートは女性ではなくそこの花瓶に飾られていた白い花を所望したと話す。
図書館にやってきたアナスタージウスは、嫁取りディッターでの中央騎士団の騎士の暴走の原因と思われるトルーク(匂いを嗅ぐと幻覚症状、陶酔感をもたらす植物)について話をし、調べるよう依頼する。シュバルツとヴァイスを連れて薬草についての記述を調べると、特殊な立場の女性に使われる薬の素材が「シュラートラウムの花」と呼ばれていたことが分かる。
その頃、オルタンシアが側仕えのディルミラを自宅にお遣いに出すと、ラオブルートがイマヌエルと1人だけで何らかの交渉をしていた。オルタンシアは、調査結果をアナスタージウスに報告し、シュラートラウムの花がトルークである可能性はあるが不明であること、時代を下ると、女性を示す言葉として使われるようになったことや、ロヤリテートから聞いたことなどを話す。アナスタージウスは、ディートリンデが図書館に行くよう仕向けるので、シュラートラウムの花という名称がアーレンスバッハで一般的なのか確認してほしいと依頼する。オルタンシアは図書館にやってきたディートリンデに尋ねるが、本人も側近も不可解そうな顔をする。
領主会議が終わって、自宅に戻ったオルタンシアは、シュラートラウムの花について誰から聞いたのか問い詰められる。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「愛情倍増」「美形です」「最重要事項」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

ローゼマインが次期ツェントに最も近い立場にあることを知って、王族がローゼマインを取り込みにかかり、王の養子、成人後はジギスヴァルトの第三夫人とすることが内々のうちに決まり、ヴィルフリートとの婚約、ジルヴェスターとの養女契約が解消されることになります。この1巻で、かなりローゼマインの立ち位置が大きく変わってしまいました。次巻以降さらにどのような変化が起こるのか、気になるところです。